072 黒の旋風
GM「あなたは困っている人を見過ごせないタチですね」
ミオ「……誰かのために生きることを徹底的に教え込まれてるから、抜けないんだよね」
GM「よいことではないですか?」
ミオ「誰かを助けるってのはそうポジティブでもないよ」
《あなたはダンジョンの中でとある冒険者パーティーを救いました。PKという他人のむき出しの悪意に触れて人付き合いが嫌になったあなたでしたが、彼らは果たして……?》
「挨拶が遅れてしまって申し訳ない。俺はガイナス。このパーティー“黒き旋風”のリーダーをしている。槍術士だ。それでこっちが」
「魔導士のケリーよ。改めてお礼を言わせて頂戴。助けてくれてありがとう。あなたたちがいなかったらわたしたちは死んでいたわ」
「それで、この寝てるのは暗殺者のキースと治癒術士のビスチェだ」
ガイナスはミオとジェードにそう話しかける。場所はメルフィス火山のダンジョン内。魔物の警戒はオニキスが買って出た。
ガイナスは首にぶら下げた白金のステータスプレートを指さす。
「これを見ればわかると思うが、俺たちは冒険者組合でBランクの認定を受けたパーティーだ。いまはこんなボロボロだが、ヘヴィタートルを倒したこともある」
「ヘビタートル?」
「はは、知らねぇか。自慢してたみたいなのがちっと恥ずかしいな。リュシノン王国の西側に広がる砂漠地帯に生息する魔物でな。俺たちの討伐した個体はレベル130だった」
「おー。えっと、失礼ですけどガイナスさんのレベルは?」
「俺は今レベル112だ。職も槍使いから中級職の槍術士にランクアップ済みだ。当時は槍術士になりたてだったからレベル102とかだったかな」
「それはすごいですね」
パーティーの複数人で囲んで倒したとはいえ、30もレベルが上の魔物を討伐するというのはなかなかの偉業だ。通常、プレイヤーが相手にできる魔物のレベルは自身のレベル+5までといわれている。それ以上は絶対的なステータス差によってダメージが通らなくなってしまったりするのである。また、WC人はプレイヤーに比べてステータスの成長率が悪い。よって、相手にできる魔物のレベルは+5どころか、同レベルでも厳しいかもしれない。そのことを知っているミオは素直にガイナスたちの事を賞賛した。ガイナスもその素直な気持ちには気付いたのか鼻を掻いて「ありがとよ」と返答した。
なお言うまでもないことだが、《始まりにして終わりの地》にてレベルが300以上上の敵に日常的に挑んでいたミオは変態である。一般的な感覚から言えばキチガイ、もしくは自殺志願者と言ってなんの問題もない。経験値に異常な補正がかかるのも納得というものだ。
「だがまぁ、いまはご覧の有様だ。本当は《黒の旋風》のメンバーは6人なんだが……」
ミオはガイナスのその表情ですべてを察した。ミオは決して他人の心情に疎いわけではない。むしろ敏感すぎるほどだ。普段は努めて鈍くなっているに過ぎない。
「お亡くなりになったんですね。ここの魔物はせいぜいがレベル80。ガイナスさんたちが壊滅するような相手じゃない。だったら罠か、もしくは」
ミオはつい数刻前の言葉を思い出す。
『今日はよく羽虫が入りおる。小さき者よ、汝らも我が灼熱の前にひれ伏すがよい』
“よく”。なら……。
「獄炎竜ファスザール……」
「っ! 知っていたか。……ああ、ギルドの情報じゃここはそう危険なダンジョンじゃない。継続的な炎ダメージの対策さえしておけば大丈夫なはずだったんだ。なにが難度80指定のB級ダンジョンだ、くそったれ。古代竜がいるって情報さえあればここは難度指定不可の特S級ダンジョンだってのに。っと、すまないな。あなたたちに言ってもどうしようもない。それで、俺たちがとある部屋に入った瞬間トラップが発動して、気が付けばあいつの目の前だ。高所からの落下ダメージで死にそうにはなったが、俺たちだって平均レベル100のパーティーだ。そのくらいはビスチェに回復してもらってどうにかなった」
ミオ達はオニキスがいなければスカイダイビングのあの状況はどうしようもなかっただろう。ジェードとて、オニキスの滑空による減速がなければ一撃でHPがすべて消し飛んでいた可能性がある。
もっともあの罠は被対象のレベルによって放り出す高度が変わるため、ミオだけなら地上1メートルほどに飛ばされるだけだ。主に原因は通算レベル500超えのジェードである。その本人が一番(精神的に)ダメージを受けているのだが。
ガイナスの話は続く。
「地獄はそこからだったよ。ブレスでサリーが死んだ。《アラウンドガード》で俺たちのダメージを肩代わりして、一人でブレスを受け切ったんだ」
「……」
最上級風魔法による盾で軽減してなおHPを半分削られたオニキスと、形質変化で炎耐性を得てなおHPの8割をもってかれたジェード。そんな高威力のブレスに襲われれば人間などひとたまりもない。ブレスがきた瞬間に死を悟ったサリーは自身を犠牲にパーティーを守ったのだ。
「俺たちは闘うことなんて考えなかった。サリーの死を悲しむこともできずに、あいつの死体を拾ってくることさえできずに逃げ出した。だが、ファスザールの《眷属召喚》と《ダンシングビート》で逃げることさえできなかった」
《眷属召喚》は亜竜や幼竜を無数に召喚するスキル。《ダンシングビート》は地面を振動させて対象の移動を阻害するスキル。《魔物の王の悟り》によって倒した魔物のスキルを理解することができるミオには、ガイナスたちの陥った状況が手に取るように理解できていた。同時に、彼らのどうしようもない絶望感も。
「クックが亜竜に腹をやられた。あいつは自分のことを置いて行けって、俺はもうダメだから囮になってやると言って、一人で竜の群れに……」
「ガイナス……」
「――すまないケリー。それでなんとか火口からは逃げ出したんだ」
嗚咽が混じりそうになったガイナスの背にケリーの手が添えられた。それだけでガイナスは意識の平静を取り戻す。強靭な精神力にミオはわずかに目を細めた。
「だが数匹の亜竜はしつこく追ってきた。情けないことに俺が足をやられて動けなくなっちまってな。そいつらはなんとか撃退したんだが、キースは頭に一撃もらって気絶、ビスチェは回復魔法の使い過ぎで昏倒した。それで休ませていたところにさっきの魔物の群れだ」
「そこにわたしたちが通りがかったと」
「ああ。あなた方が来てくれなければ本当に危なかった。改めて礼を言わせていただきたい」
「ん。――それで、わたしたちにしてほしいことはなんですか?」
ミオはガイナスがなにやら言いにくそうにしているのを見て取って先手を打つ。
まぁ、ここまで説明されておいて「それじゃあさよなら」というのもなんだなぁというミオの素朴な感想もある。当然ガイナスたちも頼みがあるからこそここまでの事情を説明したのだ。
完全に見透かされたガイナスは苦笑した。
長くなりそうなので2話に分けます。
わたしはだいたい一話2000字ちょいくらいでいつも投稿してます。小中学校の読書感想文くらいですかね。懐かしい。
この話は書いているうちに設定が生えに生えて長くなってしまいました。気づけば4000字超えてたので後半は次話にて。
同時に投稿すると後半から読んでしまう人がいそうなので、ちょっと間をあけます。
次回予告:怒りのミオさん




