078 力の代償
GM「あなたの敵は獄炎竜ファスザールではありませんでした」
ミオ「真の敵は自分だったんだね……」
ジェード「もっと言えばそこのGM……」
GM「なにか?」
ジェード「いえなにも」
「ふあっ、だ、だめ、ジェード君、動かないで」
『ま、マスター、そうは言っても……』
「ひゃあん! だめぇ、そこ、触らないで、感じちゃうっ」
『で、ではこっちは』
「そこもだめぇっ!」
「わ、我が主よ、もう少し声を抑えることはできないのであるか。これでは我も少々理性を保つのが難しく……」
『オニキス、ブツブツ言ってないでマスターをどうにかしてくれっ』
「いやぁ、ジェード、それは汝の役目。我が今のマスターに触ったら昇天させてしまいそうである」
「ひあ、あ、あ、あああああっ」
「第一今の我は目を開けることができぬ。その点汝はマスターの裸体を目に焼き付けるどころか全身で感じているではないか」
オニキスの言葉通り、今のミオは村長の家の客間のベッドでほぼ全裸になっていた。身を隠すものは下着くらいである。そしてそのミオに絡みつくようにスライム状のジェードが全身に覆いかぶさっているのだ。見様によってはいつかの捕食シーンを思い出させるが、今はそれよりもベッドシーンを彷彿とさせる。
というよりもどこからどうみても18禁のスライム物同人誌のワンシーンにしか見えない。
「いやぁ、だめ、ジェード君、動いて……いや、動かないでっ、ああっ」
『どっちですかマスター! くそ、オニキスてめぇわかってて楽しんでやがるな』
「さて、なんのことやら。――しかしこの部屋が我の精神衛生によくないのは事実である。我は少し外に出てくるとするよ」
『あ、逃げるなっ』
「あとは二人でゆっくりと楽しむといいのである」
「た、楽しくないっ、全然楽しくないんだからね、オニキスっ。もう痛いのか気持ちいいのか分からないのっ」
「しかし我が主、そのようなだらしなく緩みきった顔で言われても説得力がないのである。言っている内容も結構無茶苦茶であるよ」
「そ、そんなことぉ、ひゃああん、ジェード君、それ、だめ、だめっ」
『マスター、これ以上大声を上げるとさすがに村長一家に気づかれますっ』
「だ、だって、もう止められないしっ、ふ、ああああんっ」
『というかオニキス、お前薄目開けてるだろう! マスターの顔見てるだろうが!』
「おっと失言であるな」
嬌声を上げるミオを尻目に部屋を後にするオニキス。風魔法で防音の壁を維持することは忘れない。しかし、風魔法も完璧ではなく、扉の外に出た程度ではまだはっきりとミオの荒い息遣いが聞こえてくる。この調子では村長の家にいる者の何人かには気付かれてしまっているだろう。
オニキスは家の外まで出て、ミオの気配が完全に感じ取れない場所まで歩を進め、そこでずるずると壁にもたれかかるように地面にへたり込んだ。
「……我が主よ、そういった意図がないことは百も承知。だからこそ、平気な振りをして茶化しもしたが、我だってオスであるよ……。もう少し、気にかけてくれても……。――とまぁ、一人で愚痴を言うくらいは許してほしいのである」
壁にもたれかかって黄昏るオニキス。
一方その頃、ミオたちはようやく落ち着きを取り戻しかけていた。
「はぁっ、はぁっ、ようやく、体が慣れてきた」
『大丈夫ですか、マスター』
「これが大丈夫なもんか……ほんと、もう、2度と神破撃なんて使わない!」
そう、ミオがいま陥っている苦境、その原因はファスザール戦で用いた神破撃が原因である。ミオは今これまでの人生で味わったことがない特大級の筋肉痛に悩ませられているのだ。
“デメリットは使用後の翌日丸一日が行動不能になる事。システムの説明によれば激しい筋肉痛のような症状でまともに動くことができないだろうと書いてある。”
ファスザールを撃破したのちにミオがそう語った通り、筋肉痛とは思えないレベルの痛みが彼女を襲っているのだ。その痛みは一周回って逆に快感すら感じるほど強烈なものである。皮膚感覚も超鋭敏になっているために衣服すらまともに身に着けていられない状態になっていた。足が痺れた感覚を百倍ほどに高めた状態とでも言えば伝わるだろうか。
立っていても座っていても筋肉は使う。そのわずかな刺激だけでも今のミオにとっては劇物だった。そこでミオは苦肉の策としてジェードを全身に纏うことを選択した。結果、水中にいるようなふわふわとした浮遊感がミオを包んでいる。
ただし、確かにその策は筋肉への負担を抑えることには成功したが、今度はジェードが動くたびにミオの感覚が過敏に反応し、その反応にさらにジェードが身じろぎをするという悪循環へと陥ってもいた。空気が肌をなでる感覚だけでも失神しそうになったのだから、質量のあるジェードを纏えばどうなるか、それを考えるだけの余裕はミオには残されていなかった。
そして、ジェードの中で浮かび、全く動かないのもそれはそれで負担になるものだ。足が痺れたとき、動かせばいいのか動かさない方がいいのか迷った挙句どちらにしても苦痛が長引くあの感覚に近い。
そんなこんなで長らく痛みと快感で嬌声を上げていたミオだが、ようやく感覚になれてきたようで、今は落ち着きを取り戻した。
《システムメッセージ:特殊条件達成につき、パッシブスキル“超感覚”を得ました》
「……うわー、嬉しくない。まったく嬉しくない」
安堵と呆れからため息をつくミオ。しかし、彼女はそこでさらなるクライシスを感じ取った。一息ついたのがまずかったと、彼女はすぐに悟るが、時すでに遅し。
「やばい。これはやばい。ずっと放置してたけど、やっぱりこれもあるのか。自分の意思で制御できなくなったのがトリガーかな……ってそんなことはどうでもいいんだ」
『マスター?』
「ジェード君、緊急任務だ。わたしの体に極力負担をかけないように迅速かつ慎重に移動せよ」
『は、はぁ。どこへですか?』
「……いまのわたしは筋肉痛というより、完全に筋肉動かなくて、体の制御ができなくなってる状態に近いの。なんかもう瞼もうまく開かなくなってきたし、手足も動かないし、呂律が回ってるのが不思議なくらい」
『そ、それで?』
「だから、そのね、括約筋が、うん。多分かなりまずい」
『……え?』
「具体的には漏れそう。このままだとジェード君の中にいろいろぶちまけそうなので早く」
『――ちょ、まっ』
「あープールで我慢できない子がいるって聞いたけどこんな感覚なのかな……。わたしプール入ったことないからわかんないけど」
『待ってくださいマスター、諦めるにはまだ早いです、どうか、どうか、』
「あ」
『……』
「…………」
『…………』
「……………………」
『……………………』
「……考えてみれば、かれこれこの世界に来てから3か月以上もトイレに行ってなかったんだよね。システム的に排泄の必要はなかったからさ。ねぇ、ジェード君、いまわたしがどんな気持ちかわかる?」
『……』
「すごい解放感。もうなんか昇天しそう」
『……』
「……」
『…………』
「ごめんね、ジェード君。あとで何でもしてあげるから機嫌直して」
『――俺もなんかご褒美に思えてきたのできっともうだめです。助からない』
自力で動くことのできないミオの要介護生活は、それから半日の間続いた。
ということでサービス回でした。
誰に対してのサービスなのか、そもそもサービスの方向性はこれであっているのか、すべては謎ですね。
新しくミオさんに『露出狂』『痴女』『変態』『精神的ドS、肉体的ドM』とかの属性が追加されそうです。誰得なんだ。
そんな感じのおふざけ回でしたが、内容的にはオニキスの葛藤やミオさんの新スキル、WC世界への理解の進行によるシステムロックの解除(つまりトイレに行きたくなる)など色々と伏線的なものも含んでいるんですよ。だからこの話の存在も大目に見てくださいという自己弁護。
のちにジェード君やオニキスが自分に素直になったらそういうシーンもあるかもなので今のうちに耐性つけておいた方がいいかもしれません。あくまで描写はR15ですが。
次は新章、session6 白の従者 始まります。




