074 ビスチェとキース
GM「あなたはようやく自分に素直になることに決めました」
ミオ「うん。いままで色々と我慢しすぎてた。これからはもうちょっと自由にふるまうよ」
ジェード「ガクガク」
オニキス「ブルブル」
「そうだね。とりあえずわたしのことはミオさんと呼ぶよーに。わたしも君たちに敬語使うのやめるから。城門くぐるまではわたしの僕ってことで」
少女は努めて偉そうにそう言った。
俺ことガイナスは素直にその言葉に従った。先ほど彼女に言った言葉は全て俺の本音ではあったが、彼女に命を救われたこともまた事実なのだ。ここまできて我を通すほど俺は恩知らずではない。
実際、Bランク冒険者としての誇り、という部分にさえ目をつぶってしまえば彼女の言っていることはとても正しく、かつ俺たちにとって願ってもない提案なのだ。
しかも、ビスチェが魔力欠乏症なのは薄々気が付いてはいたが、キースが頭の中に怪我を負っていることは言われるまで知らなかった。仮に無事街へと戻れたとしてキースを助けることができなかったかと思うと、その点でも俺たちは救われていた。
「わかった。城門をくぐるまではミオさんに従おう」
「ガイナス。いいの?」
「ああ。ケリーも従ってくれ」
「リーダーがそう言うならわたしに異論はないわよ。よろしくね、ミオさん」
「うむ、よろしー。さて、それじゃあ早速行動に移ろう」
そう言ってミオさんはビスチェとキースの元へと歩いていく。俺とケリーもその後に続く。それより、ジェードとかいう青年に抱っこされたままなのはいいのか。
「じゃあいまからビスチェちゃんの魔力欠乏症とキース君の脳内出血治すから。そこで黙ってみてるように。あと、このことは他言無用。いいね?」
「あ、ああ」
「ん、オニキス。わたしのMPはさっきの神破撃で使っちゃったからオニキスのMPもらうね」
「うむ。好きに使うのである。しかし、どのように……」
いつの間にか警戒に立っていたオニキスという青年が傍まで来ていた。……接近に気が付けなかったとはダンジョン内なのに俺も随分気が抜けていたな。
と、俺は次の瞬間、衝撃の光景に思わず固まった。
ミオさんが突然、オニキスさんの唇を奪ったのだ。しかも、一瞬ではなく、数十秒かけてじっくりと。オニキスさんも驚いたらしく、されるがまま固まっている。あ、あれ、絶対舌入ってるだろう!
「ん、ぷはーっ」
「わ、我が主よ、何を」
「MPもらったんだよ」
「――む、確かに……。しかし、こんな方法があったのであるか」
「いやぁなんかやったらできそうな気がしたんだよね。あ、ジェード君拗ねないの。してほしいならあとで君にもたっぷりしてあげるから」
「!? い、いえ別に俺はそんな」
「んで、ビスチェちゃんだったね。んむ」
ミオさんはそのまま流れるようにビスチェの唇も奪った。……なんてキス魔だ。というか、女の子同士だぞ。いいのか……?
いや、男とよりはいいのか……?
わからん、なんか混乱してきた。
しかし、その効果は覿面で、青白かったビスチェの顔色に徐々に朱がさしてくる。
数分後、ビスチェは目を開けた。数分間もじっくりとビスチェの唇を堪能したミオさんはどこかつやつやしている気がした。
「おはよう、ビスチェちゃん。気分はどう?」
「は、はい。ありがとうございます、ミオさん」
「あれ、驚かないの、っていうか名前も分かるの?」
「はい。薄らと意識はあって、何が起こってるのかはわかりましたから。ガイナスさんとその、言い争っているあたりからは聞いていました」
「そっか。事情説明の手間が省けるね。あーあと、キスしちゃってごめんね」
「い、いえ。むしろ初めてがミオさんでよかったというか、その……」
ごにょごにょとビスチェは俯きながら口ごもる。……あれ、顔に朱が差したのってもしかして……いや、考えすぎだよな。
「次はキース君だね。ビスチェちゃん、治癒魔法は使える?」
「す、すいません。まだうまく体が動かなくて……」
「いや、いいよ、大丈夫。ジェード君、お願いね」
そういわれるとジェードさんは小さな緑色の塊をキースへと放った。その塊はキースの体に染み込むように消える。あれはなんだ?
疑問が解消されないままに、今度はミオさんがハーモニカを取り出す。そして、演奏を始めた。それはそれは素晴らしい音色で、聞いているこちらがうっとりとしてしまうような腕前だ。ビスチェは若干夢の世界へと足を踏み入れかけている気がする。
しかし、魔物を一撃で屠るような凄腕の狩人だと思ったら音楽の嗜みもあるとは、もしや貴族の子なのだろうか。
「よし。これでキース君もおっけーと」
「キースは助かったのか……?」
「うん。多分後遺症もないんじゃないかな。あとは自然に目を覚ますのを待つだけだねー」
「そうか……。ありがとう」
だが、まだ危地を脱したわけではない。一層気を引き締めてかからねば。
「ミオさん、これからどうするんだ?」
「んー、とりあえず、サリー君とクック君の遺体を回収しに行こう。王国にも埋葬の風習はあるんだったよね?」
「ああ、それは確かにそうだが、あいつらの死体はファスザールのねぐらだ。取りに行くのはとても無理だ」
「あー、それはだいじょーぶ。言ってなかったけど、ファスザールはわたしが倒したよ」
「……は?」
「まぁ見せた方が早いよね。ジェード君」
「はい。どうぞ、マスター」
そう言ってジェードさんがどこからか取り出しミオさんに手渡したのは人の頭ほどもある竜核だった。竜核とは竜族が心臓部に持つ器官の一つで、魔力の源であるとされている。幼竜のものですら莫大な金額で取引される希少素材だ。成竜のものなんてめったに出回らない。そして俺が以前見たことのある成竜の竜核は大きさが手に握りこめる程だった。しかし、今ミオさんが持っている竜核は人の頭大。ならばこれが古代竜の竜核なのだろう。
「それは、ファスザールの……」
「うん。意図しない敵討ちだったのかな。サリー君とクック君も浮かばれてくれるといいけど」
俺はここに至って現状の認識がガラガラと音を立てて崩れるような気がした。
このミオという少女、80レベルの魔物を一撃で同時に5体消し飛ばした弓の実力と身に着けた恐ろしいまでの威圧感を放つ装備からして只者ではないと思っていたが、俺たちが手も足も出ずに逃げることすらままならなかったあの獄炎竜ファスザールを討伐した?
通常、竜を狩るには幼竜クラスでさえ複数パーティーで交代しながら戦い、数日かけて倒すものだ。ファスザールは幼竜など比べ物にならない古代竜だ。しかも俺たちがファスザールから逃げ出したのは数刻前だぞ。
ならば俺の目の前にいるこの少女はあの竜以上の存在だということか……?
俺は言い知れぬ悪寒にぶるりと身を震わせた。
「だから、遺体は回収しよう。――遺体がない空っぽのお墓ってのは寂しいものだよ」
そう言って、どこか悲しそうにほほ笑むミオさんは、とてもそんな存在には見えなかった。
吹っ切れたミオさん書いているとついつい字数が多くなっちゃう。
あと、オニキスにディープキスしたシーンですが、よく考えるとミオにはジェード君が抱き付いたままなんですよね。こう、前と後ろからサンドイッチされているわけで、想像してみるとシュールな光景ですよね。抱きしめて役得だ―とか思っていたジェード君には酷すぎる衝撃だったでしょうね。




