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座敷童のいち子 作者:有知春秋

【東北編•平泉に流れふ涙】

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行間4

ページを開いていただきましてありがとうございます(^^)
拙い文章ですがよろしくお願いします(^^)
 平安時代の中尊寺には三重池•弁天池•大池があった。現代では三重池と大池は跡地となり、弁天池だけが残る。
 中尊寺蓮、泰衡蓮、大池蓮と名前を並べてはみたが全て同じ蓮を指したもので、平安時代に開花していた蓮が現代に蘇ったことから古代蓮とも呼ばれている。
 現代に古代蓮を蘇らせた経緯は割愛するが、竹田小夜はそんな蓮の葉が水面を飾る泉、現代では跡地になっているはずの中尊寺【大池】のほとりにいた。
「?」
 疑問符を浮かべる。
「巴?」
 周囲を見渡して巴を探す。
「巴……?」
 小夜が視界を移した山は背の低い木々が生えるだけだで人気はなく、見渡しの良い草むらと泉があるだけで巴はいなかった。
 幼稚園、小学校、中学校と小夜が物心つく前から巴はいつも隣にいた。過去に巴が小夜の隣にいなかったのは一度、正確には半日にも満たない時間だけだった。
 それは大きな地震があった日の朝方。
 いつもは起きない時間に目が覚めた日だった。
 夢心地の中、頭を撫でてくれる巴の手を握ったのを小夜は覚えている。そして、関東に行ってくる、という言葉も……
 覚えているかぎり初めて巴が隣にいない朝食を食べた小夜は、学校へと行った。
 授業、テストの答えを教えてくれる巴はいない。
 給食、嫌いな牛乳を飲むまで御飯を食べようとしない巴はいない。
 寂しくなり、泣きそうになり、ただ巴がいない事からの不安だったのかもしれないが、小夜は学校を早退した。
 家に帰ったら巴がいて怒られるかもしれない、と思いながら……
 しょぼくれながら下校路を歩いていると、いつも巴の肩に乗っていた白黒が頭に乗ってきた。
「白黒?」
 小夜は巴が帰ってきたと思い、怒られる事よりも嬉しさが勝り、意気揚々と振り向いた。しかし、振り向いた先に待ち人はいなく、遠くの空、狼煙のように空へと伸びるモノが代わりにいた。
 小夜が中尊寺のふもとから空に向かって伸びる狼煙のようなモノを意識してから、数秒。煙の先に龍と見間違う爬虫類の顔を見て、狼煙ではなくオロチだと気づく。
「!!!!!!!!!」
 尻もちをつき、耳に届く奇声にガタガタと震える。
 巴、巴、巴と助けを求めるように回りを見ても巴はいない。すでに不安は恐怖に変わり涙がボロボロと流れていた。
 だが、小夜は鳴き声を挙げなかった。頭に乗った白黒を胸に抱き締め、もつれる足をアスファルトの上で踊らせ、何度も転び、家へと向かう。巴、巴、巴と助けを求めながら。
 その時、向かう方向とは逆に走って行く座敷童と自分を守るように周囲に集まる座敷童がいた。
「巴、巴、巴ば……」
「…………、巴は、関東のオロチ討伐に……」
「!!!!!」
 座敷童の苦虫を噛んだような表情と、巴の助けは無い、と含ませる言葉にバッと振り返り、オロチがいる方向へと走って行く座敷童に、
「い、行ぐな!」
 自分を守るように囲う数人の座敷童に、
「い、行ぐの、と、止めろ。巴ばいねば、オロヅに! オロヅに!」
 ーーーーこの日から、小夜の中では巴が東北にいない日はオロチの日になり、一時間後には巴のいない日は大地震の日になり、生涯忘れられない日々の始まりでもあった。
 しかし、小夜に待ち受けたのは生涯忘れられない恐怖の記憶だけではなかった。
 大地震の日から、見覚えのない場所に一人でいる夢を見るようになったのだ。
 そして先日、見覚えのない場所にいるだけだった夢に、青色のオロチが泉から現れた日があったのは小夜の記憶にも新しい。
「巴、巴、巴!」
 場所は違い、何かを告げる夢だと理解していなくても、たとえ理解していたとしても、巴がいない時の不安はオロチや大地震という恐怖を思い出させる切っ掛けになる。
「どごだ! 巴どごだ!」
 どこを見ても見覚えのない風景。不安からその場を動けず、恐怖から泣き出し、浮かぶ涙で霞む視界はオロチを連想させる泉を拒絶する。その時、拒絶する泉に浮かぶ蓮の葉に視線が止まった。
「……! 中尊寺蓮でがんす」
 小夜が見慣れた蓮の葉があった。
 改めて周囲を見直すが、背後にある山は老杉が幾本もある関山中尊寺ではないし、草むらや泉も小夜には見覚えのない景色だった。
「中尊寺の池は弁天池だけでがんす。わの不勉強だなっす。同じ蓮を育てる池サ……、!」
 小夜は泉の中心を見て目を見開く。そこには……
「オロヅ……? 白のオロヅだ!」
 水面からワニのように顔を出す白蛇に気づき、右手に握っていた傘を抱きしめ、涙をボロボロと流す。
 オロチと言うほどの大きさはなく長さは一般の蛇と変わらないのだが、小夜はその白蛇が自分に恐怖を植え付けた白のオロチだと直感した。いや、刻まれた不安と恐怖から直感させられたと言った方が正しい。
 小夜をジッと見ていたオロチは視界を一八◯度変え、自分を中心に水面を揺らすと、波紋を作りながら小夜のいる位置とは反対側の地上へと向かったーーーー

 バッと布団から飛び起きた小夜は勢いそのままに立ち上がる、が立ち眩みになり布団に倒れこむ。夢を見ていたと実感する事もなく、視界に入った杏奈に助けを求めるように声を挙げる。
「オロヅだ! オロヅだ!」
「?」
 うつ伏せで携帯情報端末の表示画面をスライドしていた井上杏奈は急な小夜の行動と発言に疑問符を浮かべた。
「オロヅ……オロチですか?」
「んだ! 白のオロヅが蘇るでがんす!」
「……、」
 携帯情報端末の画面を見ると、
「オロチの蘇り、ですか。竹田家には予知夢があると報告を受けてますが……たしか当たるも八卦当たらぬも八卦。白のオロチはいつ蘇りそうですか?」
「んっ? いづ? わがんね」
「……、」
 チラッと携帯情報端末の画面を見て、
「わからないですか。それなら、白のオロチはどこの地方ですか? 特務員に行かせますので教えてください」
「白は東北だ」
「……、」
 チラッと携帯情報端末の画面を見て、
「毛越寺の大池が池には龍馬さんと八慶君が確認しに行ってます。巴さんもオロチは一週間後に蘇ると言ってましたし、対策さえ練れば大丈夫です」
「じゃ! んが巴が言っだんだば大丈夫でがんす。んだば、わもしらねぇ内サ毛越寺も中尊寺蓮ば育ででるでがんす。不勉強だなっす。中尊寺だけでなぐ、巴にサ毛越寺に連れでっでもらわねばならねえでがんす」
「……、」
 携帯情報端末の画面を見て、
(南部弁の通訳ソフトをダウンロードしたのに……所々が解読できていない)
 小夜の言語解読から意思疎通を図るために南部弁の通訳ソフトを携帯情報端末にダウンロードしたのだが、最初の『マジで! でも巴が言うなら大丈夫だ』の前文以外は誤字脱字や記号などの言葉にならない文章だった。
 杏奈は画面に表示された前文だけに返答する事にしたのだがーー杏奈が知るのは、隣の布団でオロチの鱗にあおられた松田翔が眠り、梅田達也がオロチの封印の対処に行ったという現状のみーー不安材料しかない。
「巴さんが二手三手と対策を考えていれば良いのですが」
「二首三首四首五首六首七首のオロヅに巴サ負げだごどねえんだ! ヤンマダノオロヅもドゥバババアン! ドガーンドガーンでがんす!」
「…………、」
 携帯情報端末の画面を見ると、勢いある小夜の言語を解読しきれなくてエラーと表示されていた。
(ど、どうしよう。聞き返したいけど……)
 興奮しながらキラキラとした瞳を向けてくる小夜に、聞き返せる雰囲気ではなく、
(グビグビ言った後にオロヅと巴と言ってたから最初はオロチと巴さんが関係してる事。ドゥバババアンはわからないけど、ドガーンドガーンはさすがに擬音だろうし……そういえば山田のオロヅとも言ってた!)
 オロヅ、巴、山田のオロヅ、ドガーンという擬音の四ワードを武器に一か八か小夜の勢いに合わせて、
「宮城県山田にもオロチは封印されていたのですか⁉︎」
「?」
 小夜は杏奈の返答に疑問符を浮かべる。
(な、なんか、違ったみたいだ)
「わだっきゃわがんねえどもいだがもしんねえな」
「……、」
 携帯情報端末の画面を見ると『俺はわかんねえけどいたかもしれないな』と解読されていたため、まったく関係ない事を返答していたと自覚し、
「中尊寺から毛越寺にも移動してますからね。今回は毛越寺から中尊寺に移動ですし……そういえば中尊寺の弁天池だと面積的にオロチを数メートルにしないと…………かなり小さくしないとならないから大変なのか……」
 封印箇所の移動に弁天池の面積からの疑問が脳裏に過り、ブツブツと独り言を漏らす。
(わの不勉強で悩ませぢまっだな。巴にサ教えでもらわねば。んだば、ばば様の孫だばこんれがらも長え付き合いになるでがんす)
 杏奈の独り言は自分が悩ませてしまった結果だと思い、更に今後も長い付き合いになると思い、
「ばば様の孫だども杏奈でいぃがあ?」
「……、」
 チラッと携帯情報端末の画面を見ると『ばばさまの窓だけどアンニャアでいいよね?』と解読されていた。
「?」
「だっげだ小夜だ!」
「……、」
 携帯情報端末の画面を見ると『だっ! 下駄! 小夜だ!』と解読されていた。
(下駄? ……小夜さんは下駄派……)
 ゴシックロリータファッションの小夜に対して何を勘違いしたのか、いや、見た目は冷静な杏奈だがすでに混乱していて判断力は鈍っていた。黒縁眼鏡を右手中指で押し上げながら、
「スニーカー派の杏奈です」

 こうして杏奈と小夜の噛み合わない会話は松田翔が起きるまで続くのだった。

 そして……

 二人が共通し心配している白のオロチは、すでに井上文枝が圧倒した後だった。
読んでいただいてありがとうございます(^^)

行間ということで五章に続きます。


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