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座敷童のいち子 作者:有知春秋

【近畿編•東大寺に眠ふ愛】

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 座敷童管理省の特務員二○人が大仏池の北側と南側に移動を開始すると、梅田達也といち子と俺も大仏池の西側に移動を開始する。
「松田の跡取り」
「?」
 吉法師の呼び掛けに振り返る。
「我の私情に付き合わせてすまなかった」
「何言ってんだ。八慶や八太も吉法師の私情に自分達の私情を重ねてここに来たんだ。…………吉法師?」
「?」
「……お膿、見つかるといいな」
「吉法師! かくれんぼは終わりじゃ!」
「うむ。……神童いち…………」

『グオォオォォオオオォォガァァァァァァァァァァァァァ』

 突如、雄叫びと共に大仏池の水面が盛り上がり、周辺に水飛沫を降らす。
 杏奈はイヤホンマイクに右手を添える。
「北側、南側の弓隊は矢を放ち後退。西側が間に合いません。各槍隊一○人と各刀隊五人を西側に移動。各特務員五人それに続いて下さい」
『『…………』』
 各特務員からの応答が無い。オロチの出現に言葉を失っているようだ。
 その時……
「座敷童! 槍隊一○人! 刀隊五人! 特務員五人各自で西側に配置! 弓隊! はなてぇ‼︎」
 アーサーの怒声を思わす大声。
 オロチ出現に動じないアーサーの大声に北側の弓隊が矢を放ち、南側の弓隊もそれに続く。槍隊と刀隊は素早く編成を組み大仏池の西側に移動。それに特務員が続く。
 オロチは弓隊の矢を物ともせず、奇声を発しながら空を突き抜けるように伸びる。
 硬い腹は白金の如く輝き、ダイヤモンドの如く輝く背中の鱗は青白く発光、提灯の灯火を呑み込み大仏池だけ昼間にする。
 その圧巻の迫力は小山と表現するには足りない。
 大気を吸い込むが如く開いた大口には肉食獣を思わす牙が生え並び、うねりながら伸びる姿は蛇というよりは龍。
 弓隊が放った矢はオロチの身体を射抜く事なく、ダイヤモンドを思わす鱗に弾かれる。
 提灯が大きく揺れ動く中、杏奈のさらなる命令が続く。
「しずかちゃん。八慶君。八太君。お膿生存確認開始」
「任せるでありんす」
 しずかは空間を切るように扇を広げ、一歩踏み出す。
 踏み出す一歩は舞いを思わせ、三頭身のしずかが四頭身になる。更に一歩、更に一歩進む毎に五頭身、六頭身と成長を続け、水面に立った時には八頭身になる。
 絶世の美女と謳われる白拍子が水面を優雅に舞う中、扇からは水飛沫を払うように風が巻きおこる。
 杏奈とアーサーはオロチという脅威を前にしずかの舞に酔っていた。
 戦場にあるまじき心に開いた隙間だが、それだけの美が絶世の美女へと変貌したしずかの舞にはある。
 しかし、その舞に酔いしれたのは数秒、しずかが水面を蹴った瞬間、舞は美からオロチの頭部に向かう弾丸に変わる。
 杏奈とアーサーの視覚にオロチが戻り、我に返る。
 そんな未熟な二人の代わりにオロチを警戒していた龍馬が笑みを浮かべながら一言。
「今のところはゆっくりと観戦していても大丈夫ぜよ」
「気を引き締めます」
 杏奈は黒縁眼鏡を中指で押し上げ、吉法師を見やる。
「吉法師さん。お膿さんが生存確認できない場合は……」
「是非にあらず」
 吉法師は八慶と八太に視線を向け、
「八慶。八太。……よろしく頼む」
「小豆飯、丼一○杯だ」
「兄者! 一○杯じゃ足りない! 吉法師! 一二杯だ‼︎」
「うむ。了解した」
 言うが先か八慶と八太は地面を蹴り、池の水面に向かって走り出す。
 その足は一歩進む毎に筋肉が脈打ち、振り抜く腕は力強く脈打つ、水面を前にした時には筋肉質な肉体を形成する。
 八太は目力の強い肉食系な青年に変貌し、八慶は目を瞑った美形の青年に変貌。
 水面を走り、オロチを前にしたと同時にオロチの腹に拳を打ち込み、轟音を唸らせる。
「バカ八重!」
「黙るでありんす!」
 八太の声に、しずかは上昇を続けながら扇を振り、西側に倒れるオロチの身体を強風で押し込み東側に向ける。
 それを機に、北側と南側の槍隊は地面を蹴り、水面を走り、オロチに飛び込み、鋭利な鱗の隙間を突くように槍を刺しこむ。すぐさま離脱して陸地に撤退。
 弓隊が矢を放つ……が……
 オロチは頭を左右に振り、身体をうねらせて矢を払い、刺さった槍を陸地に飛ばす。
「弓隊後退だ!」
 八太は弓隊の後退を促しながら水面を走り抜け、北側の虚無僧に飛んで行く槍を蹴り、殴り、地面に刺していく。
 八慶は水面を蹴って陸地に向かって跳躍すると、幼児の虚無僧へ向かって行く槍を掴み取り、着地と同時に華麗に槍を操り、南側に飛んできた槍を払い落として行く。
「刀隊前に出ろ!」
 言うと同時に地面を蹴り、水面を走り、オロチの鋭利な鱗を駆け上り、頭部に槍を刺しこむ。
 オロチは奇声を挙げながら激しく頭や身体をうねらせ、水飛沫と共にその巨体で虚無僧一○○人を襲う。
 激しくうねる身体を刀隊と槍隊が弓隊を庇うように抑え込む。特務員は今になって我に返り、恐怖で震える足を躍らせながら、オロチのうねる身体を抑え込む。が鋭利な鱗が容赦なく襲い、裂傷する。
「八重!」
 八慶は北側と南側の被害にしずかを呼ぶ。
「八太!」
 しずかは八太を呼びながら左手で白鞘巻きの柄を握る。
「わかってらい!」
 八太は両腕を腰の位置に置く構えをしながら水面を走り、うねるオロチの腹を登り、中腹に両拳を撃ち込む。
「全員離れろ!」
 オロチの身体が硬直する。
 その隙に虚無僧と特務員は弓隊の幼児幼女老人を抱え上げてオロチから離れる。
「「八重‼︎」」
 八慶と八太が同時に言い放つ。
 しずかは白鞘巻きの刀身を抜く。
「行くでありんす」
 扇を持つ右手と白鞘巻きを握る左手を肩の位置まで上げながら右に一回転、甘い香が緩やかな風に流れ、二回転目の時には身体を倒し、オロチの頭頂部に向けて下降、その瞬間、しずかを中心に下降に流れる円柱形の竜巻が発生する。
 オロチを巻き込む竜巻は頭部にいる八慶や腹部にいる八太を巻き込み、高回転したしずかはオロチを切り刻んで行く。
 その狂乱舞はオロチの血飛沫さえも演舞の一部にして美を感じさせる。
 水面に激突する瞬間。しずかは扇を水面に叩きつけ、爆発を起こして急停止。
 身体ごと扇を振り上げると、下降していた竜巻は上昇に変わり、八太や八慶を巻き込むようにオロチを切り刻みながらしずかは空中に戻る。
「浅いでありんす!」
 しずかの声に緊張が走る。
「本気出したい!」
 八太は竜巻を突き抜けて水面に着地する。
「八重。八太。倒すのが目的ではない」
 八慶はオロチの頭に槍を刺したままその場で踏ん張る。
 八慶と八太は共に無傷。
 八慶がオロチの頭部の自由を奪い、八太がうねる身体を硬直させ、しずかが下降上昇で切り刻む。しずかを絶対に信用した三人のコンボ技だが、オロチは目に見える速さで再生を始める。
 全力で闘えない今の三人の限界。防戦を予感させる。
 オロチの雄叫びは眼前にいるしずかに向けられ、同時に牙が乱列した大口が襲う。
 しずかは上昇して大口を回避。
 オロチは上昇するしずかを追いかける。
 ガヂンッと大口を閉じると、青白く輝くオロチの全長が露わになる。
 しずかはオロチの眼前二メートルに浮く。
「四○メートル……」
 呟くと、オロチの頭部にいる八慶に、
「八慶! 成長が早いでありんす! これ以上、大きくなれば今のわっち等では手に負えないでありんす!」
 オロチの振り向く方向とは逆に扇を振り、四方八方から突風を放つ。
 八慶はオロチの頭部から槍を抜き、しずかが巻き起こす風に合わせてオロチを切り刻みながら水面に着地。
「兄者! 師匠は⁉︎」
 八太は八慶に駆け寄る。
「わからん。八太、行けるか?」
「よしきた!」
 八太は左手を広げオロチの腹部に向ける。
 八慶は槍を華麗に回しながら水面を蹴り、オロチの腹部に槍を突き刺す。
「八重!」
「ありんす!」
 扇を大袈裟に振り上げる。
 一瞬の無風。その直後、八慶を中心に上昇気流が起こり、オロチの腹部に槍を突き刺した八慶をオロチの顎先に向けて上昇。八慶の握る槍がオロチの腹を裂いていく。
 それに続くように、目に見える速さで再生を始めるオロチの腹部を、八慶の後に続いた八太が拳と足で連打していく。
「兄者ダメだ! 本気じゃないから届かない!」
「八太は使えないでありんす」
「八重。下降だ」
 八慶は即座に判断し指示を出す。
「逆風付きでありんす。加減は六割でいいでありんす」
「うむ」
 八慶は槍を投げ捨て右手を広げると、中空に浮きながらオロチの頭部に向けて左拳を打ち込む。
 強制的に下を向いたオロチの先には八太。
 オロチは大口を開けて八太に襲うが、下から突き上げた八太の蹴りが顎先を捉え、強制的に大口を閉じる。
 しずかは扇を振り下げ、下降気流を起こす。
 八太は、強制的に下がったオロチの鼻先に回し蹴りを入れ、その反動で離脱。
 八慶は下降気流に乗り、オロチの頭部から喉元から腹部から鋭利な鱗が生えた背中から、轟音を鳴らした連打を放つ。
 八慶の空気を響かせる轟音連打に合わせて、しずかは扇を右往左往させ八慶が放つ打撃をオロチの体内に留める……が、逃しきれない振動が木々の葉を落とし、大仏池を囲う塀にヒビを入れ、瓦を落とす。
「兄者! 師匠は⁉︎」
 八太は声を上げる。
「ダメだ……お膿の気配がない」
 八慶は苦虫を噛んだ顔を作る。
 拳を握り締めた二人の苦悶の表情は虚無僧達の肩を落とさせ、大仏池に哀しみの空気が流れる。
 しかし、一同が哀しんだところでオロチの再生は止まらない。
 しずかは覚悟を決め、八慶と八太に言い放つ。
「これ以上は東大寺が倒壊するでありんす。わっちは北側と南側、八太は西側、東側は八慶、無念でありんすが…………お膿は死んだでありんす」
「……、吉法師! 俺等のせいだ! 小豆飯は一○杯でいい! オロチを……」
 八太は東側にいるはずの吉法師に視界を向けるが、そこに吉法師はいない。
『よそ見をするな』
 力強くも爽やかな風を思わす男性の声音が八太の耳に届く。
「八太。八慶。八重。我の私情に尽くしてくれた事、心より感謝する」
「吉法師。わっち等の至らぬところでありんす」
 しずかが見る先には、オロチの眼前に向かって大刀を振り上げた戦国の覇者、織田信長こと吉法師がいた。
 その腕は逞しく、その足は逞しく、その身体は弱者を包むが如く逞しく、戦国の覇者の如きその風貌は凛々しく神々しい。しかし、瞳の中には哀が籠る。
「お膿は我の中で……生きて、おる‼︎」
 大気を切るが如く振り下げた大刀。その威力は届いてない硬い鱗を突き抜け、全長四○メートル半径三メートルのオロチを両断していく。
 ガギィィィィン!
 吉法師の大刀から金属音が鳴り響き、腹部の途中で止まる。
 間髪入れず、しずかは扇を左から右に大きく振り、吉法師を陸地に飛ばす。
 その瞬間、ぽぉ〜〜〜んと鼓の音が鳴り響く。
「「八重! 逃げろ!」」
 吉法師、八慶、八太問わず北側南側東側の座敷童が声を上げ、耳を塞ぐ。
 その行動に杏奈やアーサーや特務員が疑問符を浮かべる。
「井上さん! アーサー! 梅田! 耳を塞げ!」
 俺の荒げた声に三人は耳を塞ぎ、大仏池にいる全員が耳を塞ぐ。
 しずかだけが扇と白鞘巻きで両手が塞がってるため上空へ猛スピードで逃げる。
 ぽぉ〜〜……ん、ぽ、ぽぉん、ぽぉ〜んとオロチの腹の中からけして上手いとは言えない鼓の音が響き渡る。
 鼓の音が鳴る度に、再生していくオロチの腹が膨らみ、鼓動をするようにゆっくりと喉元まで膨らんでいく。
 鼓の音がリズムを早く刻んでいくと、演奏者の荒れる心を表すように不況和音になる。
 膨らむ身体にオロチの再生が間に合わず、傷口が開く。
 その時には、木々が葉を落とし雑草がお辞儀するほどの騒音に変わる。
 不況和音から騒音に変わり、オロチの身体は限界まで膨張。騒音が轟音に変わった瞬間、吉法師の大刀が止まった位置、腹部が中から弾け飛ぶ。
 血飛沫の雨が大仏池に降り注ぐ。
 一同の視線は一点。露わになったオロチの腹の中。そこには、ボロボロの赤い着物を着た女性が立つ。
「わらわの眠りを妨げる阿保ぅ者はぁ……誰だぎゃぁ」
 ボサボサの頭から覗かせた寝起きで不機嫌な表情は、外見と反した高貴さを残す。
 女性の切れ長で虚ろな目は正面の陸地に向けられ、不機嫌さながらに吉法師に向けて鼓を投げる。
「みゃあ……」
 あくびをすると鼓を拾う吉法師に視線を向け、
「のぶにゃがぁ……まだ朝でねぇべかぁ。一刻後に起こすだぎゃあ」
 寝ぼけているのかオロチの青白い発光を朝と勘違いする。
 もう一度あくびをすると、ボサボサの頭を掻きながらオロチの腹部へと戻っていく。
「バカ師匠! 何戻ってんだ!」
「……、……」
 八太に師匠と呼ばれた女性、お膿はゆっくりと八太の方を振り向き、
「八太…………、騒がしい阿保ぅがおっては寝れにゃぁでねぇか。死ね」
「生きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃる! 死ぬまで生きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃる! バァァァァカバァァァァカ! バカ音痴師匠!」
「今……、……、殺してやる!」
 切れ長な目でギロリと八太をロックオン、オロチの腹部から飛び出し、着地と同時に水面を爆発させながら八太の元に走る。その姿は悪鬼の如く、殺意しかない。
 命の危機を感じた八太は、間髪入れず逃げる。
「吉法師! オロチは任せた!」
「待てやクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 八太とお膿は講堂跡の方に走っていく。
 大仏池には哀しみが無くなった代わりに八太に対しての心配の空気が流れていた。
 杏奈は二人を目で追った後、ゆっくりと再生していくオロチに一旦目を向け、再生速度が遅くなったのを確認。大爆笑する龍馬と自分の先祖に圧倒された達也を横目に俺を見る。
「今のが……梅田家初代……ですか?」
「予想以上の変人だな」
「吉法師さんの正室ですよね?」
「吉法師は今でこそ落ち着いてるけど人間だった頃は座敷童好きの変人だ。意気投合したんだろ」
「……、変人、ですか」
 杏奈はお膿に将来のアーサーの姿を見た。
 今は座敷童に嫌われたと勘違いしてるアーサーだが『嫌われるならとことん嫌われてやる』と考えを変えた時、アーサーはお膿のようになりかねない。いや、お膿の存在が近い将来気づかせる。遠慮のない対応が座敷童の遊びだ……と。
 杏奈は気持ちを入れ替え、池に視線を戻し、イヤホンマイクに右手を添える。
「これからが本番です。弓隊は木の影から後方支援、槍隊と刀隊は『大仏池から出てきた獣』を討伐」
 杏奈の視線の先、大仏池からは魔物と化した獣が現れる。
 鋭利で凶暴な角を持つ鹿、四本の鋭い牙と硬い毛を生やす猪、翼の羽が刃と化した鴨、図鑑にも載らないその風貌は亜種ではなく魔種を思わせ、続々と陸に上がる。
「皆さん、これからは乱戦になります。しずかちゃんは東大寺の倒壊阻止。吉法師さんと松田さんと梅田さんといち子ちゃんはオロチ封印。八慶君は四人の攻撃をオロチの体内に留める。龍馬さんはアーサーさんを守ってください。北側、南側、東側の皆さんはオロチを気にせず全力で獣を倒してください」
「俺もオロチ封印⁉︎」
 達也はオロチ封印に組み込まれた事に声を上げる。
「梅田家ですよね?」
 当たり前ですと言わんばかりに即答する。
「俺……水の上なんか走れないぞ」
「泳いでください」
「…………」
 額から大量の汗を流す達也。予定外だが杏奈なら言いかねないと予想はしていた。しかし、自分にはオロチはおろか池から現れる獣の相手さえ無理だと確信している。
 そんな達也の葛藤を余所に、大仏池に元気いっぱいな大声が響く。
「ワタキのぉぉぉぉぉぉぉぉ出番じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 大声を挙げて大仏池に向かって走り出したのはいち子。
 その歩幅は小さく、その腕は短く、獣を横切り柵を飛び越える跳躍は二○センチ、見事に短い左足がパイプに引っかかり、派手に転がりながら水面にダイブする。
「いち子ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 俺は一目散にいち子の元に走る。
「…………」
 返事はない。いち子はぷかぷかと水面に浮いてるようだ。
「いち子! 無事か⁉︎」
 水面に浮くいち子を抱き上げる。
 うっすらと目を開けたいち子は「がはぁ」と息を吐き。(本人的には血を吐き)
「翔……、さ、さすがはオロチ……じゃ」
 カクッと気絶する。
「いち子ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 俺は声を上げながらオロチにやられた(?)いち子を強く抱きしめ、オロチを睨み付ける。
「蒲焼きにすんぞコラァァァァァァァァァ!」
『グオォオォォオオオォォガァァァァァァァァァ』
 再生途中のオロチが身体をうねらせながら眼前にきて、雄叫びを放つ。
 その瞬間……
「どぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
 俺といち子は雄叫びに吹き飛ばされ、
「梅田ぁ! あとは頼んだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 大仏殿の方向に吹き飛ばされた。
 大仏池から強制退去された俺といち子は、梅田達也に全てを任せて前線を離脱。
 顔を引き攣らせた達也は大仏殿の方向に向けていた視線を額に汗を溜めたアーサーと杏奈に向けてから爆笑する龍馬に向けると、オロチの再生を見てる吉法師に向ける。
「き、吉法師……松田家が……飛んで行ったぞ」
「うむ。いつもの事だ。そもそも、戦闘に関しては松田家といち子に期待はしてない」
「…………はぁぁぁぁぁぁ? 神童いち子だろ! その守役の松田家だろ! 八首の八岐大蛇を倒した一族だろ!」
「酒で酔わして眠らせたところを切り分けただけだ」
「マジで言ってんのか⁉︎」
「本気を出したら八童最強は神童いち子で間違いない。松田家も然り。だが、いち子があの調子では仕方ない。その為、北海道のオロチに備え、八重が北海道に移住し、各地を回る梅田家が首一つの段階のオロチを倒すのだ」
「う、梅田の責任重いだろ!」
「もしも首が合わさる事があれば、竹田家と東北の座敷童がいる。首一つの内は梅田家の役目だ。戦国時代からは、お膿に代わって我が対処していた。達也がお膿のようになってくれたら、我も少しは楽ができる」
「ま、マジかよ……」
 いち子と松田家の悪ふざけよりも、梅田家本来の役割にプレッシャーを感じる。何故なら、目の前にいるオロチや獣を本来は梅田家が対処するのだから。
「案ずるな。お膿の技は音、本来は外側から体内に響かせて凡ゆる器官を破壊する技。身体が再生しても今の段階では感覚を取り戻すのに時間がかかる」
「弱ってる内に攻撃しなくていいのか?」
「東大寺のオロチは硬い皮膚や鱗の防御力と再生力に過信した無防備な単純攻撃。攻略法は細かく攻撃するよりも大ダメージを与え続ける事だ。その為、近畿地方は八重•八慶•八太のような物理攻撃の高い座敷童が護っている」
 吉法師は細かく攻撃して再生させるよりも、オロチの再生を終わらせて大ダメージを与える方法を取る。
 細かく攻撃しても浅い傷のオロチは動けるが、大ダメージだと再生するしかないから周りに被害が出ない、と考えての攻略法だ。それはそのまま近畿地方の座敷童の特性にもなる。
「近畿地方の座敷童は?」
 達也は今の今まで東大寺に現れない近畿地方の座敷童に疑念が出る。
 達也の疑念は八慶が返答する。
「近畿地方の座敷童は近接戦闘を得意とする。私や八太や八重の攻撃だと被害が出てしまうから『獣が外に出ないように監視している』」
 八慶が視界を向ける大仏池の外周には、いつの間にか多勢に無勢の座敷童が待機していた。その風貌は、男の座敷童は褌一丁、女の座敷童は直垂(ひたたれ)
「……近畿地方の座敷童は褌と直垂に拘りでもあるのか?」
「それは東大寺に言え。我等の一張羅は東大寺からの贈り物だ」
 八慶は視界をオロチに戻し、
「そろそろ再生が終わる。後は私と吉法師で前後左右から体内にダメージが残るように攻撃する。初陣の梅田家跡取りは、獣の相手をしながら今後のために見ていろ」
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