挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
座敷童のいち子 作者:有知春秋

【近畿編•東大寺に眠ふ愛】

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

23/105

終章 問題が山積み

 
 場所は東大寺講堂跡。
 家紋織田木瓜が記された陣幕の中。
「座敷童の皆さんお疲れ様です」
 開口一番、労をねぎらうのは杏奈。
 右手にはオレンジジュースが入ったコップを持ち、一同を見る。
 深編笠を取った一○○人の座敷童や褌や直垂に身を包む近畿地方の座敷童は老若男女それぞれの喜びを表に出し、ボロボロの着物を着たボサボサ頭のお膿を囲っていた。
 お膿は二十歳前後だった見た目が小学校高学年ぐらいの少女になっている。
 お膿の隣には、元の若武者に戻った吉法師が座り、呆れるようにお膿の足元を見ている。そこには、小学校低学年の姿に戻った八太がボロボロになって倒れていた。
 座敷童の『お膿おはよう会』から視線を右側に移した杏奈は、二○人全員生存した座敷童管理省の特務員を見やる。
「……特務員の皆さん。座敷童の足手まとい、ご苦労様でした」
「「…………」」
 ズーンと沈む特務員一同。
 結果は、オロチや獣から座敷童を守るどころか助けられるという足手まといを越えた邪魔者になっていた。もちろん、杏奈はその不甲斐なさに棘を出す。
「オロチ戦を前に八地方に分署を作ると言いましたが……酷すぎます。このままでは皆さんに任せれないです。とりあえず、建設完了までの間、龍馬さんと全国を行脚してもらいます」
「「……はい」」
 特務員二○人は自分達の不甲斐なさから杏奈の判断を素直に受け取る。
 杏奈は特務員から視線を移し、左隣に移す。
「アーサーさんはもう少し自分の立場を考えてください」
「……はい」
 アーサーは、鮮やかなプラチナブロンドの髪をボサボサにして、衣服を泥だらけにしていた。乱戦の中、座敷童を助けるために暴走したのは言うまでもない。
 杏奈はアーサーに向けていた視線を右隣に移し、幼女姫に戻ったしずかとしっかり者のお兄ちゃんに戻った八慶を見る。
「しずかちゃん。八慶君。八太君。私の作戦が成功したのは三人のおかげ。ありがとう」
「うむ。我等がオロチを相手にしてる間、東側は獣等に手間取ると思ったが……見事なお手並みだった」
「杏奈もばあちゃんと一緒でありんす。強いでありんす」
「鹿、猪、鴨の特性上、動きが単調だから、私の薙刀術でも通用しただけだよ」
「かなわんぜよぉ。ワシの出番が無かったぜよ」
「龍馬さん?」
 笑顔でしずかと八慶と会話していた杏奈だが、龍馬が口を挟んだ瞬間その笑顔はなくなり、黒縁眼鏡を右手中指で押し上げながら額に青筋を浮かせる。
「龍馬さん。誰が私を守れって言いました? 私はあなたにアーサーさんを守れと言ったと思いましたが?」
「結果オーライぜよ」
「結果論は次の戦いでは何の役にも立ちません。座敷童の中で唯一の足手まといでした」
「なんじゃと⁉︎」
「アーサーさんを守る立場がアーサーさんに助けられたように見えましたが?」
 大人の姿になろうとした龍馬だが、魔獣の鴨が頑固な癖毛頭を集中的に襲い、逃げ回っていたところをアーサーに助けられた。
 アーサーが助けた座敷童とは、大人化できず、懐に入れてた銃も取り出せず、刀を抜刀することもできなかった座敷童唯一の足手まといの龍馬だった。
「ワシの本気は……」
「龍馬さん以上に残念だったのが松田さんと梅田さんです」
 龍馬を無視。黒縁眼鏡を中指で押し上げると、正座しながら落ち込む達也を視界の端に捉えながら、おかっぱ頭と左足に包帯を巻き重症(?)をアピールしたいち子を胡座をかいた足元に乗せた俺を見る。
 俺は残念だと言われる意味がわからず疑問符を浮かべる。
「井上さん。俺はいち子の世話役だ。いち子がオロチにやられたら、いち子を守るのが俺の役目だ」
「私が問題視してるのはオロチの雄叫びに吹き飛ばされた時です。……オロチの雄叫びを利用して『ワザと飛んで行った』ように見えましたが?」
「人間にそんな跳躍は無いよ」
「普通の人間の松田さんが人智を越えた行動をした時点で一つ確信しました」
 龍馬への対応と同じく軽く聞き流しながら言葉を乗せると、更に続け、
「龍馬さんはともかく、吉法師さんやお膿さんのような人間から座敷童になった人間は『元々』人智を越えた武力があった……と」
「なんのことやら。さっぱり」
「その武力の秘密は松田家の書庫にあると思うのでこの場では聞きません。現状一番の問題は……梅田さん」
 杏奈は正座が板に付いた達也に視線を向ける。
「……はい」
「お膿さんの子孫ですよね?」
「……今日知りました」
「梅田家ですよね?」
「梅田家のはずです」
「人智を越えた武力もその片鱗もまったくないです」
 棘を越えた槍を達也の精神にぶっ刺すと、更に追い討ちをかけるように、
「今も昔も文武両道ですよ? 現代では知能の文と行動力の武という意味です。それが、知能は直情型の単細胞、行動力は無駄にあるけど詰めが甘くて無駄が多い。それはそのまま座敷童管理省を意味します。梅田さんは猿山のボスにもなれない小学生のガキ大将です。座敷童に相手にされないのがよくわかりました。今後、どうするのですか?」
「鍛える!」
「単細胞が頭と身体を鍛えたところで単細胞です」
「………」
 そこまで言うか! と口に出したいが「足りないですか?」と言われそうなので自粛する。
 そんな達也に杏奈は今後の宿題を出す。
「まずは四国の八十八箇所巡礼で煩悩を捨てて下さい。その後、日本百名山登頂で自分の小ささを見直し、その道中を利用し大学レベルの知識と古今東西の武の知識を詰め込んでください」
「そんな事できるわけ……」
「私はやりました」
「……ない……だろ…………はぁ⁉︎」
「幼稚園で八十八箇所巡礼と四国の山々を登頂し、小学生の春と夏の休みを利用し徒歩で行ける範囲の四国•九州•中国•関西の山を登頂し、大学レベルの勉強を終わらせました。中学では中部•関東•東北。海の上は歩けないので北海道はまだですが、今後やります」
「そ、そうなん、だ」
「GPSで随時確認してるので、時速10キロを越えたスピードが出れば自転車か自動車を使ったとみなしてその場で腕立て一○○回してもらいます」
「……はい」
 達也は肩を落とす。
 杏奈と達也のやり取りを見ていた吉法師は、ゆっくりと立ち上がり龍馬の元に行く。
「龍馬。約束の物を渡さねばなるまい」
「おぉおぉ、オロチの鱗じゃな」
 懐に手を入れ、布袋を出すと、
「ワシが余分に持っとるのは四国•九州•中国•中部じゃ」
 布袋の紐を解いて中を開くとカラフルな宝石が入っていた。その中から黄•赤•紫•橙の宝石を取り出す。
 吉法師も懐から布袋を出し、紐を解いて中を開く。その中から白•緑•青の宝石を出す。
「うむ。我は関東•関西•東北含めて余分にある……が」
「北海道は激レアじゃき。余分に持っとるのはいち子かしずかだけぜよ」
 龍馬はしずかを見る。
「わっちは鱗を集める趣味は無いでありんす」
「……いち子は?」
 そういうヤツだった。と思いながらいち子を見る。
「オロチの鱗は支笏湖じゃ」
「支笏湖はオロチが寝とる場所ぜよ」
 いち子じゃ話にならないと思った龍馬は視線を上に向ける。
 龍馬の視線に応えるように俺はいち子の言葉に補足を加える。
「いち子としずかの鱗は支笏湖だ。オロチの鱗は二○連はかたいからな」
「……お前等、オロチの鱗で石投げしたぁ言うんじゃ……」
「ワタキは一二連じゃ」
「わっちは一○連でありんす」
「俺は二○連だ」
「……一枚も無いちゅうわけじゃ……」
「あるわけないだろ。とりあえず、井上さんとの約束だ。正月に吉法師と龍馬にやったのがあるだろ」
「「…………」」
 龍馬と吉法師は額に汗を溜めながら杏奈を見る。
「龍馬さん。ください」
(やっぱりワシにきた!)
 予想どおりの展開に間髪入れず、
「吉法師の鱗の方が……」
「龍馬さんのを。ください」
「……吉法師、ワシは四枚……」
「杏奈。我の鱗を七枚渡しておく」
 吉法師は杏奈に七つの宝石、オロチの鱗の欠片を渡す。
「ありがとうございます」
「うむ。あとは龍馬に『黒い鱗』を貰うがよい」
「はい。……」
 杏奈は龍馬に視線を向け、
「黒い鱗をください。疑うわけではありませんが松田さん含め鑑定できる人に見ていただきます」
「……疑うわけではない言うといて疑っておるな」
「はい」
「……はぁ……」
 龍馬はため息を吐きながら布袋から黒い宝石を出す。
「ありがとうございま……」
 杏奈は右手を出すが、龍馬は黒い宝石を渡そうとしない。
「……龍馬さん?」
「むむぅ……」
 黒い宝石を握る。
「くれないのですか?」
「誰がやらん言うた。ワシは約束を守る男……」
 ゆっくりと右手を開き、黒い宝石に左手を近づけた瞬間、
「ぜよ‼︎」
 バギッと黒い宝石に左拳を当てる。
「……よし。受け取るぜよ」
 龍馬の手には左拳で二等分された黒い宝石。
「そこまでして手元に持っておきたいモノだったのですか?」
 二等分された黒い宝石の大きい方を取る。
「激レアじゃからな」
「支笏湖にいち子ちゃんとしずかちゃんのが沈んでるのに……」
「!」
 勢いよく立ち上がった龍馬は右手にある残り半分の黒い宝石を杏奈の手に乗せ、
「特務員! 行き先は支笏湖じゃ‼︎ 飛行機のチケット取るぜよ」
「乗り物は経費になるので使わないでください」
 特務員と龍馬に求められるのは行脚。杏奈は一切の甘えを禁じる。
「……ここは奈良県じゃぞ?」
「津軽海峡を越える時はおばあちゃんがマグロを仕入れてる大間の漁師がいますので、その漁船に乗ってください。もしも、その漁船に乗らないで北海道に来た場合は特務員は解雇、龍馬さんは座敷童管理省分署への立ち入りを禁止します」
「……、……」
「日に三食。二四時間小豆飯が食べれる座敷童管理省への立ち入りを禁止します」
「……、……、」
 龍馬は額に青筋を浮かべながら、
「おぉおぉ! やってやるぜよ! 行ってやるぜよ! ほんま土佐女は気が強うてかなわん!」
「それでは特務員の皆さん。北海道への出張です」


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ