父親 四
斥候の騎士がけがをしないように受け止めて地面に寝かせる。半日くらいは目を覚ますことはないだろう。彼の見ていた方向へと目をやる。
「いるな……」
巨人たちは警戒もせず酒盛りをしているようだった。人狼の勢力圏内ならば見張りを立てるのだろうが、人類相手だからと完全に侮っている。
「巨人……あんなにたくさん。本当に大丈夫なの?」
「ほとんど雑魚だからね。ライカ、怖くなった?」
ライカが少し不安そうにしてたから質問したのだが、僕の言葉を聞いてはっきりと言い切る。
「ううん、レオ君がいるから怖くないよ」
ライカの持っている弓に付与魔法をかけて威力を上げて準備する。レトリビューションだとあっさり全滅させられるだろうけど、それじゃあ後悔させられない。パニッシュメントならあのデカブツは死なないはずだ。もしかしたら雑魚の中からも生き残りが出るかもしれない。
「なにがあっても一番大きいあいつにだけは近づいちゃだめだよ」
「うん、わかった一番大きいのには近づかない。わたしはどうすればいいの?」
ライカが想像以上に落ち着いてることに安心する。最悪ライカを気絶させておく必要も考えていたのだが、この様子なら必要ないだろう。
「ライカは残った雑魚が向かってきたら、それに向かって矢を撃って。大物は僕が倒すから」
「残ったらってどういうこと?」
ライカの質問に答えないまま、僕は魔法を撃つために魔力をまとめて詠唱を始める。渦巻く魔力があふれて僕とライカの周りでつむじ風のように渦巻き始める。僕の本気の魔法を初めて見るライカは魔力の奔流が怖くなったのか僕にしがみついている。
「パニッシュメント!」
力ある言葉に反応して、天空から輝く光が巨人たちに降り注いでいく。多くの巨人たちはなにが起こったのか理解できないまま光に打ち抜かれて蒸発していく。視界が真っ白になるくらいの光がおさまった時、百匹ほどいた巨人の集団は数体を残すのみになっていた。残された巨人も無事とはいかず死にきれずに呻いているものばかりだ。
僕の狙い通り一つ目の巨人だけが唯一まともに戦えるような状態だった。
「こういう事だよ。ライカ」
「すごい……」
「じゃあ行くよ」
腰に下げた鞘から父さんの剣を抜き放ち一つ目の巨人に向かって走っていく。剣を持った僕を見て魔法を使ったのは他にいると思ったのか周りを警戒しているように見える。
「アイスランス!」
僕の放った十本のアイスランスは瀕死で生き残っていた巨人達を正確に射抜き、止めを刺していく。
距離がつまり一つ目の巨人は巨大な大腿骨で作られた自慢の棍棒を横なぎに払う。その攻撃を縄跳びの要領で躱す。
生き残っている巨人に魔法を放とうとするが、飛来したライカの矢が一瞬早く止めを刺す。一つ目の巨人はやっとの事で体勢を立て直し、力任せにぼくに向かって振り下ろす。
「遅いよ」
ずうんと大地を揺るがすような大きな音を立てて、斬り落とされた一つ目の巨人の手首が棍棒を握ったまま転がり落ちる。自分の斬り落とされ、血のあふれ出る手首を見て叫ぶ。
「この虫けらがああああああああ!!!」
逆上した一つ目の巨人は今度は左腕を使って殴りかかってくるがやはり遅い。一つ目の巨人の左腕を駆け上がって、飛び降りざまに今度は片口から左腕を斬り落とす。
地面に降りた僕の傍を一メテル程もある大きな岩が飛んでいく。岩が飛んできた方向へを目を向けると、最後の力を振り絞って石を投げた巨人がライカの矢を受けて倒れるところだった。
「ありがとう、ライカ。助かったよ」
ライカに礼を言って、一つ目の巨人に向き直る。両腕を失った一つ目の巨人は怒り狂い。足で、残っている右手で攻撃を繰り出してくる。
「ぐおおおおおおおお!!!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
「とりあえず座ろうか。グラビティ」
僕の放ったグラビティの効果で立っていられなくなった一つ目の巨人は地面に跪いたような格好になる。
「僕には弱い相手を嬲るような趣味もないから。すぐに止めを刺してあげるよ」
「くそがあ、俺様を倒したからっていい気になるなよ!」
一つ目の巨人の両目は憎しみに燃え、今にも火を噴きそうなほどに力が込められている。
「君みたいに弱い相手を倒しても何の自慢にもならないよ」
僕は剣を水平に振って一つ目の巨人の首を斬り落とす。
「終わったよ。父さん」
魔石を全て砕き、ライカの使った矢も全て回収した。これでもう僕たちの事がバレることは無いはずだ。一応念のためにもう一度見落としが無いか確認して、ライカと二人で家路についた。巨人の事はしっかりと口止めしておいたし、なんとかうまく誤魔化せるだろう。
家にもどった僕とライカは、兄さんたちに、母さんに、そしてライカの祖父母にと、みんなからめちゃくちゃ怒られた。
★
燦燦と陽が照りつける昼下がり、二十体ほどの巨人の一群が集まっていた。彼らは少し前に何の連絡もせずに消えた略奪部隊の調査にやってきた精鋭部隊だった。
「どうやらここで全滅したようだな」
「脱走じゃあ無かったのか。久々に骨のある連中とやりあえると思ったんだが」
所々に錆の浮いた戦闘用の斧を持った巨人が、大腿骨の棍棒を拾い上げて言った。
草の一本も残さずむき出しになっているこの場所で、巨人の精鋭軍が倒されたのは間違いない。大腿骨で作った棍棒が残されているのもそうだが、よほど強力な魔法で焼き払われたのだろう大地には巨人の影になっていた部分だけが影のようにところどころ焼け残っている。
「一体どんな魔法を使えばこんなことになるんだ?」
魔法を使うらしく杖を持った巨人が呟くが、返事するものはいない。ここにいる誰もがこんな威力をもった魔法は見たことのあるものは居なかった。
「未だに残っている魔力残滓は記憶しました。術者が誰かは分からんが会えば分かるでしょう」
指揮官らしき高級そうな鎧を身に着けた巨人がいう。そして、そのまま部下たちに指示をだす。
「しっかりと鼻を使って何か残っていないかさがしてください!」
鼻をひくつかせながら巨人たちは舐めるように辺りを捜索していく。巨人族の嗅覚は人狼族に勝るとも劣らない程良い事で知られている。どんな微細な痕跡でもこれで見つけられるはずだ。
日暮れが近づき、なんの成果も得られずに調査を終えることになるかと思われたそのとき声があがった。
「指揮官、見てください」
そういって巨人がつまみ上げてみせたのは、小さな小さな矢じりの欠片だった。指揮官らしき巨人は矢じりを受け取ると鼻を近づけて匂いを嗅ぎ取る。
「女の臭いですね……。覚えましたよ」
「どうします?」
指揮官らしき巨人はにやりと醜悪な笑みを浮かべる。
「本国に連絡しておいてください、俺はこのまま人間の国で情報を集めます」
そういって巨人の指揮官は魔法を使うため呪文を唱え始める。力ある言葉を言い終わるとそこには巨人の姿はもはやなく、一人の美男子が全裸で立っていた。
「どうぞ」
周りにいた巨人が美男子に人間サイズの高価そうな衣服を手渡す。受け取った衣服を身に着けていく。
「準備だけは怠らないでくださいね」
そう言い残して王都の方へと歩き始めるのだった。
気に入ってもらえたなら、是非ブックマークや評価をお願いします。
もちろん感想やレビューも大歓迎です。




