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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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104話


「ずるい! 私も名前で呼びたい!」


そう言って頬を膨らませるマリアンヌ様の姿に、私とローズは顔を見合わせ、思わず苦笑した。


ローズへ、その後の出来事を報告しようと手紙を送ったところ、「それなら皆でお茶をしましょう」と返事が来て、こうしてローズの家に集まることになったのだ。


その時、私たちが自然に名前で呼び合っているのを見て、どうやらマリアンヌ様は拗ねてしまったらしい。


「そんな顔しないで、マリアンヌ」


ローズがそう呼ぶと、マリアンヌ様は不貞腐れた顔から、ぱっと笑顔に変わった。


「私も、名前で呼んでいい?」


「もちろん」


暖かな陽射しが差し込む庭園で、顔を見合わせて笑い合う。

この穏やかな空気が、胸の奥をそっと撫でてくれた。



「それで、その後、小公爵様とはどうなったの?」


そう尋ねるローズの視線は、とても柔らかい。

まるで、聞かなくても結果は分かっている、と言うように。


私は一つ頷き、アディエルとのことを話した。

セレーナやレオリオのことも、掻い摘んで伝えると、マリアンヌ様は悲しそうに表情を歪める。



話し終え、いつの間にか落としていた視線を上げると、そこには温かく微笑む二人の顔があった。


「よかったね、フィオナ!」


「私は、お兄様と結婚してもらえなくて残念だわ」


ローズはわざとらしく肩を竦めるが、その表情はどこか嬉しそうだった。


「それにしても、セレーナ様って……相変わらずなのね」


マリアンヌ様は焼き菓子に手を伸ばしながら、少し口を尖らせる。


「どういうこと?」


意味が分からず首を傾げると、ローズとマリアンヌ様は互いに顔を見合わせた。


言っていいものか迷っているような、その仕草に、私はますます首を傾げる。


「フィオナのご家族を悪く言うのは気が引けるのだけれど……」


そう前置きして、ローズは迷うように視線を彷徨わせた。


すると、その沈黙を埋めるようにマリアンヌが言葉を引き継ぐ。


「セレーナ様って、なんて言えばいいのかしら……フィオナに対する対抗心が、すごく強いのよね」


「対抗心……?」


思いもしなかった言葉に、思わず聞き返す。

ローズは控えめに、けれど確かに頷いた。


「お茶会で一緒になると、話題はいつもフィオナのことばかりだったの」


そのときのことを思い出したのか、ローズは眉を寄せる。

その表情だけで、それが決して好意的な内容ではなかったことが伝わってきた。


「それに……」


マリアンヌは言いづらそうに言葉を濁し、こちらをちらりと見る。

私は大丈夫だと示すように小さく頷き、先を促した。


「夜会で、フィオナに想いを寄せる男性が現れると……次の夜会では、その方はセレーナ様と一緒にいるの」


「え…?」


「まるで、フィオナをわざと孤立させているみたいで……。正直、私は好きになれなかったわ」


ローズとマリアンヌの口から語られるセレーナの姿に、私は言葉を失った。


私の知るセレーナは、誰からも愛され、自然と人の輪の中心にいる存在だったから。



「とにかく、フィオナがソラリス家を離れて本当に良かったわ」


ローズは、重くなりかけた空気を払うように、ぽんっと軽く手を叩いた。


「そうね……まあ、一番喜んでいるのは小公爵様でしょうけど」


くすくすと笑い合うローズとマリアンヌの姿に、なんだかむず痒くなって、私は思わず視線を逸らした。


「結婚式のドレスは、もう決めたの?」


マリアンヌが身を乗り出して尋ねてくる。

その瞳は、楽しそうにきらきらと輝いていた。


「まだ、全然」


日取りは私の誕生日に決まったものの、他は何一つ手を付けられていない。


「あら、そんな呑気じゃ間に合わないわよ」


お茶を口に運びながらローズが言うと、マリアンヌも大きく頷いた。


それから三人で、ドレスはどんなものが良いか、相手と一緒に選ぶのか、それとも一人で選んで当日にお披露目するのか――

話題は尽きることなく、笑い声が庭園に溶けていった。



しばらくして、モンテーヌ家の執事が静かに近づいてくる。


「ランフォード小公爵様がお見えです」


その一言に、マリアンヌとローズが顔を見合わせ、にっこりと微笑んだ。


「本当に、小公爵様ってフィオナのこと溺愛しているよね」


「まあ……初めてお会いした時から、そうだったけれど」


「え?!」


思わず声を上げると、二人は呆れたような表情を浮かべた。


初めて、というのは――王宮で開かれた、あのお茶会のことだろう。


そんな頃から、アディエルが私を想っていたなんて、考えたこともなかった。


「小公爵様がフィオナのこと大好きだって、気づいていなかったのはフィオナだけだったと思うよ」


マリアンヌの言葉に、ローズも同意するように頷く。


「そもそも、お茶会に迎えに来るなんて、あまりないことだもの」


「そ、そうなの……?」


知らなかった事実に、頬がじんわりと熱くなる。


そんな私を見て、二人は堪えきれないといった様子で、声を上げて笑うのだった。



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