10話
レオリオとの約束当日。
私は朝早くからクローゼットをひっくり返し、服を着ては脱ぎ、また着替え……と、落ち着きなく繰り返していた。
約束の日までの数日間、私はずっと雲の上を歩いているようだった。
朝目覚めるたび、夢だったのではと疑い、夢ではないと分かると、にやけそうになる顔を必死で引き締める。
メイドのレイラが何か言いたげにこちらを見ていたが、気づかないふりをした。
――何を言いたいのかは、私にも分かる気がするから。
髪を整え、リボンを選ぶ。
青色のリボンを手に取ってみたが、すぐに戻す。
いつものように髪をひとつに束ね、黄色いリボンを結ぶ。
レオリオの瞳と、同じ色。
ちょうど結び終えたところで、レオリオが到着したという知らせが届いた。
高鳴る気持ちを抑え、できるだけゆったりと動く。
けれど廊下に出た途端、足は自然と速くなっていた。
階段を降りると、父と母がいた。
母は身支度を整えた私を見て、にこやかに言う。
「お出かけ? 楽しんできてね」
父は少し気まずそうに笑い、何か言いかけたが――
外で待っているであろうレオリオの姿が頭を占めていた私は、
「いってきます!」
そう言い残し、足早に外へ出た。
門扉の前には、ブレイシア侯爵家の馬車。
その傍らに、レオリオが立っている。
「レオリオ!」
思わず名前を呼ぶと、振り返った彼が笑顔で手を振った。
いつもより、ずっと眩しく見える。
近づくと、レオリオは自然に手を差し出してくれた。
「行こうか」
こんなふうにエスコートされるのは、いつもセレーナだった。
――けれど今、その手を取るのは私。
そう思っただけで、胸が高鳴る。
「ありがとう」
そっと手を取り、馬車に乗り込む。
向かいに座ったレオリオは、終始にこにこと笑顔を向けていた。
「昼、食べた?」
「ううん、まだ」
「良かった。実は、レストランを予約してるんだ」
何気ないやりとりが、まるで夢の中の出来事のようで。
嬉しくて、胸がきゅっと締めつけられる。
――どうして、こんなにも涙が出そうになるのだろう。
コンコン、とレオリオが合図をすると、馬車はゆっくりと走り出した。
二人きりの馬車の中。
外の景色が流れていくのを眺めながら、私はそっと願う。
(このまま、時間が止まってしまえばいいのに)
幸福に包まれた静かな揺れの中で、私はその願いを胸に抱いたまま、前だけを見ていた。




