073 頼み
GM「あなたはどんなときに怒りますか?」
ミオ「大切な人が傷つけられたとき、とか?」
GM「自身の事ではどうですか?」
ミオ「んー、自分が否定されたと感じたとき、かな……」
「それで、わたしたちにしてほしいことはなんですか?」
「そこまでお見通しか。まいったな。頼みというのはポーションを売ってくれないかということだ」
「ポーションを?」
「ああ。これまでの戦闘で手持ちはすべて使い切ってしまった。さっきビスチェに飲ませたものが最後の一本だ。回復役のビスチェに頼れない以上、このダンジョンを出るのにポーションは必須だ。あなたたちにそこまでしてもらう義理がないのは承知の上だ。それでも、この通り、頼む!」
「わたしからも、お願いします」
そう言ってガイナスとケリーは深々と頭を下げる。
正直なところ、ミオは困惑していた。確かに回復手段がない彼らにとってはポーションは貴重なものだろう。でも、それをここまで礼を尽くしてほしがるものだろうか。勿論彼らの性格が誠実、ということも一因としてはあるのだろうが。
ミオはとりあえず話を進める。
「ええ、手持ちは少ないですけど、いいですよ。いま魔物の警戒に立ってるオニキスはああ見えて神官ですから、手持ちのものはほとんどお売りしましょう」
「ありがとう、恩に着る! 値は市場の倍ほどでも良いだろうか? 手持ちはいまあまりないんだ。もちろん、無事に街に戻れたら改めてお礼はする」
ここまで来ると誠実さも一周回って不気味だ、とミオは思う。
それでも、何か大切なことが見えそうな気がして、質問を問いかけた。
「……どうしてわたしたちに護衛を頼まないんです。オニキスが神官であるならなおさらあなたたちの生存率は上がる。ポーションだって買わなくていいでしょう。一度魔物から助けてもらったのだから、使えるところまで使おう、できる限り縋ろうとはしないんですか?」
「魔物の襲撃から助けてもらった段階で十分すぎるほどに助けていただいてますよ。それ以上は俺たちが情けなさすぎる」
「……情けない?」
「ああ。俺たちは冒険者だ。こんな窮地は何度もあった。このくらいで助けてもらっちゃあ情けないってもんだ」
「現状を正確に理解した上で、そう言ってるんですか?」
「ああ、そうだ」
「そんな意地張って命を捨てるんですか? 言わせてもらいますが、ポーションがあったところであなたたちの力量と今の状態じゃ、このダンジョンを抜けられる可能性はほとんどない。次の襲撃があったらまず終わり。それまでに二人が目を覚まして、あなたの足の傷が回復して、サリーさんとビスチェさんの魔力が1割回復してようやく戦える。それだって連戦になればすぐに崩れる危ういバランスでしょう。ポーションがあったって地獄を長引かせるだけ。あなたはわたしに、死ぬ手助けをしろとでも?」
「そうは言っていない。俺たちは生きることを諦めてるわけじゃない」
話しながらふつふつと体の奥から湧き上がるものを感じる。
ミオは怒っていた。なぜ怒っているのか自分でもわからないままに。
グリードグリムに痛めつけられた後でさえ、あれだけ理性的に振舞っていたにも関わらず、である。
「同じ事です。最善の方法があるのにそれを諦めているじゃないですか。なにがあなたをそうさせるんです。リーダーなら全員が生き残ることを優先すべきではないんですか!」
「確かに生存を優先することはあるが、今は違う。大事なのは誇りだ」
「誇り? それはなんの」
「冒険者としてのだ。俺たちはBランク。そこまでのぼりつめた者としての誇りがある」
「Bランクだから、Eランクのわたしなんかにおんぶにだっこはまずいと。そういうことですか。だいたい、それならそこの目を覚まさない二人を置いて逃げればいいでしょう。足手まといのいない二人だけなら助かる可能性だって高い」
「仲間を置いていくことはできない」
「ああそうですか。じゃあ言わせてもらいますが、そこの二人はもう助かりませんよ」
「なに?」
「神官のビスチェさんはバッドステータス《魔力欠乏症》。そのままじゃ数時間で死ぬ。それは他人が魔力を受け渡してやらないと治ることはない状態異常ですよ。そしてあなたたちに余剰魔力はない」
スキル《天眼》。それはすべてを見る目。目視してしまえば対象の詳細なステータスさえ見ることが可能なまさに天の眼。他人の心まで覗けるようで嫌だと、その力を使わずにいたミオだったが、ここにきてその自制さえも失っていた。
「そしてそこのキースさんは脳内出血している。いまはまだ無事だけどこちらももって数時間。実際はもっと早くに障害が残る体になる。それでも仲間は見捨てないと?」
「見捨てない」
「仲間と一緒に死ぬ道を選ぶと」
「いや、違う。仲間と最後まで生き抜く」
「同じ事じゃないですか。あなたたちのために死んだ二人の遺志も無駄にするつもりですか!」
「あいつらの死は無駄じゃない!」
「いいえ無駄です。正確にはあなたが無駄にしようとしている!」
「違う! 俺たち冒険者は誇りに殉じる! 俺たちの死は誇りを守るためにある!」
「なにが誇りだ……ッ」
「――マスター。落ち着いてください」
その言葉と共にジェードがミオを背後から抱きすくめる。温かい感触にようやく我に返ったミオは自分が涙を流していることに気が付いた。
「あれ? なんでわたし泣いて……」
「大丈夫です。大丈夫ですから、マスター。辛い思いをしましたね。もう大丈夫です。俺とオニキスがいますから。俺たちはマスターを置いて死んだりしませんよ」
ジェードとオニキスにはミオが自分でもわかっていない、激昂し泣いている理由が分かっていた。ガイナスとの口論で普段彼女が意志の力でかけているプロテクトが感情の制御とともに外れてしまい、《魔物の王の悟り》が発動してしまっていたのだ。結果、ジェードとオニキスにはミオの感情が濁流のように流れ込んできた。そしてその濁流に混じって彼女の過去の一部始終を走馬灯のように見せられることになり、彼女がこうなってしまった理由も理解していた。
この場にいないオニキスはミオに駆け寄りたい気持ちをぐっとこらえ、魔物の警戒を続ける。《テレパシー》でジェードに『貸し一つである。我が主を頼む』と伝えることは忘れない。
「……ありがとう、ジェード君。落ち着いたよ」
「ええ。でももうしばらくはこうさせてください。オニキスには悪いですが、今は俺がマスターを独り占めします」
「えへへ。ジェード君は寂しがり屋だね」
「マスターよりもずっとね。ですから、どこにもいかないで下さいよ。いつまでも俺の腕の中にいてください」
「んー考えとくよ」
二人が話しているうちに、ミオにつられて激昂したガイナスも落ち着いたようだった。
ミオは少し赤くなった目でガイナスに微笑みかける。
「ガイナスさん。いろいろひどいこと言ってすいません。あと、恥ずかしいところをお見せしました」
「いや、こちらこそ怒鳴って悪かった」
「……それで、話なんですけど、ポーション売るのはやっぱりやめにします。ごめんなさい」
「……そうか」
ガイナスは素直に納得したようだった。ミオのいまの様子を見て、彼女にも譲れない何かがあるのだと悟ったのだ。
ただ、ミオの言葉はそこで終わりではなかった。彼女は普段見せないような攻撃的な笑顔をガイナスに向け、こういった。
「はい。わたしはあなたたちの頼みを断ります。そして、あなたたちに命令します。魔物から命を助けたんだから、王国に帰るまでくらいは言うこと聞いてください」
「……そうくるか」
「ええ。とりあえずの命令は、そうですね。わたしが勝手にあなたたちを助けるので邪魔しないでください。助かってください」
「嫌だといったら?」
「気絶させてでも助けます。やっとわかったんです。わたしはもうちょっと自分勝手になった方がいいって」
この言葉に((これ以上……?))と戦慄したスライムと鳥がいたのだが、それは些細なことだろう。
「そういえばわたしたちの自己紹介がまだでしたね。この子がジェード。あっちはオニキス。で、わたしはEランク冒険者のミオです。どうぞよろしく」
そう言ってミオはどこか吹っ切れたように、にっこりと笑った。
自重の文字が消えたミオさん。ようやく素直になるようです。自重じゃないですよ? 体重は軽いんですが。
ところで敬語のミオさんってどうなんでしょう。違和感とか感じますかね。ところどころ変な敬語混ぜて不器用さとか表現してるつもりなんですが伝わってますかね……。義務教育受けてないので正しい敬語喋れないと思うんです。




