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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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92話


息が、うまく吸えない。


ドレスの裾を踏みそうになり、何度も足がもつれた。


すれ違う人々が何事かと驚いたように振り返るけれど、そんなことを気にしている余裕はなかった。


今、目にした光景が何度も蘇る。


セレーナの指先。

そして――こちらを見た、あの視線。


背中しか見えていなかったはずなのに、なぜか微笑むアディエルの姿まで、はっきりと浮かんでしまう。


心臓が大きく脈打ち、耳鳴りがした。

まるで、私の中の何かが、音を立てて崩れていくようだった。



無我夢中で走り続け、辿り着いたのは――見覚えのある場所。


以前、アディエルに泣き縋った、王宮の輝きも届かない、庭の片隅。


「……はっ」


思わず、自嘲するような笑いが漏れる。

私はいつだって、ここへ戻ってくる運命なのだろうか。


――今日だけ、今だけ。


そんなことを思っていた自分が、ひどく滑稽に思えた。


アディエルへの想いを認めた途端、こうして打ち負かされる。


恋心なんて、気付くべきじゃなかった。


痛む胸を掻きむしるように掴む。


このまま、アディエルへの想いも、この痛みも、すべて取り除けたらいいのに。



ドレスの裾を掴み、足元へ視線を落とすと、翡翠色のドレスに合わせた緑の靴が見えた。


……今回は、脱げなかったらしい。


ふと、以前脱げた片方の靴はどうしたのだろう、なんて。

どうでもいいことが、頭をよぎる。


見つめているうちに、滲む緑。


瞬きをすると、ぽたりと涙が落ちる。

一度零れた涙は、次から次へと止まらなかった。


崩れ落ちそうになる足に、必死に力を込めて立ち続ける。


座り込み、泣きじゃくる――


前と同じことは、したくなかった。



何度も涙を拭い、声を殺して泣いていると、不意に人の気配を感じた。


……私の心は、懲りずに期待してしまう。


振り返った先に、アディエルがいるのではないか、と。



そっと振り返る。


そこにいたのは――

心配そうに眉を寄せた、ローズマリー様だった。


「フィオナ様……」


そう小さく呟くと、ローズマリー様は何も言わず、優しく抱きしめてくれた。


慰めるような、温かな抱擁に、堪えていた涙がまた溢れ出す。



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