088 職人の夢
GM「WCにおける小人族の女性は成長しきっても低身長でつるぺたの、いわゆるロリドワーフです」
ミオ「あーなんか親近感覚えるー」
GM「しかし、それなりに筋肉質ではあり力も強いのです。あなたのように筋肉の欠片もない貧弱貧相な体ではありません」
ミオ「で、でもVIT5000のステータス補正はあるから体力は負けないもんね!」
GM「それは威張れることなんでしょうか……?」
眩暈がした。目の前に積み上げられた素材の数々。スキル《鑑定》を発動させるまでもない。数年前に俺の扱った成竜の素材も素晴らしいものだったが、これは格が違う。矮小な小人の身で触れることにためらいを覚えるような圧倒的な威圧感。牙や爪のみならず剥がれた皮や鱗すらもが死してなお放つ存在感。紛れもなく魔物素材の最高峰、古代竜――!
「……できれば、人払いなんかしてくれませんかね」
突然賭場に来てオーナーの俺に不躾な態度をとった緑色の青年。世の中が分かってないただの若造かと思ったが、目の前に積まれたのは古代竜の素材の数々。こいつが個人で入手したにせよ、誰かから譲り受けたにせよ、只者ではないだろう。なんといっても、Sランクオーバーの冒険者でさえ入手は困難な素材だ。かつて古代竜同士の争いによって死んだ竜から素材を得た者や古代竜が住処を移した後に、ねぐらを漁って素材を得た者の話は聞く。状態が悪く、欠片のような素材ではあったが、それでも成竜の素材の価値を凌駕したという。
また、素材自体は手に入っても、結局それを加工することはかなわなかったらしい。要求される技術が高すぎて加工が不可能。結局素材としては生かされないまま、コレクターの手に渡ったりとまぁ、職人からすれば散々な扱いだ。まぁ、鱗に穴ひとつ開けられないのだからそれも仕方ないというものかもしれないが。
そんなわけだから、人払いを求められずともこの話を他人に聞かれることは俺自身が避けていただろう。この素材が古代竜のものだとは、鑑定スキル持ちや、俺のように竜素材を扱ったことのあるものにしか分からないだろうとはいえ、こんな値段のつけようもない宝の山を人前で不用心に置いておけるほど俺の神経は太くない。
「それで、どういうことだ」
驚きが冷めれば、次に感じたのは困惑だった。古代竜の素材を手に入れ、俺がかつて竜を扱う職人だったことを調べる。ここまでは理解できる。しかし、そこまで調べたのなら俺が患っている原因不明の病気のせいでここ1年はそっちの仕事をしていないことも掴んでいるだろう。
若造が名を名乗る――。やけに嬉しそうというか、誇らしげに名乗ったが、なにか思い入れでもあるのだろうか。そして次に紹介された少女がジェードの主人で、古代竜を単独撃破したという。どうやらこのジェードという男はここまであからさまな嘘をついてでも自分たちの情報は明かしたくないらしい。むしろわかりやすいのは、「これ以上詮索するな」というメッセージなのかもしれないが。いずれにせよ、俺は職人として顧客の情報を詮索するような趣味は持ち合わせちゃいない。彼らがどんな集団であれ、依頼には答えるだけだ。
ただし、今はその依頼を受けること自体が不可能な状態なのだが。
だいたい、俺の調子が万全だったとしても、古代竜の素材を扱うことなんざできる気がしない。いまだかつてその領域に挑戦したものは数えるほどしかなく、そしてそのことごとくが失敗しているのだ。
鍛冶技術の最高峰、北方のドワーフの国にさえそんな神がかった腕の職人はいない。
「ええ、ですから俺は、その伝説の最初の一人にあなたの名を刻んではどうかと持ち掛けているんですよ」
「古代竜の素材の稀少性はあなたも十分に理解している。だからこうして俺たちの話を聞くことにした。ならば当然理解できるでしょう、この素材を加工できるのが鍛冶師としてどれほどの幸運なのか」
そんな俺の思いを知ってか知らずか若造はそう挑発してきた。そして俺は大人げなくもこの挑発に乗らざるを得ない。一度頂点を目指した職人として、ここまで言われて黙っていることはできない。
そうしてなし崩し的に依頼を受けることになったわけではあるが、向こうから条件を付けてきた。
それは、若造どもが俺の病気を治すことができれば今後もこいつらに全面的に協力する、というものだ。
わけがわからん。
俺は原因不明のこの病を治せる神官がいるなら金をいくら積んでも構わないと思っている。治してくれるというなら心から感謝してもいい。それに対する条件が全面的な協力、だ。そんなもの、もし古代竜素材の加工がうまくいった暁にはこっちから申し出たいことだ。富や名声にはさほども興味はないが、自分の限界への限りない欲求はある。古代竜素材で装備を作るならメンテナンスも一流の腕が必要だろうし、他の素材によってさらなる加工を施すことも可能になるかもしれない。一流の職人ならばそんな機会をみすみす逃すわけがない。
だいたい、仮に若造どもが本当に古代竜を狩ったのだとすれば、それは一流と言う言葉すら生ぬるい人外の領域に存在する者だということになる。それならばむしろ、こちらから協力“させてもらう”のが正しい在り方というものだろう。
訳が分からないまま、俺の不利益になることもないのでその条件には頷いた。
そうして、若造は少女や眼鏡の青年、鼠人族の少年を連れて賭場を出て行った。まずは俺の病を治す、と言ってはいたが、果たしてどうする気なのだろうか。王国の高位神官に見せても原因すら分からなかった謎の病だ。
……すべてを尋ねるのは、彼らが俺の病気の治療に成功したにせよ失敗したにせよ、次に会うときに聞けばいいか。
それにしても突然に降ってわいたようなこの出来事。もしかすればこれが俺の人生における転機なのかもしれない。ああ、鍛冶の神ベルギスよ。願わくば俺に夢の続きを見させてくれ――。
《訂正のお知らせ》
ここまでの話で出てきた『冒険者ギルド』という単語を『冒険者組合』に置き換えます。ギルドという表現がグリフィンナイツやグリードグリムのようなプレイヤーの作る組織とごっちゃになるのが、今更ながらに辛いなーと。最初から気づけよ、と。ええ、まったくですね。
組合とギルドはまったくの別モノとして考えてください。
話の根幹には関わらないので大丈夫だと思いますが……。
この話以前の冒険者ギルドについては組合に訂正してあります。




