091 メンタルジャック
GM「そういえば、この話はだいたいガイナス達と別れてから2週間後の話です」
ミオ「86話賭博場 の冒頭に書いたね」
GM「デスためはこうやって結構時間が飛びますね」
ミオ「毎日毎日面白いことは起こらないってことだね」
WC世界における神官は神への信仰心を用いて回復魔法を行使する。それはとりもなおさず女神キャルオリアへの信仰心が高ければ高いほど優秀な神官であるということを意味する。
王国薬泉院の王都本部に勤める300人以上の神官は、もちろんエリート街道まっしぐらの一流の神官魔法の使い手だった。実力に比例して女神への信仰心は高い。それはジーラ伯爵も同様である。
さて、ハウライトはそんな彼らに何を行ったのか。
「ほら、起きてください」
「ん……私は……」
「自分の名前と所属、さっきまで何をしていたか言えますか?」
「私は……リュシノン王国伯爵位ジーラ・キルシュタット、王国薬泉院の長にして十傑評議会の第4席次……先ほどまでは新たなポーションの開発を行っていて……突然眠気が……」
「意識は大丈夫そうですね。実験通り記憶もメンタルジャック近辺のものは消えてると」
「む……ん……き、貴様らは何者だ!」
ぼうっとした頭で、問われるがまま質問に答えていた伯爵は、ようやく覚醒した。そして、自身に質問をしていた少年と傍らに佇む青年の姿に見覚えがなく、誰何する。薬泉院の奥は関係者以外立ち入り禁止になっている。長たる自分の許可なくこの場にいるということは明らかな不審者であった。
「あれ、わかりませんか。ほら、よく見てくださいよ。思いだして」
ハウライトは楽しそうにほほ笑む。まるでいたずらを成功させた無邪気な子供のよう。
その姿を見て、伯爵は体中に電流が走るような思いをした。なぜ、自分はこんな重要なことに気づかなかったのかと、数秒前の自分を殴りつけたい気分になる。
「こ、これは“使徒様”! も、申し訳ありません、ご無礼を」
伯爵は一も二もなく地面にこすりつける勢いで頭を下げる。王国内で彼に頭を下げさせることができるのは国王と公爵。そして、毎日信仰のために頭を垂れている対象、“女神キャルオリア”のみである。
「そんなに緊張しなくていいですよ。別に罰を与えたりはしませんから。それよりほら、一応確認しますよ。質問に答えてください」
「は、はい。なんなりと」
「あなたの信仰する神の名前は?」
「ああ、使徒様、どうかそのような罰を与えないでくださいませ。使徒様に気付けなかったのは私の不徳の致すところでございます。我が神の名をお試しにならないでくださいませ」
「あ、ええと……」
自分たちに気が付かなかったのはお前の信仰が足りないからだ。お前に我らが神を信仰する価値などない――そんな風に言われているように感じた伯爵は必死に頭を下げる。
一方でそんなつもりは毛頭なかったハウライトの方が狼狽していた。伯爵が頭を下げているおかげでこの狼狽ぶりを見られなかったことは幸運だろう。ハウライトとしてはただ単純に自分の《メンタルジャック》の成果を質問したいだけだったのだ。
ごほん、と咳払いをしてハウライトは重々しく問いかける。
「汝に我らが神への信仰があるのならば、我らにそれを証明せよ。汝の神の名は」
「……口にするのも畏れ多いことでございます。我が神の名はこの世界、イースを統べる女神、ミオ様……」
「結構。汝の信仰を信じよう」
「はっ。ありがたき幸せ」
ハウライトは窮地を切り抜けたことと、自身のスキルが正常に発動していたことでほっと息をつく。
そう、ハウライトが行ったメンタルジャックの内容は“信仰心を向ける先を女神キャルオリアから女神ミオに置き換える”こと。強固な信仰心を叩き潰すのではなく、信仰心の向かう先をいじることでほとんどの労力なく神官たちを洗脳して見せたのだった。
洗脳行為については一家言あるミオの薫陶による賜物である。幼少期から洗脳のやり方を身近で見ていたミオもミオだが、それに薫陶を受けてしまうハウライトもハウライトである。
「さて、それじゃ伯爵。君に仕事を与えよう」
「は、はい」
「外ではそろそろ昏睡状態から目覚める人たちが出始めるはずだから、統率取って混乱を防ぐように。あと僕らがここにいるのはお忍びだから、外部にこの情報を漏らさないように徹底させてね。一段落したらここに戻ってきて。聞きたいことがあるから」
「了解しました。しばしお待ちを」
途中から言葉遣いが崩れたハウライトではあったが、伯爵は不審に思うこともなく部下をひきずって研究所の外へと出て行った。部屋に残ったのは鳥と鼠のみ。
「それにしてもすごいものであるな、メンタルジャックとやらは」
「あはは、褒められると照れますね。まぁ、ジェードさんもこの能力があるから僕をこっちに向かわせたんだと思いますし」
「ふむ。具体的にはどんなスキルなのであるか?」
「基準成功値は30、精神対抗に勝てば70、負ければ0です。もちろん状況による調整はありますし、種族固有の抵抗値とかも加算されるので実際はもっと複雑ですが。成功した場合には感情を操作、もしくは状態を操作します。例えば霧の大森林で僕が周囲の魔物に付与していたのは“被支配”という状態でした」
「なるほど、それなりにピーキーなスキルではあるか」
「だったんですけどねぇ。まぁ稀少個体の僕しか使えない真実レアなスキルではあるんですが」
「というと?」
「ほら、ご主人様の意向でダイスを振らないってなってるじゃないですか」
「うむ。そうであるな」
「僕それ、最初聞いたときキチガイかと思ったんですよね。だって息をするのに鼻も口も使うなって言ってるようなものでしょう」
「ジェードは風景を見るのに心眼を使う、と表現していたであるな」
「そうですね。それで僕は最初の数日、スキルを使うことができなかったんですよ。で、どうしようもなくてご主人様に色々と教えてもらったんです」
「知っておるよ。この2週間ずいぶんと頑張ったようであるしな」
「し、知ってたんですか。恥ずかしいなぁ。隠れてやってたつもりなんですが」
「街の人間や近隣の魔物に片っ端からメンタルジャックをかけていたであろう。“実験したい気持ちはわかる”と言ってジェードの奴が止めなかったのであるがな」
「あー、ジェードさんには敵わないですね……。ええまあ、ありがたいです。そのおかげでダイスなしのメンタルジャックにもかなり慣れはしたんですが、少し使い勝手が変わってまして」
「ほう」
「ダイスを使わないから不意打ちできるんですよ。しかも不意打ちしたら成功率はほぼ100%です。というか、正面切って抵抗するっていう強い意志がある相手以外にはまずもって成功します。操作する内容にもよりますけどね」
「我が主の言葉であるが、ダイスは我らの能力を制限するものであるからな」
「本当にそうですね。操作できる内容もかなり自由が効きますし、細かい調整もできるようになりました」
「それで今回は手始めに全員、我が主の僕としたと」
「はい。実験の時はご主人様に良い印象を抱くように誘導したくらいですけど、今回は信仰心をすり替えたので。神に対するように忠実に従ってくれると思いますよ」
にっこりと笑うハウライト。
ミオの僕となってから、性格は丸くなりただのアホの子になったかと思われたが、この2週間である程度の狡猾さと魔物らしい残忍さを取り戻したようであった。
ハウたちの頭の中では
ミオ>>>>越えられない壁>>>>自分たち>>>>>>>>タイチなどミオの知り合い>>>>その他
なので一般人に対しては思いやりとかあまりないです。




