066 第3王女ルーア
GM「ジェードは二人に別れたために出番が増えるかと思いきや、本体の出番が削られるという憂き目にあいました」
ジェード「いやまぁ、どっちも俺だし……」
ミオ「分体が本体に成り替わるエンドとかあるのかな……」
ジェード「マスター!? 不吉なこと言わないでください!」
リュシノン王国第三王女、ルーア=ソートレート=リュシノン。現王ガイア=ゲンドール=リュシノンとその妾妃との間に生まれた子。上に3人の兄と2人の姉を持つ。姉二人は既に嫁いでいて継承権がないが、現王に弟がいることなどもあり、王位継承権は第6位。御年12歳。年齢の割に大人びた容姿をしていて、美人であった母の血を継ぎ容姿もかなりのもの。特に、12で成人とみなされるリュシノン王国では王侯貴族で社交界での大々的なお披露目があるのだが、今年のそれは彼女の美貌で大変な話題になった。自然をこよなく愛する方で、王城内の中庭などではよく護衛を連れずに一人でいらっしゃる姿が見られるという。
というのが表向きの情報。俺が実際に仕入れた情報はこうだ。
・妾腹の子なためか現王に疎まれている。一応第二王子と第三王子も妾腹ではある。母親の方に問題があったか。
・母は平民。その美貌だけで王の妾にまでなった人物で他の奥方からは睨まれていた。王女が八歳の時に他界。
・母が死んでからというもの味方がおらず、第二王子と第三王子に苛められる日々が続く。近衛兵の間では公然の秘密となっている。
・八歳からの二年間は近衛兵の中でも有名だった“神槍のハック”の庇護を受ける。しかし彼はとある事件で王子に槍を向け、王都を追放される。
・以後は苛めもエスカレートし、数度命の危機に瀕し、さすがに近衛兵の仲裁が入った事件もある。
・この件に関し王は事実を黙認。いれば政略結婚の道具になるが、いなければいないでよいというスタンスだろう。
・一方、第二王子と第三王子の方は、壊れてもよい玩具という認識であろうと思われる。現在も低レベルな苛めが継続中。
特に詳しく調べようと思ったわけでもないのにごろごろ情報が出てくる。刺激の少ない王城内で半ば娯楽的な話題になっているのかもしれない。
俺は王城に潜入するようになってから数日でこの半分程度の情報は仕入れていた。そして、実際に王城内で彼女の姿を見た。
彼女は非常に奇妙な行動をとっていた。王城内の庭に生えている木の樹皮をはいでいたのだ。村の悪ガキの遊びとしてなら理解できるかもしれないが、一国の王女がとる行動ではないだろう。俺はそれで、不思議に思ってつい声をかけてしまったのだ。
ああ、恨むべきはこの好奇心に勝てない自分よ。
「王女様。何をなさっているんですか」
この時点まで俺の目的は書物を漁ることだったため、特に人型は取らずスライム形態だった。それを、怪しまれないように使用人の少年の姿へと擬態して声をかけた。その容姿は本体の青年ジェードの姿を若干幼くしたものである。だいたい16、7歳といったところか。
「え? ああ、木の樹皮を取っているんです」
それは見ればわかる、とジェードは心の中でつぶやく。どうやら質問の意味が分からない程度には頭が弱いらしい。重ねて問うと不思議そうな顔をされた。
「わたしのことを知らないということは新人さんなのですね。ああ、なるほど、それで先輩方からわたしに近づかないようにという注意を受けてないのですね」
「?」
「ええとですね、わたしの王城内での立場は少々危ういものでして、関わるとあまりよくない目に遭ってしまうかもしれないのです」
「……それが木の皮を剥ぐこととなにか関係が?」
「お話しするのも恥ずかしいのですけれど……わたしの最近の食事にどうやら毒が盛られているようでして……」
「……」
「厨房に行っても追い返されるので、昔人に聞いた話を思い出しまして、木の皮は食べられると……」
木の皮と聞いて俺はスライム時代に食べたなぁと、2重の意味で苦い思い出を振り返る。あれは決して人間においしいものではないだろう。
俺はふとその日の朝、マスターにプレゼントでもしようと思って買っていた有名店のお菓子を持っていることを思い出した。マスターたちは街の外で依頼をこなしているから街の中にいる俺が何か買っていこうと思っていたのだ。
「菓子持ってますが……食べますか?」
「え、よろしいのですか?」
「まぁ、また明日買えばいいですし……」
正直なところ、毒を警戒して食べないかと思っていた。俺は図書室まで彼女を誘い、お茶を入れながらそのことを尋ねてみた。
「ああ、確かにそういう可能性もありますけど、それで死んだらそれはそれでわたしの限界なんでしょう。人を見る目がなかったということでしょうね」
「俺はその目にかなったんですか?」
「ええ。……そうだ、お名前を聞いても?」
「……ヒスイ。俺の名前はヒスイです」
「ヒスイ、さん。いい名前ですね」
さすがに無断で王城に潜入中の身だ。本名であるジェードという名を明かすわけにはいかない。しかし、俺はマスターから頂いたジェードという名に誇りを持っているため、全く関係ない名を騙ることや、ジェードになる前の俺自身の名を名乗ることはできなかった。
苦し紛れに翡翠の和名ヒスイを名乗る。
その名を聞いて彼女は「いい名前」だと朗らかに笑った。
それが、ひどく透明なものに見えて俺は。
「おいしい! こんなにおいしいものを食べたのは本当に久しぶりです」
「……そうですか。それはよかった」
「ありがとうございますね。いまは何もお返しできるものはないのですけど……」
「別に気にしなくていいですよ」
「いえ。このお礼はいつか必ず」
「まぁ、お好きにどうぞ」
「ええ。必ず」
「……俺はほぼ毎日ここにいます。木の皮を剥ぐほどお暇なら話し相手くらいには、なりましょう」
「その時はお菓子も用意してくれるんですか?」
「あなたがそれを望むなら」
「……冗談だったのですけど」
そうして、俺こと“ヒスイ”と彼女“ルーア”の奇妙なお茶会は始まったのだった。
最近ほのぼのした話を書いていないぞ……!
文章も硬くなってる気がするし。
というわけでしばらく気の抜けた話を書く予定。
次からsession5です。山に登ろう。




