094 オニキスの休日
GM「まだまだ鳥と鼠推しの展開は続きます」
ミオ「みんなの休日姿とか、わたしは見ることできないんだよねぇ」
GM「あなたは年中休日みたいなものでは」
ミオ「失礼な」
ふむ、さて。何をするであるかな。
《久遠の彼方》に封印される以前は日がな一日飛び回ったり、挑んでくる魔物を蹴散らしたり、新しい魔法を開発したりとやることはあったのであるが、封印後は何もできずに数百年過ごしたわけであるからして、暇な時間の過ごし方を若干忘れているようである。
我が主に迷惑をかけるわけにはいかないからして、元の姿に戻り飛び回るのも、周囲に戦いを挑むのもまずいであるなぁ。新しい魔法は日々考案しておるし、昨日までポーションの開発を手伝っていたわけで、真新しさがない。
どうしたものやら。
「あ、オニキスさん」
「うむ?」
そんなことをつらつらと考えながら王都外街をあてもなく歩いていると、声をかけられた。人族の少女の声。見ればふわっとした金髪に青色の瞳、背は我が主より少し高いくらいで、容姿はそれなりに整っている。確かこの少女はガイナスとかいう男のパーティーメンバーの治癒術師。名前は……。
「ビスチェであったか」
「はい。覚えていてもらったようでうれしいです。こんにちは」
少女は屈託なく笑って頭を下げた。随分と嬉しそうな声である。
数日行動を共にしただけではあったが、向こうからすれば我が主は命の恩人。従者の我にもまあ、そんな反応もするのであろうか。
「今日はお姉さま……ミオさんやジェードさんはご一緒じゃないんですね」
「うむ。我が主たちは少しでかけているのである。明日には戻ってくるであろうよ」
「あうう……。実は《黒の旋風》は明日から依頼で外に行かなければならないんです……。残念です」
「ふむ。まぁまた会う機会もあるであろうよ」
そういえばこのビスチェ嬢は随分と我が主にご執心であったな。……鮮烈な口づけをされたわけであるから致し方ないやもしれぬが。
口づけと言えば我もされたわけであるが、あれには驚いたであるな……。しばし呆然としてしまったのである。ハイグリフォンの我はそのような概念があることを知ってはいても、実感はできなかったわけであるからな。グリフォンにおける異性との行動と言えば、ともに空を舞う、子を成すと短絡的であった。いかに人の営みが複雑なのかわかろうというものである。まぁ、それも悪くはない。
……ときに、あの時魔力を口づけで譲渡したわけであるが、あれはいったいどういう原理であったのであろう。今度我が主に聞いてみるとしよう。
と思いつついつもなんだか聞けないのではあるが。思い返すのが恥ずかしいとかそういうわけではないのであるが。断じて。
「オニキスさんはこれからどちらへ?」
「いや、特に予定はないのであるよ。ぶらぶらと街を歩いていただけである。ビスチェ嬢は?」
「わたしはこれから孤児院……わたしのお世話になった施設へ遊びに行こうと思いまして。もしよかったらオニキスさんもご一緒にどうですか?」
「ふむ。ではご一緒させてもらうであるかな」
「本当ですか。ありがとうございます。きっとみんなも喜びます」
「では手ぶらというのもなんであるし、なにか買っていくとするか」
「いえ、そんな気を使っていただかなくても」
「こちらの気の持ちようであるよ。幸いそこに有名な菓子店があるからして」
この世界での食事はかなりの発展を遂げている。さすがに我が主の記憶にあるようなレベルではないものの、人族の料理など、この体になるまで食したことのなかった我からすれば毎日の食事は驚きの連続であった。中でも甘味の類には心を奪われたといってよかろう。血の滴る生肉もあれはあれでよいが、慣れてしまえば人族の食事の方がおいしく楽しいものである。
そして、この王都外街には菓子店が多い。というよりも、貴族を含め富裕層が多く住まう王国の首都に多いといった方が良かろう。
「こ、ここ、最近評判の“グリフォンの止まり木”じゃないですか。だ、だめですよオニキスさん、ここは確かに有名店ですけど超が付くほど高い貴族御用達のお店なんですよ。わたしだってBランク冒険者としてそこそこ稼いでますけど、貴族御用達なんてとても手が出るようなところじゃ」
「うむ? まぁ気にすることはないであるよ」
「え、ちょっと、オニキスさん!?」
我は訳の分からぬことを喚いているビスチェ嬢を連れて店内へと入る。この店は味も一級品であるが、何より店の名前が素晴らしい。我も喜んで止まる。
「いらっしゃいませ。あ、オニキスさん。また来てくれたんですね、嬉しいです」
「御無沙汰であるな、クレハ嬢」
我らを出迎えたのはこの店のオーナー兼料理人兼売り子のクレハ嬢。20代中ごろの女性で、少しだけ長い耳が特徴的である。この店には売り子がもう一人いるはずであるが、今日は休みなのであろう。店内には彼女一人だけであった。
こじんまりとした雰囲気のいい店である。実際に我が止まり木として利用したなら潰れそうなものだが、そこまで野暮なことは言わないのである。
「そちらの方ははじめましてですね。ようこそ、グリフォンの止まり木へ」
「あ、はい、ええと、ビスチェです。よろしくお願いします」
頭を下げあう二人。というより、ビスチェ嬢。それは店に訪れた客の言動ではないであろう。
「クレハ嬢。子供が好きそうな菓子をいくつか頼むである」
「はい。少々お待ちくださいね」
「……あれ、そんなに高くない。オニキスさん、これって?」
「ふむ。我にはビスチェ嬢が何を言っているのかよく分からないのであるが、この店の価格は前からこんなものであるよ」
「ああ、そうなんですよね。どこからかうわさが流れているみたいで、うちが超高級菓子店だって。最近貴族の方が買いにいらっしゃるから、それに尾ひれがついたのだろうと思うんですけど」
「そ、そうだったんですか。……それにしても、クレハさんとオニキスさんがお知り合いだったのには驚きました」
「あはは。オニキスさんと、ミオさん、ジェードさんには以前に助けてもらったことがありましてね。それからちょくちょくこうして買いに来てくれるんです。大事なお客様ですよ」
「助けてもらった、って?」
ここで、商品を包んでいたクレハ嬢がこちらを見た。ふむ、客のプライバシーを勝手に公開しない程度にはこの娘も良識がある。
まぁ我が主のお眼鏡に適う人格とお菓子作りの腕であるからして当然であるか。我が主の人を見る目はまったく、鋭い。
我は小さくうなずくことで了承の意を示した。我が主の武勇伝であるからして、この話が広まることは別に悪いことではなかろう。
「はい、この耳でお気づきと思いますけど、わたしは森人とのハーフなんです」
「あ、やっぱりそうでしたか」
「ハーフは一応、法的な差別対象ではないんですけど、あまりよく思わない人もいるみたいで、店を荒らされたことがあるんです」
ハーフは、人族の血を引いているということで王国内での権利は認められている。亜人族を嫁に迎える人族がいるのであるから当然ではあろう。もともとはハーフの者が一時期王として立っていたことがあったという歴史を鑑みているのであろうとジェードはいっていたであるな。しかし、中には穢れた血が半分はいっているとして、嫌うものもいるのである。まったく、そこらへんの神経は理解できないであるな。しようとも思わぬが。
人族も亜人族も流れる血は変わらぬというのに。
我にとっての他の生命など、我と、我が主と、そのしもべと、その他。そのくくりだけで十分である。無論、我が主を害したものはその他の中にも入れないわけではあるがな。
「その時にミオさんたちが助けてくださいまして。オニキスさん、改めてあの時はありがとうございました」
「なに、気にするでない。我が主も礼を言われたくてやったわけではないと言っておったしな」
「ええ、それでもですよ」
あれは王都にきて数日。まだ我が主がEランクになる前であったか。偶然この店の前を通りがかった我らはなにやらいさかいが起きているのを発見した。男数人がクレハ嬢一人を囲んで恫喝していたのである。
男たちは随分と汚い言葉を浴びせており、クレハ嬢は立っていることもできないような状態であった。涙を流していたのは、まぁ、見なかったことにしているのである。
我が主はしばらくの間その様子を傍観していた。あの頃の我が主はグリードグリムに負わされた心の傷が癒えてはおらず、他人と関わるのをひどく嫌っていたのである。それでも、ついに男共がクレハ嬢に手をあげると我慢がしきれなくなったようであった。
我が主は“怒る”ということをほとんどしないのであるが、一度そうなったときには本当に怖い。それはもう、空の王たる我が恐怖するほどである。あんな剣呑な雰囲気は、見た目は少女の我が主が出していいものではなかろう。
あのまま放っておけば我が主は男共を殺していたやも知れぬ。たとえば体格やステータスの話をするのであれば、我が主は決して男共に対して優位であったわけではなかろう。なにせ体格は年端もいかぬ少女のもの、ステータスも素の状態ではレベル1。STRなど弓を装備しなければ子供にも劣る。それでも、チンピラ崩れの男数人程度軽く殺してしまいそうな雰囲気であったのだ。グリードグリムのあの事件のあとは我とジェードに対しても残虐性が見え隠れするくらい攻撃的に刺々しかった……端的に言えば荒れていたわけであるし。
いまだに我が主の底は見えぬ。
そんなわけで実際に男共を軽く撫でてやったのは我とジェードであった。全治3か月ほどであろうか。我らのなんとやさしき事よ。我もジェードも手加減と言うものを学んでいるのである。
我が主はクレハ嬢に礼を言われ、照れ隠しもあったのであろうが“礼を言われるために助けたんわけじゃないよ”と冷たい態度を取っていた。しかし、クレハ嬢の「助ける側はそうかもしれませんが、助けられた側がお礼を言うのもまた当然だと思います」との言葉に少し考え込んで、「そうだね、うん、ごめん。どういたしまして」と素直に礼を受け取ったのである。そして礼にともたせてくれた菓子を見て、微笑んだ我が主は実に可憐であった。そしてその菓子が美味であり、数度通ううちに仲が良くなったというわけである。
……ちなみに、この話にはクレハ嬢の知らない続きがある。
クレハ嬢を助けた後、我が主は男共を衛兵の詰所に連れて行かず、路地裏で尋問を行った。その結果、男共は別の者に雇われたということが判明したのである。我は全く気が付いていなかった。ジェードもである。我が主だけが、この件の裏に更なる黒幕が潜んでいることを察知していたのである。まこと、慧眼。流石我が主である。
どうやって気づいたのかと言えば、「言動が命令を実行する人間のそれだったから」らしいのであるが、我には全く分からないのである。
裏で男共を雇っていたのはライバルの菓子店の店主であった。新興のクレハ嬢の菓子店を早々に潰しにかかったのであろう。たしかに、クレハ嬢の作る菓子は非常に美味。その懸念はもっともであるが、なぜ自分の腕をさらに磨くという選択肢を取れないのであろうかな。
我が主はその黒幕の店を訪れ、散々に店主の心を折り、めいいっぱい脅して帰った。その結果クレハ嬢の店はそれきり攻撃されることはなく順調に評判も良くなっているというわけである。
あの一件で我とジェードは再度心に深く刻んだのである。我が主を怒らせてはいけない、と……。
「そんなことがあったんですか。大変でしたね」
「今ではいい思い出ですよ。オニキスさんたちとも出会えたんですから。あ、オニキスさん、包み終わりましたよ」
「ふむ。いくらである?」
「60Gですね」
我は巾着から金を取り出し払う。我が主であればアイテムボックスに、ジェードであれば体内にアイテムを収納しておけるが、我ではそうもいかないのでこうして別に持っている必要がある。ハイグリフォンとして生活していた時は持ち物などなかったわけであるからして、こうして常に何かを持ち歩かねばならぬというのは新鮮なものである。若干煩わしくもあるが。
まぁ今かけている度の入っていない眼鏡というものと同様に、我が主が贈ってくれた巾着であるからして、愛着があるのである。
我が主曰く、ファッションは大事とのことであるが、眼鏡をかけたとたんに我が主の我への態度が非常に甘くなったため、こうしてかけ続けている次第である。
それ以外にも身だしなみに気を付けるようにと我が主からは言われている。
そういう本人は割と身だしなみに無頓着なのは謎であるが。
ちなみに、持ち金は先日賭博場ですべてすったわけであるが、昨日ポーション完成のお礼にと伯爵からいくらかいただいていたのである。むこうからすれば神の使徒へお布施をしたという程度やもしれぬが。
会計も済ませ、さて店を出ようかとなったとき、少女がさらに一人入店した。犬人族の奴隷少女、名を確かハンナと言ったか。少し前からこの店で働くようになったようで、見るのも今回が2度目である。宿屋で働く奴隷ではあったが、主人の許可を得てこの店でも働いているようである。
「あ、こんにちはっ」
「うむ、こんにちは、である。……と、ハンナ嬢。襟が曲がっているであるよ」
我はひょいとハンナ嬢の襟元をただす。接客業であれば余計に身だしなみには気を付けるべきであろうな。ふむ……こういうときは、長身なのは便利である。普段は我が主から背が高すぎると文句をもらうのであるが。
我は半精神生命体であるからして姿かたちにはある程度の融通が利くのではあるが、これ以上身長を低くすると座った時に翼を地面にぶつけてしまうのである。翼は我の象徴であり誇りである故、こればかりはどうしようもない。
「す、すみませんっ」
「気にするでない。お勤め頑張るであるよ」
「はいっ。ありがとうございますっ」
「ご来店ありがとうございました。今度はぜひミオさんとジェードさんも連れて来てくださいね。あ、あとハウ君も」
「うむ。伝えておこう」
「あ、ええと、お邪魔しました」
相変わらずビスチェ嬢の言動が客のものではないであるな……。
さて、孤児院であったか。どんなところであろうか。
さて、今回はオニキスの休日でした。オニキスの話のはずなのに半分はミオさんの活躍を書いていた気がする。
そして、長い。いつもは2000字くらいで投稿しているのにこの話は6000字。どうしてこうなった。ハウの話とまとめて一話とか夢物語でしたね。
3人の少女にフラグを立てているように見えるオニキス。しかし実際にはビスチェとクレハはむしろミオ、ハンナはジェード(ヒスイ)にフラグ立ってますよね。オニキスカワイソス。ちなみに従業員のハンナちゃんは64話『Eランク』と77話『ヒスイの一日』で話に出てた子です。覚えていたでしょうか。
とするとなぜクレハの店が貴族に知れ渡ったのかも予想が付きますかね。ええ、まぁだいたいヒスイのせいです。
本当は次話でオニキスとヒスイの出会いとかやりたかった気もするんですが、さすがに長いよ!ということで、オニキスの休日はここで終わりです。残りはご想像にお任せします。
次はハウ君だ!




