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座敷童のいち子 作者:有知春秋

【東北編•平泉に流れふ涙】

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第五章 座敷童デジタル化計画

ページを開いていただきましてありがとうございます。拙い文章ですがよろしくお願いします。
 1

 井上文枝がオロチを圧倒しジョンと白黒が金鶏山に向かってから一◯分後、白黒に一足遅れてジョンは金鶏山の頂上に到着した。
『間に合わなかったか』
 舌打ち混じりに視線の先に吐き出すジョンが見ているのは、半径二メートル程の穴の中。三メートル下では作りたてのきな粉餅のようなベトベトした土ーー脱皮した皮と融合した土ーーが穴を塞いでいた。
『んっ……?』
 ジョンは改めて周囲を見る。穴から少し離れた場所に、上部三メートルが土、下部一◯メートルが黒の鱗を癒着し作りたてのきな粉黒豆餅みたいになった、見た目はチョコチップが入ったプリンのような土があった。
『黒の鱗を使ってくり抜けた、という事か。……』
 脱皮した皮は金鶏山全体と融合していたわけではないという事か? と予想したジョンは状況を更に把握するためにこの場にいる加納と梓に聞く。
『巴といち子が穴に入ったのは現状からわかる。黒パンツは?』
「いち子の小豆飯おにぎりを食べたいからお茶を買ってきてくれ、と巴に頼まれた大臣は一時間前ぐらいに下山したから、そろそろ帰ってくると思うけど」
 梓が答える。
『……、残った鱗はあったのか?』
「空洞な以上、中から同じ方法で穴を空ければ戻って来れる、と言って持っていった」
『空洞なら……か。金鶏山全体との融合ではなかったという事だな。二人が穴に入ってどれぐらい経つ?』
「一◯分ぐらい」
『余計な手出しが無いように、オロチが蘇ったのを見計らって入ったな。一足遅かった事には変わり無いが、くり抜いた先が空洞だったなら巴も無茶はしない。しかし、一◯分もあれば出てこれるはず……何かあったのか』

「あら、ジョン。おばあちゃんと一緒にいなくていいの?」

 白のコートから自動販売機で買ったであろうお茶入りペットボトルを何本も入れて現れたのはアーサー。その腕の中には頭頂部で花を咲かせたように髪を結ったいち子やしずかよりも小さな幼女がスヤスヤと眠る。そして隣には、腰まであるロングヘアを毛先一◯センチの位置で纏める小学生ぐらいの忍者コスプレをした少女がいた。
「大臣、その子達は?」
「迷子よ。放ってはおけないから保護したわ」
 加納と梓にペットボトルを渡し、
「巴ちゃんといっちゃんは?」
「それが穴の中に……」
「!」
 アーサーは周囲を見回す。下山する前は無かった作りたてのきな粉と黒豆を混ぜたようなベトベトした土と半径二メートル程の穴を見ると、抱いていた幼女を少女に渡し、間髪入れず穴まで走る。
 突発的な行動に加納と梓は止めようとするが、アーサーの足は地面を蹴り穴に向かって飛ぶ。
『無駄だ』
 ジョンは呆れながら言葉を繋げる。
『座敷童が掘った穴に人間は干渉できない』
 一同の視線の先では、その場に穴がある前提に足を踏み出したアーサーが足首をひねり、盛大に転んで白のコートを汚す。膝上一◯センチのスカートから黒パンツが見えそうになった瞬間、加納は視線を逸らす。
「入れないわ!」
『人間だからな』
「私を座敷童にしなさい!」
『できるわけがない。……んっ?』
 木の枝で羽を休めていた白黒がジョンの頭に乗り、嘴を微妙に動かすと、
『なに? ……本当か?』
 人間には二人の会話がわからない。聞かれたくない話なのか内緒話をするようにしていた……その時、白黒を見た少女がジリジリと後ずさる。
 その刹那ーー
 ジョンは踵を返そうとした少女に向かって走り、白黒は少女の抱く幼女に向かって閃光のように突っ込む。
「「「⁉︎」」」
 アーサーと加納と梓は刹那の事に目で追う事もできず、ジョンと白黒を視界に捉えた時には……
 白黒は幼女の腰帯を両足で捕まえて中空を飛び、ジョンは少女を地べたへと俯きに寝かせて背中に乗っていた。
「ジョン、何してるの!」
 アーサーは立ち上がろうとするが足首に激痛が走り、立ち上がれない。
「だ、大臣、待ってください」
「なにを待つの⁉︎」
 動揺する加納に声を荒げる。
 加納はアーサーが連れてきた少女と幼女に終始疑いを持っていた。
「その子達は座敷童、では、ないですか?」
「?」
 アーサーが疑問符を浮かべていると……
「危険が危ない白黒は危険じゃ。危険が危ない犬は危険かえ?」
(おかしな日本語ね。だから喋らなかったのかしら?)
『おとなしくしていれば危険ではない』
「危険が危ない犬は危険が危ない白黒より危険が危ないかえ?」
(どこかで聞いたことある会話のような……)
『危ないから危険なのだ。おとなしくしていれば危険ではない』
「危ないのが危険かえ? 遮那王とどっちが危ないのが危険かえ?」
「「「!!!!!!!!」」」
 少女のおかしな日本語そして遮那王という名前に……
「だ、だ、大臣!」
「さ、さとです!」
「八太君をすぐに呼んできて!」
「「はい!」」
 加納と梓はバタバタと足を踊らせながら山道を下って行った。
『今、八太……いや、遮那王がくる。おとなしくしていろ』
「なんじゃと⁉︎」
「さとちゃん。なんで外にいるの?」
 アーサーは白一色のコーディネートを気にすることなく匍匐前進でさとの元に行く。
「遮那王め……かくれんぼに鬼を増やすのは反則じゃ。危険が危ないのが危険じゃ。このままではかぼちゃではなく弥生に命名されてしまう。危険が危険の犬、離すのじゃ」
 頬を膨らませてプリプリと怒りだす。
 そんなさとの言葉に怪訝になったアーサーは疑問符を浮かべ、
「かぼちゃ?」
『子供の名前をかぼちゃか弥生で三年ももめた挙句、ここに閉じ込められる時に八太から「かくれんぼで俺に勝ったらかぼちゃにしていい」と言ったのが、金の雌雄は約束を守るの最後にあったな。八太は希望を無くすなと言ったつもりだろうが……問題は何故外にいるのか、だ』
「たしかになんで外にいるのかしら? ……さとちゃん。かくれんぼは夫婦の問題だから八太君と相談したらいいわ。今は……」
「反則じゃ。無効じゃ」
「そうね。反則ね」
『反則でも無効でもいいから、どうやって外に出た?』
「むっ? どうやってとは異な事を……」
 腰帯からぶら下がる袋を取り、紐を解いて中を開く。中から横笛を出すと、ソッと吹き口を唇に付け、無色の風に淡い色模様を与える音色を奏でる。
「綺麗な音色ね。音に色まで付いてるようだわ」
 アーサーは中空を漂う音色を視界で追うように見上げる。
『……、付いているように見えるのではなく、さとの能力で音色に色が付いているのだ』
 アーサーの両足首をチラッと見ると、すり傷などが淡い光に包まれ、音色に癒されているようだった。さとの治癒する能力なのはジョンの知るところなため、ため息を一つ吐き、
『今は、どうやって外に出たのかを聞いているんだ』
「ふむふむ」
 唇から横笛を離すと、不敵な笑みを浮かべ、
「遮那王を落とすための穴は遮那王を迷わす」
 さとはキラーンと瞳を輝かす。
「…………」……アーサーは疑問符を浮かべる。
『説明が足りん。食っちまうぞ』
 ジョンはさとの頭を吞み込むようにガブッと咥えて甘噛みする。
「危険じゃ危険じゃ危険じゃ!」
「ジョン、いじめたら可哀想よ!」
 さとを助けるためにジョンの口の中に両手を入れて開こうとする。
『黒パンツ。さととはまともに話が噛み合うと思うな』
 呆れながらペッとさとの頭を吐き出し、
『さと。中はどうなっている』
「平泉に張り巡られるいち子の迷路は一度入ったら危険が危ないのじゃ。いち子以外、妾とかぼちゃしかその全容はわからぬ」
 キラーンと瞳を輝かす。
『なるほど。これで脱皮した皮の融合の謎がハッキリした』
「土と融合してる箇所からだと手間がかかるけど、空洞の場合は進めるってこと?」
『……、自分で考えろ』
 と言った瞬間、アーサーはジョンに飛び込み、ガシッとジョンの顔面を両手で鷲掴み、皺くちゃな顔にする。
「あんたも白髪天パみたいな事を言うのね!」
『……、わかった。教えてやるから離せ』
「次からは、最初から素直に言いなさいよ」
『……、』
 自分で考える努力もすれ、と言えば同じ事をやってくるだろうと思い、自重したジョンはさとの頭に右前足を置き、
『脱皮した皮と土が融合した場合、しずかや巴のような刀だと斬撃の線が入るだけだ。さとの笛やお濃の鼓も土の密度で音が阻害されて効果は薄い。しかし、空洞にある脱皮した皮だけなら土などの阻害物はない。阻害物が無いという事は、表面を斬る刀などの神器では線しか入らないためすぐに再生してしまうのは変わらないが、楽器の神器なら土などの阻害物が無ければ脱皮した皮がオロチから作られたモノな以上は音が振動として内部に伝わる』
「脱皮した皮だけなら音を伝えられるけど、脱皮した皮と土の融合は土の密度も加わって厄介になるってこと?」
『うむ。脱皮した皮は癒着と再生をするため、融合した土も癒着と再生をする。そのため、青の鱗で癒着を遅らせる方法が良案だった。しかし、空洞なら脱皮した皮と融合する土はない。癒着と再生は繰り返すだろうが、密度のある土と融合していない以上は楽器の神器なら出入り自由だ。八◯◯年以上も見つからないわけだ』
「ハ◯◯年以上も……あれ? いっちゃんの迷路だからいっちゃんはさとちゃんが外にいるのを知ってたの?」
「いち子もかぼちゃ派じゃ」
 キラーンと瞳を輝かす。
『まったく人騒がせなかくれんぼだ。度がすぎるぞ』
「なんでかぼちゃって名前がいいの?」
 待っていましたと言わんばかりのさとの輝く瞳にアーサーは余程の理由がある、と思う。
「固い皮の中にある金色の甘味。固い土の中で眠る金と一緒じゃ。弥生はダメじゃ。金神様(きんかみさま)も遮那王の説得をしてほしいのじゃ」
(さとちゃんはかぼちゃと金が好きなのね)
 心のレシピにかぼちゃと金を記録すると、
「金神様ではなくアーサーよ」
「妾は朝が苦手じゃ」
「私も朝は苦手だわ」
『朝ではなく、名前がアーサーと言ったのだ』
 ジョンはさとの頭を小突き、脱線した話を戻す。
「妾のような下々に名前を教えるとはさすがは金神様じゃ」
『神様では無い』
「危険が危ない危犬(きけん)。金神様に無礼じゃ」
『危険と犬を混ぜるな。まったく、聞いていたとおり話がかみ合わないな。とりあえず、白黒がさとの手の届かない位置にかぼ……子供と飛んでいれば逃げることもあるまい』
 ジョンはさとの背中から降りると、逃げようとしたさとに、
『逃げたらかぼちゃは八太に引き渡し、弥生になる』
「!」
 白黒に捕まった我が子を悲しい瞳で見上げ、
「む、無念じゃ」
『平泉に張り巡らしている以上は、どこの出入口から出てくるかわからない。こちらから探すより、いち子がいれば迷うこともないから心配もない。ここはひとまず……』
「楽器の神器がないと出てこれないわよ?」
『黒の鱗を吸収した神器でも土の密度があるから……』
 巴がくり抜いた土にクイッと顎を向け、
『あのようにくり抜かないとならない。だが、脱皮した皮だけなら土の密度はない』
「それで?」
『一時は巴が黒の鱗を食って犠牲になるのでは……と心配したが、空洞があるのを見た時点でその考えも失せ、黒の鱗を持って穴に入ったのだ』
「黒の鱗を持って行っても楽器は無いわよ?」
『…………、』
 アーサーの子供のような質問にため息を吐く。
「なによ」
 自分を見て呆れるジョンの顔を両手で鷲掴みする。
『脱皮した皮に土の密度があるから鱗を吸収した神器でも大量の鱗が必要なのだ。空洞部のように脱皮した皮に土の密度が無ければ、癒着し再生する皮なだけ。オロチの鱗を扱える座敷童なら破壊ができる』
「全ては土が原因だったのね」
『…………、そうだな』
 ここまで聞いて脱皮した皮の体積は疑問にならないのか? と思いつつ、余計な事を言うと話が延びるため、
『人間側にも干渉しているであろう空洞の耐震力を越えた干渉があれば崩れてしまうが、頭に血が上っても巴なら冷静な判断で……』
 ズズンッと地中からの異音がした後、体感できる地震が起きる。
「地震? なんか変な音もしたわね」
『…………、』
 巴が鱗の能力を放出し、その力が人間側に干渉した。とは言わず、
『屋敷に戻るとしよう。中に入ってみないとわからないが、俺の予想が正しければ鱗や神器さえ必要ない可能性もある。とりあえず、黒パンツは加納に連絡し、ことの詳細を言っておけ。何も知らずにこの状況を見れば、脳天気な八太でもさとと子供を怒る』
 巴からの説教は確実にある、とは敢えて言わないジョンだった。
 アーサーは深く考えずにさとへと視界を移し、
「そうね……さとちゃん、お茶飲む?」
 キラキラと瞳を輝かせながら自分を見上げていたさとにお茶を進める。
「ありがたやありがたや」
 さとはアーサーに両手を合わせる。
「……?」
(変わった子ね。いっちゃんやしずかちゃんみたいななつっこいのとは違うし……。本当に神様と思ってるのかしら……あれ? 足が痛くない。……?)
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