12話
その後、どうやって戻って来たのかは覚えていない。
気が付けば、馬車は自宅の前で止まっていた。
レオリオにエスコートされ、馬車を降りる。
手が触れても、もう胸の高鳴りは感じられなかった。
「今日はありがとうな! フィオナにも、上手くいくよう応援してもらえたら嬉しい」
そう無邪気に笑うレオリオの顔を、まともに見ることができなかった。
「……うん」
それだけ答えるのが精一杯で、私は彼の横をすり抜けた。
「じゃあな!」
明るい声が背中に投げかけられる。
恨めしく思いながらも、返事をすることすらできず、私は足早に邸へ向かった。
途中で、ふと足を止める。
未練がましく、振り返った。
――もしかしたら、見送ってくれているかもしれない。
そんな、淡い期待を抱いて。
けれど振り返った先で、馬車はすでに動き出していた。
それはまるで、私の想いに対する答えのようで。
胸の奥がきゅっと縮まり、私は弾けるように走り出した。
邸に入ると、心配そうな顔をした父が出迎えてくれたが、何も言えず、私はそのまま自室へ駆け込む。
扉を閉めた瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。
浮かれていた自分が、情けなくて腹立たしい。
どうして私は、同じことを繰り返すのだろう。
期待しては、傷ついて――それでもまた、期待してしまう。
『セレーナにプロポーズしようと思っててさ』
照れくさそうに笑うレオリオの顔が、鮮明に浮かぶ。
彼の想いに気付いてはいた。
けれど、はっきりと言葉にされたのは初めてだった。
もう、ほんの僅かな期待すら――抱けない
髪に結ったリボンを乱暴に解き、床へ投げ捨てる。
その拍子に、鏡に映った自分の姿が目に入った。
セレーナの真似をして選んだ、淡い緑のドレス。
セレーナの真似をして伸ばした髪。
どれだけ似せようとしても、私はセレーナにはなれない。
どれだけ願っても、レオリオが私を見ることはない。
涙で歪んだ自分と目が合い、どうしようもなく悲しくなった。
衝動のまま、机から鋏を掴む。
無造作に髪を掴み、迷いなく刃を入れた。
切り落とされた髪が、はらはらと床に落ちていく。
夕日の光を吸い込んだ、くすんだ金色。
静かに散っていくその様子が、まるで自分自身のようで。
堪えきれず、私は床に突っ伏し、声を殺して泣いた。




