063 検証
ミオ「ねえ、GM。あなたは何?」
GM「……」
ミオ「この世界の管理者? いや、違うよね」
GM「……わたしが誰かなど、そんなことはどうでもいいのです」
ミオ「あっそ」
ミオの放った矢は寸分たがわず《森林狼》の眉間を貫いた。一瞬後、さらにその隣の《森林狼》にも矢が突き刺さる。
普段ならば消滅してアイテムとお金を残して消えるはずの《森林狼》の死体は時間がたっても消えることはなかった。血と死の臭いがたちこめる中、ミオは頭をかきながらつぶやいた。
「やっぱりかぁ……」
そのつぶやきに反応したのはジェード。彼とオニキスは、実験がしたいというミオとともに難度80のダンジョン《いと暗き森》へとやってきていた。そこで、普段通りジェードの分体を矢にして魔物を仕留めたのち、ミオは今度は店売りの矢を用いて射撃を行った。その結果が先ほどのミオの言葉。説明もなにもなかったジェードたちには意味が分からなかった。
「どうしたんですか、マスター?」
「んー。……んー。――いいよ。説明してあげる。わからないところも多いと思うけど、一回しか説明しないし、わからないままでもいいから」
「は、はい」
ミオはあたりにあった倒木に腰かけると、ぽつりぽつりと話し始める。
「わたしは、この世界をゲームの中だと思ってた。なによりの根拠はメニューウインドウと、ダイスロール。それにGMがいれてくる茶々。でもねぇ、多分違うんだよ。そうじゃないといろいろとつじつまが合わない。まずは、NPC。どう考えても人間にしか思えなかったからスルーしてたんだけど。彼らの認識は……って、オニキス寝ちゃってるし。立ったまま寝るって器用だね」
「……こいつは難しい話は基本ダメですからね。マスターの話の最中に寝た罰はあとで受けさせるとして、いまは放っておきましょう」
「別に気にしなくていいよ。あまり楽しい話でもないし。んで、NPCだったね。彼らの使っている月の名前には十二支が入ってた。これはもう、自力で考えてどうにかなるものじゃないよ。偶然にしちゃできすぎ。それに、レベルやステータスの概念を不思議に思っていない。突然現れたはずのプレイヤーたちにも始まりの街の人たちは特に反応して無かった。これだけならまだNPCにも思えるよね。でも昨日、依頼の報告に冒険者組合に戻った時にね、トイレ、見ちゃったんだ。プレイヤーは排泄の必要性ないのにね。てことは、あれ、完全にNPC用だよ。ただの置物って可能性はないとおもうよ、汚れてたからね。嫌なもの見ちゃった。ちゃんと掃除しておいてくれないとねー。まぁ、とにかく、他にもいろいろ根拠はあるけど現状の結論としては彼らは普通に生きてる存在。むしろわたしたちプレイヤーの方が異質な存在だよ。ジェード君たち魔物はまだわからないけどね」
「……」
「あとは魔道具。物理法則とかいろいろ無視して存在するあれ。ステータスプレートとかどうやってもあの質量があのサイズ変化はありえないよね。ゲームのアイテムならまだ納得できた。でも、あれはゲームのアイテムじゃない。ヘルプにも魔道具なんて項目ないし。となるとあれを動かすための“魔力”って何。わたしはMPかなっておもってたけど違ったし。魔道具動かすときにMP減らなかったからね。そうするとこの世界にはわたしの知らない何らかの力がまだあるみたいだよね。そして、極め付けがいま確認したダイスロールだよ。――ジェード君、ダイスって、なに?」
「だ、ダイスですか? 説明しろといわれると難しいですね。この世界の理の一つ、でしょうか」
「そうなんだよね。正しい。ダイスは理の“一つ”なんだよね。わたしが弓を射るという行為。ダイスを使う方法もあれば、今みたいにダイスを使わないで物理法則にしたがって行う方法もある。意識しないで弓を射った場合は必ずダイスが反応する。多分すべてのプレイヤーはこっちしか知らないと思う。でも、ダイスを使わない、使いたくないって意識しながらだと普通にダイスなしでも射れるんだよね。いま確認したよ。なのに威力はダイスを使ったときよりむしろ高い。こないだ長時間歩いた時にも思ったけど、わたしの体はステータスの影響を大きく受けているみたいだし、スキルレベルの補正が尋常じゃないっぽい。体感で、スキルレベル%威力上昇とか、そんな感じじゃないのかな。命中補正とかもかかってるんだろうね。弓が素人のわたしでもこんな遠距離から一発で当てられたわけだし。そして、弓スキルはどんなスキルでも最低、使用後に5秒のクールタイムがあるんだ。普通に射るだけでも同じ。新しい矢をつがえて、とかの手間の分なんだろうね。でもいまわたしは矢を二本持って、連射した。できちゃった」
「ええ、見事な早業でした」
「ありがと。そうなるとね、ダイスを使うっていうのはダイスによって能力が制限されている、とも考えられるの。まぁ、TRPG自体そういう概念ではあるんだけど。まぁ、ほかにもいろいろと思うことはあるんだけど、結論はこれ」
この世界はゲームの中じゃない。ゲームによく似た世界である。正確に言えば、世界の理にゲーム性が組み込まれた一つの世界。当然、NPCには命がある。
ダイスというシステムは能力を制限するために存在する。そのあり方を考えると、ダイスという理はこの世界に“追加”された可能性が非常に高い。
「そしてこうなると怪しい存在は一人しかいないわけ」
――GM。
「いろいろとまぁ、聞きたいこともあるけど会いに行くのもできないしね。わたしの考察はここでおしまい」
「は、はぁ。ほとんどわかりませんでした。マスターの思考レベルには俺はまだまだ追いつけませんね……」
「ん、いいのいいの。そしてわたしもいまから気にしないから」
「は?」
「うんー。なんかごちゃごちゃとめんどくさいじゃない。こんな世界の謎なんて解いても誰も得しないし。だったら気にしないのが一番じゃない」
「そうでしょうか……?」
「そうそう。今回のことで、今後に活かすことは2つだけ。一つは、なるべくダイスを使わないこと。これはジェード君とオニキスもね。どうもこの仕様とかヘルプとか見る限り、わたしたちにダイスを使わせたくてしょうがないみたいだから。だから、使わない。怪しすぎるし」
「りょ、了解しました。オニキスにもあとで言っておきます」
「うん、お願いねー。あともう一つは極力クエストを受けないってことかな。GMが怪しいんだからゲームのシステムを利用するわけにはいかないよね。まぁ、これはいままでどおりの方針だけどさ。――NPCを人間として扱うのもいままで通りだし、そうやって考えると変更点はダイスを使わないってことだけだったね」
「――はい。マスター。すべては御心のままに」
「ういうい。それじゃ冒険者組合で今日の依頼受けにいこっか。早くDランクになってのんびりしたいねぇ」
「俺がマスターの分まで依頼こなしましょうか? あのような雑事でマスターの手を煩わせるのも……」
「いやー、わたしは基本的に怠け者だけどさ、そういうズルはあんまり好きじゃないんだよねー。正々堂々とだらけたい」
「そうですか。それでは邪魔にならない範囲でサポートさせていただきます」
「ん、ありがとねー」
ミオさん覚醒。
TRPGでダイスを使わないっていうのはひどいチートですよね。GM涙目です。ロールプレイでダイス回避ならまだ楽しみ方の範疇だとは思うんですが。“リアル言いくるめ”含め。
でもまぁGMには必殺技「強制ダイスロール」が存在するのでミオさんがファンブルで死なないという保証はないんです。
TUEEEものでも適度な緊張感は必要だと思います。




