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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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110/137

100話


「わぁ……綺麗……」


想いを確かめ合った翌日、私はアディエルと共に、王都の外れにある湖までやってきた。


目の前に広がるコバルトブルーの水面は、陽の光を受けてきらきらと輝いている。


その美しい景色を食い入るように見つめていると、隣に並ぶアディエルが、そっと私の肩を抱いた。


「気に入った?」


「とっても」


見上げれば、優しく微笑むアディエル。

彼の髪もまた陽の光を受けて輝き、いつも以上に格好良く見えて、胸の奥が跳ね上がった。



景色を存分に楽しんだあと、私たちは大きな木の下に敷物を広げ、公爵家の料理人が持たせてくれたバスケットを開く。


クロワッサンのサンドウィッチとサラダ。

それにクッキーとマドレーヌ。

大きなポットには、温かな紅茶が入っていた。


「はい」


アディエルが、サンドウィッチをひとつ手渡してくれる。


中身は生ハムとチーズに葉野菜。

私の好きな組み合わせを、アディエルは知っていたのだろうか。


ちらりと彼の手にしたサンドウィッチを見ると、そこにはクリームチーズに、たっぷりのブルーベリージャムが挟まっている。


――アディエルは甘いものが好き。


私はそれを、こっそりと心に刻んだ。



「フィー、おいで」


食後、紅茶を飲んでいると、隣に座るアディエルが両手を広げた。


何事かと、手にしていたカップを置き、そろそろと近づく。

すると、あっという間にアディエルの腕の中に閉じ込められてしまった。


「アディエル、重くない?」


彼にもたれかかるような体勢に、不安になって声をかける。


けれどアディエルは、なんでもないように首を振った。


「全然」


そして、少し不服そうに眉を寄せて言う。


「それより、名前」


「えっと……」


その視線に耐えきれず、私は思わず目を彷徨わせてしまった。


互いに愛称で呼び合うようにはなったものの、人前で呼ぶのは恥ずかしくて、どうにか「二人きりの時だけ」と納得してもらった。


けれど、その二人きりの時でさえ気恥ずかしくて、なかなか愛称で呼ぶことができない。


「フィー?」


「……エ、エル……」


促され、なんとかそう呟くと、褒めるように頭を撫でられた。


ちらりと顔を見上げれば、アディエルは嬉しそうに微笑んでいる。


その表情を見て、もう少し自然に呼べるように練習しようと、私はこっそり両手を握りしめた。


そんな私を見つめていたアディエルは、くすくすと笑うと、流れるような仕草で額に口付けを落とす。


続いて、そっと顎に手を添えられ、目尻、頬、鼻先へと、彼の唇が移動していく。


思わず口元を覆うと、アディエルは楽しそうに声を上げて笑った。


「ははは! フィーのそういう所も、好き。…ちょっと残念だけどね」


「だって……夢だったんだもん」


口元を押さえたままそう言うと、アディエルは先を促すように首を傾げる。


「……初めての口付けを結婚式でするのが、子供の頃からの夢だったの」


子供っぽい夢が気恥ずかしくて視線を逸らすと、アディエルはもう一度、優しく額に口付けを落とした。


「フィーの夢を叶えられるのが、僕であることが嬉しい」


その言葉に顔を上げると、柔らかく微笑むアディエルがそこにいる。


子供の頃、想像していた“初めての口付け”をする相手の顔。


あの頃は黒いもやがかかっていたけれど、今ははっきりとアディエルの姿に変わっている。


それが嬉しくて、私はそっと身体を伸ばすと、アディエルの頬に軽く口付けた。


アディエルは驚いたように一瞬固まったあと、慌てたように自分の手で顔を覆ってしまう。


指の隙間から見える頬が赤く染まっていて、なんだかくすぐったいような気持ちになった。


一人上機嫌に笑っていると、アディエルはちらりとこちらへ視線を寄越し、囁くように呟く。


「フィー……もう一回」


恥ずかしくて少し迷ったけれど、その声に応えるように、私はもう一度そっと身体を伸ばしたのだった。



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