069 VS獄炎竜ファスザール その1
ミオ「やばいってあれ絶対やばいって」
GM「いやぁ、ドラゴンとの戦闘ですよ。わくわくしますねぇ。TRPGに限らずファンタジーの華ですよ」
ミオ「くっ、竜倒すよりGM倒す方がいい気がしてきた……」
GM「さあさあ、そんなこと言ってないで戦闘開始です」
《あなたは竜のねぐらに飛び込んだ小さき侵入者です。しかし、あなたに退路は用意されていない。生き残るにはその矮小な身で巨大な竜を打倒するしかありません!》
「くー、やっぱ“逃げる”はだめかぁ。そういえばオニキス、あの竜と知り合いなの?」
滑空はあと数十秒といったところだろう。地面につけばあの獄炎竜ファスザールとやらと戦闘に入らなきゃならない。それまでに情報は整理しておきたいし、高所恐怖症で気絶しているジェード君を起こさなきゃならない。
まったく、こんな時に限って役に立たない……。まぁ誰しも苦手なことはあるから責めはしないけどね。
「……昔、あ奴と戦ったことがある」
「あーおっけー。その先は言わなくていいや。弱点……じゃなくて相手の得意な攻撃とかは?」
口調からして多分、昔オニキスは彼の竜に負けたんだと思う。しかもかなりのボロ負け。主人としてこのくらいは読み取れるよ。まぁ、だから弱点なんか知っているわけがない。聞くとしたら、オニキス側の敗因だった。
「……竜族は軒並み高い魔法耐性をもっておる。炎の属性を持つあ奴に通る魔法は氷属性の上級以上に限られるであろう。また、物理攻撃も耐久の高い鱗に弾かれる。さらに、鱗とその身の耐久以外にもあ奴は周囲の炎を喰って体力を回復させることができる。まさに鉄壁よ」
「うわぁ」
「攻撃の方も尋常ではないぞ。あのアギトに捕まればいかに我でも致命傷は避けられぬ。また鋭き竜爪は岩を易々と切り裂く。まぁ、最も危険なのは奴の使う火魔法であるが」
「さっきわたしのやったような?」
「うむ。規模はそれこそ地形や気候を変えるほどであるがな」
「こっちがマッチなら向こうは太陽みたいな感じかな……。これ本格的にどうしようもないんじゃ」
とりあえず、相手の情報はわかった。次にこっちの戦力だ。
わたしは、攻撃手段が弓オンリー。それも、鱗とかであまり効きそうにない。
一応、必殺技っぽいのはあるけど、10日に一度しか使えない奥義らしいし、発動するのもいろいろめんどくさいし、恥ずかしいし、使った後が大変だし、なによりあれにはダイスロールが必要だ。できれば使いたくはない。
ジェード君は超粘性生命体になってスキル《不死》を手に入れてるけど、これは分体が生き残っていればそちらに意識を移して生き残ることができるのと、即死技を無効化するって言うだけのスキルでかなり名前負けしてる。殺されれば普通に死んじゃう。HPの表示がないのも《擬態》と分体によるHP変動が可能だから表示されないだけで、実際のHPはオニキスより低い。HPが存在しないわけじゃない。
そのオニキスは高いステータスを持ってるけど、《天眼》で見える相手の竜のステータスはそれより高い。オニキスの基本戦闘方法は魔法主体なので、昔負けたというのも仕方ないだろうと思う。風魔法ってどう考えても火魔法に相性悪そうだし、光魔法も一部の面では火魔法のダウングレードっぽいもんなぁ。
さぁ、こうなると有効な手段がなかなかなさそうなんだけど。
そうこう考えているうちに激突のような速度で地面に着陸。そのダメージはジェード君がかばってくれたのでわたしは問題ない。オニキスがすかさず光魔法で回復して、HPは全回復。
上空で気絶してたジェード君はちゃんと起こしてたよ?
方法? べつにそんなのどうでもいいじゃない。
正面に相対したファスザールの威容はすさまじいの一言に尽きる。あたりに転がっている冒険者の死体とかもむべなるかな。ファスザールの後ろのほうに墓標みたいなものもあるし定期的に哀れな侵入者がいるんだろうか。
というか転がってる冒険者の死体がまだ新しい。ついさっきやられたのかな。もうちょっとタイミングが早ければその人たちを生贄に逃げられたのかも。
……我ながら嫌な思考だね。
『今日はよく羽虫が入りおる。小さき者よ、汝らも我が灼熱の前にひれ伏すがよい』
ファスザールが喋る。わたしは隣のオニキスを見る。オニキスは顔をそらす。
……オニキスの口調ってこいつがモチーフじゃないの……?
昔負けた後、ちょっと憧れて真似してみたとか……うわぁ、黒歴史。
っとと、そのことはあとで問いただすとして、いまは目の前のファスザールだ。
大きく息を吸い込んでいるところからして、開幕ブレスで一気に焼き払うつもりだろう。竜種の一番強い攻撃方法らしいし。
それを見て、オニキスが風魔法の盾を、ジェード君が体積変化と形質変化で炎に強い壁になるべく体を変化している。
――戦闘開始だ。
《システムメッセージ:BOSSバトル戦闘開始!》
《BOSSバトル“獄炎竜ファスザール”専用BGM~永劫消えぬ獄炎~》
オニキスの時は戦闘にならなかったからこのシステムメッセージを見ることはなかったけど、《始まりにして終わりの地》のボス、始原王との戦闘時には同じメッセージと専用BGM~始原の王は始まりに眠る~が流れた。
今回も、あの時みたいな生きるか死ぬかの激闘になる覚悟を決める。
このBGMもどこから鳴っているのかはわからないけど、戦闘における気分の高揚という点ではいい仕事をしている。曲がりなりにもハーモニカで音楽を奏でることの多い手前、このBGMがいかに優れたものなのかは、はっきりとわかるしね。
さあ、いこう。
「いいね、いいね、そういうの。わたしは好きだよ。開幕の必殺技とか」
なんていうの、出し惜しみしない全力って良い。わたしは別に戦闘好きではないけれど、体が熱を持ってくるのが分かる。――火山が熱いせいだろう、きっと。もしくはこのBGMのせいかも。
決して、ファンタジーの住人の竜と戦えることに興奮してるわけじゃない。
それでも、やるなら初手から全力全開、徹底的にっていうのは共感できる。
だってわたしも、同じことしようとしてるから。まぁそれしか打つ手がないともいえるけどさ。
……ちょっと恥ずかしいけど、我慢。
「我放つは純銀の光矢。天地悉く逃れる術なく灰燼へ帰せ。貫き果てよ。出づるは神雷。我は断罪の光也。――神破撃!」
《システムロール:《神射手》特殊スキル“神破撃”発動。基準成功値60。対象のレベルが発動者のレベルを上回っているため、成功値+20。80→57 成功。続いて攻撃回数2d6 ロール……9 攻撃回数9回》
うう、恥ずかしい詠唱。これ考えた人も恥ずかしかったんじゃないかな……。
それでも発動に必要とシステムに規定されているんだから仕方ない。
わたしは天高く弓を射る。矢は市販のものではなく、詠唱によって生み出された純銀の光の矢。眩い光を放ち虚空を翔けるその矢は獄炎竜ファスザールの頭上で弾ける。そこを起点として火口の上空に広がる巨大な魔法陣。
魔法陣から9筋の光の柱が降り注ぎ、ファスザールの体に突き刺さるのと、ブレスがわたしたちを襲ったのはほとんど同時だった。
オニキスがHPの半分以上を失い、ジェード君に至っては8割ほども削られた圧倒的破壊力のブレス。そのブレスによる炎の壁が消えて、視界がクリアになった時。
獄炎竜ファスザールはその1000年にも及ぶ生涯に幕を下ろしていた。
「……あれ?」
……あれ?




