046 カール
レンハが捕まったという知らせを聞いた後、俺たちはメールの指示通りに行動し、不意打ちで捕まった。相手は本当に殺人を犯すらしいと噂にあったグリードグリムというギルドだったために指示には従ったが、こちらは7人いてすぐにどうにかされることはない、大丈夫だろうと高をくくってもいた。
結果はひどいものだ。俺の浅はかな考えのせいでギルドの全員が捕まった。しかも互いが互いを人質に取られているせいで下手に行動も起こせない。仲間全員の命を危険にさらした俺は、ギルドマスター失格だろう。
俺は、デスゲームと化したいまでも、この世界をゲームの世界だとまだ楽観していた。ゲームの中だからこそむしろ、危険かもしれないというのに。現に、まだそれほどレベルが高くなく、初期職のギン、ミスト、レンハは俺についてきたばかりにこんな目に会ってしまった。
捕まった後俺たちは眠らされ、どこかのダンジョンの中へと運び込まれた。他のギルドのやつらに対する人質ってわけだろう。そのダンジョン内でレンハと会うことはできたものの、状況はもちろん以前よりも悪い。
そして、そのダンジョン内で俺たちは信じられない光景を目にした。
連れてこられた場所には、先客がいた。首輪で壁際に繋がれた少女がいたのだ。
その姿を見て、ミストとレンハは吐いた。俺とギンも胸がむかつくことは抑えられなかった。ただ、それも仕方ないだろう。
まだ小学生くらいに見える少女の目には目玉がくりぬかれた虚ろな眼窩、両手は肩から切り落とされ、両足も太ももの半ばから下がなかった。衣服はボロボロ。全身に無数の斬り傷が走り、打撲痕や醜い火傷の痕もあった。エフェクトが散っているのでゲームにインする前から生身の肉体にあった傷ではない。ここでつけられた傷だ。何があったかは一目瞭然だろう。グリードグリムの奴らが根っこから逝かれてやがると俺が心の底から分かったのはこの時だ。
少女はそんな状態なのに気丈にも俺たちに笑いかけてきた。冗談まで言った。なんて、心の強い子なんだろうか。俺は、娘位の年の子がこんな目にあってるのを見ただけで、心が折れそうなのに。
少女の名はミオといった。俺たちがミオちゃんに自分たちが知っている情報を教えたが、彼女はほとんど何も知らなかったようだった。そんな彼女がどうしてこんなところに、と俺が質問した時だ。
いつの間にかやってきていた見張りの男にレンハが蹴られた。その蹴り自体にほとんど威力はないものの、低レベルなうえに装備をつけておらず、ステータスが下がっている状態のレンハのHPはあっけなく減った。俺は思わず立ち上がり、レンハをかばった。
しかし、人質がとられている状態で、抵抗することはできない。俺にできるのはただ蹴られ続けていることだけだった。もっとも、俺もレンハとの差はレベルと職くらいなものだ。すぐにHPはガリガリ削れていく。そして、それ以上に俺の心は恐怖に蝕まれた。
この世界で魔物に襲われて傷を負ったことはある。その時はゲームとは思えないほどに痛かった。だが、メイリンの治癒魔法がすぐに痛みを癒してくれたし、相手は意思と知性を持たない魔物だった。例えるなら機械に指を挟んだとか、そういう痛み。それが今、殺意と敵意をもって攻撃されるというだけでここまで違うなんて。こちらを傷つけようとする意志、それ自体が痛みをもたらしているような錯覚。人質なんてなくても、抵抗できなかっただろう。
死ぬ、という言葉を意識した瞬間、心が凍えた。体が竦んだ。
40年以上生きてきて、いろんな怪我や病気になったことはある。だが、死を意識したことはなかった。
そんな体も心も自由を奪われ嬲り殺されるのを待つだけの俺を、そんな俺を助けてくれたのは、ギルドメンバーでもなく、たった今知り合ったばかりの少女だった。彼女は見張りの男を挑発して、自分へと攻撃の矛先を変えさせた。俺は情けなくも、腰が抜けていて暴行を受ける少女を見ていることしかできなかった。彼女のHPは出会ったときからずっと1ドットを残して赤く点滅しており、一撃でも攻撃を受ければ死んでしまいそうだったが、彼女は死ななかった。今にして思えば、彼女は不思議な力で守られていたのかもしれない。
それからも数度、似たようなことがあった。そのたびに彼女は俺達を守り、身代わりに攻撃を加えられた。
そうして彼女はボロボロの姿になりながらも笑うのだ。もう大丈夫だよ、安心していいよ、と。
ああ、あの笑顔を見てしまった俺達にはもう、彼女が傷だらけの女神にしか思えないんだ。




