054 カイトが見たもの
ミオちゃんや囚われた他ギルドの人たちを救い出す作戦の道中。
常識とか、正常な思考をもたらすいろんなものがどこかに飛んでいった。
正直なところ、門番のサラマンダーが一撃で死んだ時点で、いろいろ終わっていたんだと思う。
それでも僕はギルドマスターとして、理性は保っていなきゃと思っていた。
洞窟内では魔物とは遭遇したものの、レベルは20から30程度。歴戦の猛者たちが多いグリフィンナイツの敵じゃない。危なげなく進むけど、逆に不安にもなった。どうしてグリードグリムの連中は誰も出てこないのか。もしかしたらどこかで待ち伏せをしているかもしれない。
そんなことを思い、警戒しつつ先へ進んでいくと綺麗な音色が聞こえてきた。音源をたどると、そこにはミオちゃん……いや、タイチ君の姉なんだからミオさんか。ミオさんがいた。彼女は左手に弓を、右手にハーモニカを持ち、服装備はボロボロという出で立ちだった。服装備は耐久度が減るとボロボロになって穴が開いたり壊れたりする。あれはきっと耐久度0になってしまった服だろう。正直、いろいろと見えそうで目をそらした。
彼女はジェードさんとオニキスさんに助けられた後、他の人質を解放するために行動しているらしかった。すでに月夜の黒猫は全員解放し、うしろにいるのがその人たちだと説明された時にはあまりの手際の良さに驚いた。これでは僕達のやることが何もない。そもそも、ミオさんは救われる側だったはずなのにいつのまにか救う側の代表になっている。
その後の人質救出の道のりはさらに楽だった。罠はすべてミオさんが発見するし、どうやって察知しているのか魔物は現れたと同時に矢を受けて消滅する。というか、狩人職の人を初めて見た。狩人は弓の他に武器屋で別売りの矢を買わなければならず、しかも矢は使い捨て。その上剣などと違って魔物にあてることが非常に難しい。止めに威力も低いとマイナス要素ばかりなため、地雷職として広く認知されている、というのが専らの評判だったんだけど。しかし、タイチ君の剣でも2発は必要な敵を遠距離からの高速の一撃で仕留めていく姿はどう見てもその評判には当てはまらないように思えた。
そうして道中をミオさんにおんぶにだっこで(一応周辺警戒くらいはしていたのだけど)抜けて、囚われている人質の救出に向かった。グリードグリムの連中は見当たらず、不思議に思ったけど、ミオさんの話ではジェードさんとオニキスさんが“掃除”してくれたんだそうだ。たしかにサラマンダーをあっさりと屠った二人の実力なら洞窟内の制圧程度はたやすいだろう。
人質は全員無事だった。いや、無事とは言えないか。生きてはいるけど、生きてはいない状態だった。実際の人質の惨状を目にして、屈強な男ぞろいのグリフィンナイツでもメンバーの半数ほどは吐いた。僕も戻しそうになった。こんなことを、人間が人間に対してできるものなのか。月夜の黒猫のギルドマスターのカールさんに聞けば、ミオさんが受けていた仕打ちはこの比ではなかったそうだ。正直、まったく想像できないし、想像したくもない。
ミオさんはそんな惨状にもひるむことなく、半ば人としての形を失っている彼らに優しい言葉をかけ、天上の音色で傷ついた彼らを癒していった。その際に使ったスキルも僕は見たことがなかった。数少ない中級職の大神官である僕でさえ、比率回復スキルは20%が限度なのに、ミオさんの使ったスキルでは80%という異常な数値だ。スキルの発動にかかる時間が長いとはいえ、これは破格の性能。しかもMP消費をしないって、どう考えても通常のスキル性能じゃないだろう。ここから出たらぜひとも詳細を聞きたいところ。
しかし、実際の治療風景を目にして、カールさんが「彼女は女神だ」と言っていた理由がようやく理解できた。あの笑顔と音色で窮地を救われた日には、誰だって彼女の信者になるだろうという自信がある。ギルドメンバーの一人の「あの笑顔だけでもHPが回復する気がする」というつぶやきに、僕は心の中で同意した。
そして、思っていたよりも大量の人質にされていた人たちを助け、僕達はダンジョンの最下層へと向かった。ミオさんの話ではそこにジェードさんとオニキスさんがいるという。正常な判断では、ここでダンジョンの最下層へと潜るなんてありえないだろう。一旦人質を連れて地上へ出るべきだ。しかし、僕達は、いろいろと正常な思考が麻痺してしまっていて、ミオさんに誘われるままについていった。
そうして、今日一番の衝撃が僕たちを襲う。
ミオさんの笑顔の逆、見ているだけでHPがガリガリ削れそうなほど圧倒的な威圧感を持つ巨鳥と、見た目は最弱の魔物スライムなのに隣の鳥に匹敵しそうな存在感を持つ魔物。サラマンダーがただの火トカゲに思える、そんな雰囲気。
ダンジョンボスが2体も!? と僕を含めグリフィンナイツの面々はすぐさま戦闘態勢をとった。人質になっていた戦闘技能を持たない人たちもいることだし、ここは僕らが盾になりつつ逃げるしかない。でも、あのレベルのボスを相手に僕らが何秒持つか。
だから僕はギルドメンバーに悲壮な命令を出そうと思ったのだけど、なんと、ミオさんはそれらの魔物をジェード、オニキス、と呼び、親しげに会話を始めたのだ。
彼らの足元にはグリードグリムのマスター、ベルムンクが転がっていたけれど、実際のところそんな些末なことはどうでもよかった。
僕は、その場の全員の気持ちを代弁して、ミオさんに質問した。
「ミオさん、その、あの二人(?)は、一体何?」
次回でグリードグリム編最終回かな。長々とした前振りお付き合いいただきありがとうございました。一度無力な思いをした我らがミオさんは「姉TUEEE」の境地目指して強くなることでしょう。え、もう強い?またまた御冗談を。
あ、ちなみにこの話に修行篇は基本的にありません。時は消し飛ばされます。




