067 魔法
GM「あなたはこの世界に存在する“魔力”に気づきました」
ミオ「そうだね。色々と現実と違うのはこういう物理法則を無視したもののせいかな?」
GM「人並みには魔法へのあこがれを持っていたあなたは、魔法を使ってみたいと考えました」
ミオ「わたしだって魔法少女に憧れたりも……してたかなぁ?」
「せいっ……お、おお、おおおおおお」
ミオは激しく興奮していた。歓喜に打ち震える彼女の服装は上下ともに薄布を一枚着ただけの半裸。傍らに侍るジェードとオニキスの姿も上半身裸の半裸である。そんな危ない服装の彼らは今、難度80のダンジョン《メルフィス火山》へとやってきていた。
「暑い……いや、熱い……。完璧に人間に擬態することでこんな苦労を負うことになるとは……。熱耐性がくその役にも立たない……」
「我も……むう。本来の形態であればこの程度の熱などものともしないのであるが……」
「マスター、そろそろ人化を解いてもいいですかね……。溶けそうなんですが」
「えー、だめー。そしたらわたしだけ暑い思いするじゃない。そんなのは不公平だよね。ね?」
「は、はい……」
そういうミオは全身から滝のようにダラダラ汗を流している。服は汗のせいでぴったりとその薄い体に張り付き、見るからにヤバげである。体調的な意味と、倫理的な意味で。
なお、ジェードをスライム状態にして体に纏わりつかせれば、絵的にはともかく暑さはしのげるのだが、それには思い至らない。
「そんなことより、ほら、これ見てよ! 魔法だよ魔法! わたし魔法が使えるようになったよ!」
そういいながらミオは再び手のひらに小さな火球を生み出す。
さっきからそうやって火魔法の練習しているから余計暑いんですよ、とはジェードにはいえない。
「けどほんとに使えるんだねぇ、魔法」
ミオは神殿で転職した訳ではない。彼女の職は今でも《神射手》×《魔物の王》である。しかし現にこうやって魔法を使うことができている。
事の始まりは数日前。ミオ達が依頼先で出会った他の冒険者と一緒に野宿をした際、その冒険者が火を起こすのに魔法を使うところを目撃したことに端を発する。彼の職は魔法使いでなかったにもかかわらず起こされた“奇跡”に興味を示したミオは彼を質問責めにした。そうしていくつかのことが判明する。
彼が用いたのは生活魔法と呼ばれるものだった。生活魔法とはその名の通り、生活の一場面で便利な効果を発揮するような誰にでも使える魔法の事である。しかし、その場で使ってみようとしたミオは発動させることができなかった。
「誰にでも使えないじゃん!」と憤慨したミオだが、そこで諦めるようなことはしなかった。これを機会に魔法について知ろうと考えたミオは、翌日森の賢者と呼ばれる隠居した魔法使いの元を訪れる。普段はめんどくさがりではあるが、本当に欲求の赴くままの行動力はすさまじい。
森の賢者は子供好きの好々爺で快くミオに魔法の手ほどきを行った。実際にその場で魔法を行使することこそできなかったものの、発動のコツや修行方法を賢者から学んだミオは、こうして火山へ上り見事に魔法を習得していた。
「おじいちゃんの言ったとおりだったねぇ。“魔法とは体内の魔力を用いて体外の魔力に働きかける力の事”。体外魔力、つまり大気中の魔力が火の性質を帯びているここならこんなに簡単に火魔法が使える」
なお、体内魔力がMPのことである。
魔道具は基本的に大気中の魔力を使用して用いるものなのでMPの現象は発生しない。
「火魔法は使えるようになりましたが、生活魔法はどうなのですか?」
「う……いや、MPを使う感覚は覚えたし、多分使えるんじゃないかな」
答えるミオの目は盛大に泳いでいた。完全に本来の目的を失念して魔法を使うことを楽しんでいたことを誤魔化そうとしていることは一目瞭然。
ちなみにジェードにMPはないため、魔法は使えない。
正確にはただのスライムにはMPが存在する。これはその進化先によって火魔法を使うレッドスライムや水魔法を使うブルースライムになるためである。ジェードはそれら属性スライムとは異なる魔粘性生命体に進化したため、MPが存在せず魔法が使えないのである。なお、魔粘性生命体の進化先であるところの現在の姿、超粘性生命体にもMPは存在しない。
「まぁ、ほら、魔法って面白いんだよ。こんなこともできるんだよ」
そういうとミオの手の上に火が現れ、ウネウネと踊りだした。あからさまな話題転換としょうもない一発芸を見るジェードの目は冷たい。
ただし、たったこれだけの事だが、他の魔法使いが見れば白目をむいて失神するような光景だったりする。
まず、無詠唱で魔法を発動することが非常識である。詠唱とは自身の魔力を体外の魔力へと働きかけるためのプロセス。省いてしまっては魔法は発動しない。魔物の用いる魔法はまた別ではあるものの、人族を含め森人などもこの制約からは逃れられない。
だいたい、ミオが魔法の発動に苦戦していたのは詠唱を学んでいなかったためである。正しい詠唱さえ知っていれば発動は一瞬。魔法を扱う基礎の基礎なため、森の賢者ですらミオが知っているものと思い込んでいて、そのことには触れなかったほどである。
そして、魔法には型がある。それは詠唱による差であり、たとえば《火球》《火槍》などがスタンダードな火魔法である。詠唱はそれぞれの魔法に固有のものであり、発動者による些細な差を除けば同一の魔法。そのため、新たな魔法を生み出したものはそれだけで“魔導師”と呼ばれ崇められる。
それをミオは自身の魔力を体外魔力へ直接接続するという謎の技法と、イメージを具現化するという力技で、この意味のない踊る炎を発生させているのだ。……もっとも、この事実をミオやジェードが知るのは随分と後のことになる。
常識を知るツッコミ役がいなければ超絶技巧も宴会芸なのだ。
「ほ、ほら、作品名“炎のオニキス”。どう!?」
「……我が主よ。残念ながら火がついてのたうち回る怪生物にしか見えないのである……」
「ひ、ひどい」
イメージを具現化させるという反則じみた魔法の行使だったが、残念ながらミオに芸術の才能はないようであった。
ミオさんの属性に魔法少女追加でおなしゃす。
ちなみにミオさんの体内魔力=MPは装備による外付けがほとんどなので、装備を外すと魔法はほぼ使えなくなります。5はあるので生活魔法くらいなら使えると思いますが。
まぁ、装備している限り5000とか冗談みたいなMPなんですけどね。MP200もあればこの世界では大魔法使いですから……。
次はほのぼのと装備の充実でも。
session5 ファスザールと黒の旋風 開始です。




