11話
到着したレストランは、最近できたばかりの話題の店だった。
小洒落た雰囲気に、自然と背筋が伸びる。
運ばれてくる料理はどれも美しく盛り付けられている。
「どうかな? 美味しい?」
レオリオが、珍しく不安そうに問いかけてきた。
「うん、美味しいよ」
そう答えはしたものの、正直なところ味はよく分からなかった。
レオリオと向かい合って座っているだけで、胸がいっぱいだったから。
それでも、その言葉を聞いた瞬間に安堵したような表情を浮かべるレオリオを見て、思わず笑みがこぼれた。
食事の後は劇場へ向かい、ロマンチックな歌劇を観覧した。
その後も、いくつかの店を覗いて歩く。
ふと、ショウウィンドウに映るレオリオと自分の姿が目に入った。
年若い男女が二人並んで歩いている。
周囲には、どんなふうに映っているのだろう。
――もしかしたら、恋人同士に見えているかもしれない。
そう考えただけで、口元が緩んだ。
日が傾き始めた頃、最後に訪れたのは王都を一望できる丘の庭園だった。
夕日を浴びた街並みが、息をのむほど美しい。
びゅう、と風が吹き、思わず肩をすくめる。
なぜだか、以前アディエルが掛けてくれたマフラーの温もりを思い出した。
「フィオナ」
呼ばれて振り向くと、そこには真剣な表情のレオリオがいた。
「どうしたの?」
「……今日一日、どうだった? 楽しかった?」
短く整えられた髪を指先で弄りながら尋ねる姿が、どこか彼らしくなくて首を傾げる。
「うん。とっても楽しかったよ」
レオリオと一緒なら、きっとどこへ行っても楽しかっただろう。
でも今日は、それ以上に――
特別な意味を持つ一日だった。
返事を聞いたレオリオは、ほっと息を吐き、心底安心したように笑った。
「よかったぁ……」
その様子に、胸が温かく満たされる。
私のために、いろいろ考えてくれたのだと思えて。
――しかし。
「実はさ。フィオナに話したいことがあって」
その一言で、胸の奥に冷たいものが広がった。
先ほどまで軽やかに鳴っていた心臓が、警鐘のように耳の奥で響き始める。
聞きたくない。
逃げ出したい。
そう思っても、足は動かなかった。
私の異変には気づかないまま、レオリオは続ける。
少し頬を赤らめながら。
「俺、セレーナにプロポーズしようと思っててさ。そのときに、今日回った場所を一緒に行こうと思ってるんだ」
言葉が、胸に突き刺さる。
「フィオナとセレーナは姉妹だろ?
だから好みも似てるかなって思ってさ。
今日、付き合ってもらったんだ」
――ああ。
分かっていたじゃないか。
レオリオが、私を選ぶはずがないことくらい。
彼の想いは、最初からずっとセレーナだけを向いていた。
今日一日は、セレーナにプロポーズするための“予行練習”。
私は、そのための代役。
……いや、代役ですらなかったのかもしれない。
私を見つめているようで、
彼の瞳に映っていたのは、最初からセレーナだったのだから。
足元が、音もなく崩れていく感覚がした。
「もう、伯爵からの許可も取り付けててさ」
嬉しそうに語るレオリオの声に、
出掛け際に見た父の、あの気まずそうな表情が脳裏をよぎる。
「……そう、なんだ」
それだけ言うのが、精一杯だった。
その後もレオリオは何か話していたはずなのに、
言葉はひとつも耳に入らなかった。
ただひたすらに――
この時間が、早く終わってしまえばいいと。
夕焼けに染まる街を背に、
私は静かに、何かが終わっていく音を聞いていた。




