96話
「フィオナ……僕は、君のことが好きだ」
「…………」
はっきりと告げられたはずなのに、胸の奥がざわめいて、すぐには意味を受け取れなかった。
鼓動だけがやけに大きく、耳の奥で鳴り続けている。
跪いたままのアディエルは、私の手を包んだまま、視線を逸らさない。
その震える指先が、彼の緊張と不安を伝えてくるようで、胸のざわめきはさらに大きくなった。
――好き。
それは、どんな意味を持つ言葉なのだろう。
人として、好き?
友人として、好き?
家族として、好き?
それとも――
私と同じように、荒れ狂うような、好き?
「その“好き”は……どんな、“好き”なの?」
問いかける声は静かだったが、喉の奥はひどく渇いていた。
私の言葉に、アディエルはふわりと微笑む。
「今すぐに、君を抱きしめたい、“好き”。
誰にも渡したくない、“好き”。
君に触れた者を殴りたくなる、“好き”。
僕だけを見ていてほしい、“好き”。
それから……」
「も、もういいから!」
まだ続きそうな“好き”の嵐に耐えきれず、思わず言葉を遮る。
するとアディエルは立ち上がり、私の手を取って自分の胸に当てた。
掌越しに伝わる、激しい鼓動。
そっと彼を仰ぎ見れば、アディエルは少し照れくさそうに笑っていた。
「フィオナのことを考えるだけで、こうして全身が君を求めるんだ」
そう言って、掴んだままの私の手を口元へ運び、優しく口付ける。
「もう、“好き”だけじゃ足りない」
真っ直ぐに見つめられ、全身が熱を帯びて、思わず視線を逸らした。
囁かれた言葉が、耳の奥で何度も木霊する。
アディエルの“好き”は、私と同じ“好き”。
そう理解した瞬間、胸の奥が激しく波打った。
信じられないと訴える心さえ、喜びに塗り潰されていく。
「フィオナ……君に、気持ちを強要するつもりはない」
逸らしていた視線を戻すと、そこには眉を下げたアディエルの顔があった。
「だから……僕と距離を取る必要があるなら……努力する」
そう微笑むアディエルの、あまりにも切ない表情に、胸がきゅっと締め付けられる。
何も言えずに見つめ続けていると、アディエルは焦ったように視線を彷徨わせた。
「でも、その……一緒に過ごす中で、君に好きになってもらえたら……嬉しい」
そこまで言って、アディエルはついに俯いてしまう。
「アディエル……」
名を呼ぶと、アディエルはびくりと肩を震わせた。
その様子を見て、彼も――私と同じなのだと気付く。
怖いのだ。
相手の気持ちが、何を考えているのかが分からない。
分からないからこそ、勝手に想像して、勝手に不安になってしまう。
それは、私だけではなかった。
「アディエル」
もう一度名を呼ぶと、アディエルはゆっくりと顔を上げる。
視線が絡み合う。
逃げ場のないほど、まっすぐに。
私は、静かに口を開いた。
――この想いが、伝わるように。




