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デスゲームを楽しむために  作者: すずひら
間章 王国の闇
65/143

065 もうひとりのジェード

GM「やっとヒロインが出ますね」

ミオ「え?」

GM「65話にしてやっとヒロインが登場です」

ミオ「え、わたしってなんなの?」

 「今日のところはこのくらいにしておくか……」


 ジェードは王城内の図書館でそう小さくつぶやいた。王都に来てからというものジェードは毎日王城内に侵入し、書物を漁っている。擬態や体積変化が可能なスライムに門番や見張りなど意味をなさない。

 なお、このジェードは本体ではなく分体である。本体はいまもミオのそばでせっせとEランクの依頼をこなしていることだろう。分体のジェードには本体の様子はわからないが、得た知識や経験などは本体に統合した時に還元される。


 「王国周辺の知識は得た……あとは他の国……こればっかりは他国に行かないと厳しいか」


 ジェードはミオと出会って自我を得てからというもの、限りない知識欲に目覚めた。最近になってようやく、『経験値は最高の食事』という言葉が一種の比喩表現でもあることに気が付いたほどだ。暇さえあれば酒場などの人が集まる場所、もしくはいまのように書物がある場所へ赴き、貪欲にその欲求を満たしていた。その甲斐あってかミオの質問にはほとんどなんでも答えられるほどの知識を得ている。

 最近の関心は専ら人の営みと、この世界の仕組みについて。特に、ミオに禁止されてからというもの、ジェードは一度もダイスを用いていない。これは極めて異例のことであった。

 WCでダイスを振るという行為は景色を見るのに目を使う、そのくらい当たり前の行為だ。それを禁止するということは、景色を見る時に心眼を用いるようなものである。ジェードはただその忠誠心のみでそんな難事を克服していた。そして、ダイスを使わないスキルの発現によって訪れた変化もある。


 「“俺”がまさにいい例だ」


 分体はあくまでも分裂の上位互換。分かれる体はジェードの一部だった。しかし、ダイスを用いない分体はもうひとりのジェードとでもいうべき存在を生み出していた。

 ダイスを使用するか否かがスキルの効果を大きく変えているのである。


 「《分体》によって分かれることができる人数は1人に減った……。しかし、“俺”の性能は本体と変わらない。自我もあるし、思考能力だって持っている。《分体》を除く全スキルも使えるし、種族特性も十全だ。だが俺は、本体ではないという認識もしている。そして、俺は本体じゃないせいか、もはやジェードと呼ぶには変質しすぎている」


 実際にこちらのジェードは本体と自分の性格が異なっていることに気が付いている。本体は割かし戦闘を好む。それは最底辺のスライムから敵を喰らうことで成り上がってきたことに由来する好戦的な一面だろう。そうと理解していながら、こちらの分体ジェードは戦闘を好まない。無論、自身やマスターたるミオに危険が迫れば全力で障害を排除する気概は持ち合わせている。しかし、自分から相手を攻撃しに行くようなことはしたくないと思っている。


 「どころか俺は博愛主義に片足突っ込むほどに、他人にやさしい。わかっていても、こればっかりはどうしようもないな」


 そう呟いてジェードは自分の姿を見下ろす。完璧に少年の姿に《擬態》し、王城内で働く“下働きの少年”を演じる。


 「王都では下働きではなく使用人と呼んでいるんだっけか……。――それで、どうしたんですか、姫様」


 ジェードが声をかけることで本棚に隠れていた小さな影がびくっと震える。そして、恐る恐るといった様子で顔を出す。

 姫様、と呼ばれたことからも分かる通り、顔を出した少女はこの国――リュシノン王国の王女だった。名をルーア=ソートレート=リュシノン。王位継承権第6位の第3王女である。

 しかし、一国の姫というには随分と質素な格好をしていた。パッと見ではとても王女には見えない。実際に末端の衛士なら使用人の少女だと誤認してしまうだろう。ジェードがわかったのは、単純に面識があったからである。


 「ええと、お邪魔ではありませんでしたか……?」

 「はい。調べ物は終わりましたから。それで、お目当てのものはこちらですか?」


 ジェードはそういうとどこからともなく(実際にはスキル《吸収》で収納していた自分の体の中から)取り出した小さな包みを揺らす。それだけで漂う甘い匂いに、包みの中はお菓子だとわかる。


 「わ、わたしはそこまで食い意地汚くはありませんっ!」

 「そうですか。それではいりませんか?」

 「そ、そういうわけでは……」

 「今日のお菓子は貴族御用達“キャロル菓子店”の看板商品ですよ」

 「う、うう……、食べたいです……」

 「初めからそう素直になっておけばよいのです」


 ジェードは茶器一式も体の中から取り出し、手際よく準備をする。ミオとの自堕落な生活を営むためには必須のスキルである。熟練の執事のように手際も様になっているし、実際に茶を入れる腕前も高い。以前より分体と再統合によって常人の数倍の経験を積めたジェードは料理の修行などもしている高性能スライムなのである。それもすべてミオの欲求を満たすためだけの努力なのだから《魂を捧げし者》という称号が伊達ではない忠誠心である。


 図書館でお茶会など、周囲に人がいれば眉を顰められそうな行為だが、幸いかどうかこの図書館に人が寄り付かないことをジェードは知っていた。利用者どころか司書すらいないのだ。ここを無断使用して1週間以上たつがジェードはいまだにここで自分以外の存在を見たことがなかった。この王女の存在を除いて。


 ジェードの体内は半ば異空間と化していて、お湯なども熱いまま保管できる。内部の容量がどう見ても見た目より大きいことも含め、プレイヤーの持つ《アイテムボックス》と非常によく似た性質を持つ。便利である。


 「おいしいです!」

 「そうですか。それはよかった」


 王女ならば他人の出した食べ物に少しは警戒しなさい――そんな当然の注意はジェードからは出ない。こうやってお菓子を差し入れして小さなお茶会を開くのはもう数度目で今更だし、なによりこの王女にその言葉はいえなかった。

 ジェードは王城の中で知ったこのルーア王女の噂と、実際に出会った日を思い出す――。


というわけでヒロイン(仮)登場です。嘘です。

ヒロインは誰が何と言おうとミオ様ですとも。ええ。

ちなみにルーアの性格や家族構成もろもろはダイスで決めています。結構偏った構成になった……。

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