058 旅立ち
GM「あなたは人間の悪意に触れ、人間といったん距離を置くことにしました」
ミオ「……うん」
GM「旅の中での出会いや経験はこの苦い思いを払拭する手助けになってくれることでしょう」
ミオ「そうだね」
GM「メインストーリークエスト通称MSQを攻略すればそんなあなたの悩みもたちまち解決することでしょう」
ミオ「それはやだ。……なんかあやしい商法みたいになってきてるね」
「旅に出ようと思います」
「……は、はい」
「う、うむ?」
あの事件から一か月。わたしはジェード君とオニキスにそう宣言した。
この一か月、《始まりにして終わりの地》というダンジョンにずっと潜っていた。それは、確かにジェード君たちだけに危ない思いはさせられないということでついて行ったというのもあるんだけど、ほんとのところは単にわたしが人と距離を置きたいと思ったというのもある。なにせ誰も見つけてないダンジョンだ。他の人と会う可能性はない。内部でキャンプしながら一か月、わたしはこのダンジョンの攻略を終えたらどうするか悩んでいた。
わたしは、幼いころにとても特殊な経験をしている。人にはおいそれと言えないような内容。かつてそのことを知っていたのはわたしと院長先生だけ。わたしが院長先生を殺したあとは、タイチの両親――如月夫妻だけが知っていた事実。彼らが死んだ今となってはわたししか知る者はいない真実。
まぁそんなわけで、こんな事件なんてなくたってわたしは元からひどく歪んでいるし、壊れている。だから、今回の事件だって大したものだとは思わなかった。ただ、ちょっとだけまた人に嫌気がさしただけ。
「ジェード君とオニキスは人型でも嫌な感じはしないのにね」
「え、ええと?」
「いや、こっちの話。気にしないで」
「それで、我が主よ。旅に出るというのは言葉通り宿を引き払って長期の旅程に赴くということでいいのであるか?」
「うん」
わたしたちが今いる《始まりの街》。そして周囲に存在する《霧の街》をはじめとしたいくつかの街。これらは国に所属していない空白地帯に存在する……っと、まずはこの世界の地形から確認しておこう。
ワールドクリエイト、通称WCと呼ばれるこの世界は基本的に地球をモチーフにしているみたい。ただしモチーフにしたのはかつてパンゲアと呼ばれた巨大大陸が存在していた時代。この世界の一つしかない大陸の形を分かりやすく言えば、ジャガイモの右上がちょっと飛び出ているような、そんな形。そしてわたしたちはこのジャガイモ大陸の真ん中の東端にいる。日本があった場所に、《始まりの街》があるということ。話を聞けば《空を統べる者》オニキスがここに封印されていたのも太陽が昇る東端だったからだそう。
さて、そんな巨大な大陸。もちろんいろいろな国がある。始まりの街の周囲で最も近いのはリュシノン王国。お姫様が可愛いらしい。その隣には森人評議会。ここはエルフとかの森にすむ種族が集まっている国。あとはワイマル法治国や西の方にはアレク帝国なんてのもあるらしい。他にも小さな(あくまで比較)国もたくさんあるし、《始まりの街》を含め国の統治下にない空白地帯にある街だって自治権を持ってるから小さな国と呼べなくもない。ちなみに言語は主要数か国でどこも違ったりするんだけど、プレイヤーはなぜか理解できるし読み書きできる。こういうとこはほんとゲームらしくていいよね。
「とりあえずぐるっと世界を回ろうかなって。まずは近場のリュシノン王国かな」
「……俺はまぁ、世界を回って見聞を広めたいってのは常々思ってましたしありがたいんですが」
「我は我が主の決めたことならば異存はないのである。世界を巡るなど数百年ぶりであるな」
ふたりともわくわくしてる気持ちが流れ込んできてるよー。隠そうとしてるけどばれてるよー。
いままで宿屋でのんびりしてるのはやっぱり魔物の二人にはちょっと退屈だったのかな。こないだのダンジョン攻略の時もすごく生き生きしてたしなぁ。
まー、わたしがのんびりする方針は変えないけどね。
それでも思い立ったが吉日。その日のうちにわたしたちは始まりの街を旅立った。
もちろん、宿屋のおじさんと奥さん、他にもお世話になった道具屋さんなどには挨拶してきた。ついでに旅の必需品も買った。
ガッツと奥さん、バッツ君にも挨拶してきた。ガッツは凄くついてきたそうだったけど、奥さん置いていくなんて男の風上にも置けないよってことを遠まわしに言ったら引き下がってくれた。そうそう、チンピラーズに斬られたバッツ君は一命をとりとめた。この世界では部位欠損とかしても、生きてさえいればどうにでもなる。バッツ君もいまではすっかり元気だった。元気すぎて訓練に精を出しまくってるとガッツが苦笑いしてたっけ。なんでもわたしを守れなかったのがひどく堪えたらしくて、ガッツの知り合いの冒険者に訓練をつけてもらっているそう。
挨拶といえば、グリフィンナイツの面々だけはみんなでどっかのダンジョン攻略にいっているとかで会えなかった。月夜の黒猫のカールたちには会えたけどね。なんか号泣してた。よっぽど精神にきてたんだね。わたしなんてほとんどなにも助けになってあげられなかったのに随分感謝の言葉をくれた。
まぁ今生の別れでもないんだし、気楽に行こう。
さぁ、いざ出発。
さて、session4始まります。リュシノン王国へ旅立ちです。
リュシノン王国に関しては名前だけ36話で出てましたね。他の国は今考えました。
次回は道中……といいつつ新装備や現在のステータス表示回ですかね。




