034 弟にとっての姉
ちょっと過去話など。若干重いけど、客観的に見てこの程度の重さ。いつかやるミオ視点の過去話は読んでて鬱になるかも。わたしは書いてて鬱になりました。
というかこの話ほのぼのタグついてるけど、この後の展開そうとう鬱っぽい話続くうえに結構描写もギリギリな感じなことにプロット見て気づいた。
姉さんは俺が小学校に入学した頃、つまり俺が6歳くらいの時に、俺の家、如月家へとやってきた。初めて見た印象は子供心にはっきりと覚えてるよ。抜身の日本刀のような人、ただし材質は砂糖菓子。訳が分からないって? でも確かにそう思ったんだ。
その時点で姉さんは成人してたな。俺との年齢差はぴったり20だからあの時点で26だったのかな。
「ちょ、まって、待って。タイチっていま17だよね?」
「お前と高校一緒だからな。同い年だろ」
「ああいや、うん。え、20歳差なの?」
「そうだって。前に免許証見て確認したよ」
「……それであの外見なわけ。ほとんど詐欺じゃん」
「まー小学生って言われて通用するからな」
そう、姉さんはあんな外見だけど、俺よりずっと年上。初めて俺の家に来た時から見た目はほとんど変わっていない。多少肉付きがよくなって、印象が鞘にしまわれた日本刀、くらいには丸くなったけど。
実は俺は姉さんがなぜうちに来たのかをよく知らない。その当時すでに働いていたらしい姉さんだったけど、なにか事情があって俺の両親に引き取られたらしい。俺の両親は警察官だったから多分なにか犯罪にでも巻き込まれたとか、そんなんだとは思うけど。話を聞く前に俺の両親はどちらも7歳のころに亡くなったし、姉さんにもいまだに面と向かって聞けてはいない。
「ああ、言わなくてもわかってると思うけど、姉さんと俺は血が繋がってないよ。正確には義姉さんなのかな」
「言葉で聞く限り違いはないよ。ああいや、僕はいままでてっきり年下の姉さんなのかと。だから義理なんじゃないかとは思ってた。まさか実年齢でも上だとはね……」
「年下の姉さんなんてあり得るのか?」
「なんか状況は想定できそうじゃない?」
「ふーん。まぁ、血はつながってないけど戸籍上は俺の両親の養子になってるし、俺にとっちゃやっぱり義姉さんより、姉さんて感じだな」
両親が死んだのは事故だった。平日で、俺は小学校に行っていた。俺の両親は姉さんを連れて3人で観光に出かけ、山道で居眠り運転をしていたトラックが対向車線をはみ出て正面衝突。弾き飛ばされたうちの車はガードレールを突き破り崖下へ転落。すぐに救助隊が出たけど父さんは即死、母さんも助からなかった。姉さんは身体的には無事だったけど極度の精神的ショックで入院した。いまでもトラウマで車には乗れないらしい。免許証はもっぱら身分証明にしか使わないと笑ってたっけ。
その事件が起きたのはちょうど姉さんがうちにきて1年位した頃だったかな。姉さんが泣いてるのを見たのはその時が最初で最後。
「……さらっと重いね。いやまぁ、タイチのご両親が亡くなってるって話は聞いてたけどさ」
「まぁ、言っても俺も小学校の低学年だったからな。正直今の話だって後になって新聞読んだりネットで調べたりして知ったことだし。イマイチ親の死って実感はないよ」
「そのあとはお姉さんがタイチを育ててくれたわけ?」
「ああ。小学生だった俺はある日突然両親がいなくなって困惑したわけだけど、姉さんはもう社会人だったわけだしな。すぐに就職口みつけて働き出してたよ。それからは女手一つで俺を育ててくれた。だから俺は姉さんに頭上がんないんだ」
正直なところ、姉さんと俺の仲はあまり良くなかった。なにせ、小学生だった当時の俺からすればいきなり家族の中に入り込んできた異物のようなものだったから。両親もそれをわかっていたのか、なにかにつけ俺と姉さんの仲を取り持とうとしていた気がする。ただまぁ、姉さんも俺にはあまり近づきたがらなかったけど。
そんな姉さんの態度は事故の後一変した。言葉を交わすことすら稀だったのに、俺に対する態度が柔らかく、というか甘くなった。俺も隔意があったわけだけど、家族はたったひとり姉さんしかいなくて、頼れる人も姉さんだけで、甘やかされればすぐに懐いた。この辺は我ながら小学生だったことを抜きにしてもちょろいなと思うよ。
「(まぁ、タイチのお姉さん愛が強すぎる原因はわかったよ。いままで内心シスコン乙って思ってたけど、そりゃ、こうなるよなぁ)」
「うん、なんか言ったか?」
「いや、なにも」
それから姉さんは「いつ寝てるの?」ってくらい働いてた。帰ってきても寝る間もなく家事して、俺の面倒見て、また働きに出て行った。でもまぁ寂しくはなかったよ。家にいる間は姉さんはずっと俺のこと気にかけてくれてたし、たまの休日だって俺のために使ってくれたし。それでもまぁ一緒にいる時間が短くて、俺には他に遊び相手が少なかったから、ネトゲに手を出したのもむべなるかな。
唯一不満があるとすれば学校の宿題を見てもらえなかったことかな。姉さん、「わたしは小学校も行ってないからおべんきょーはよくわからないんだよ」って言って誤魔化してたけど、あれは絶対成績悪かったんだぜ。
「誰にだって不得意なことはあるでしょ。ってかそんだけ働いてる人によく宿題見せようと思ったね」
「他に見せる相手いねーんだもん。じっちゃんばっちゃんもみんな俺が生まれる前に死んじゃってるしさ。まー、“不満があるとすれば”って言ったろ。別に不満なんかじゃなかったさ。俺勉強嫌いだしな。……あ、不満ってわけじゃないけどもう一つ姉さんに思ったことあったわ」
「うん?」
いやな、姉さん、まったく食べないんだ。体が小さいってことはあるんだろうけど、それにしたって食事の量が少ない。飯作ってくれる時だって、いつも俺の分しか作らないんだぜ。一緒の食卓座ってにこにこしながら俺が食べるの見てるんだけど、自分はたべねーの。外食に行ってもそう。で、俺が「食べないの?」って聞くといつも「タイチがわたしの分まで食べてるからいーの」って言って。それでも俺が心配になって「なんか食べてよ」って言うと、決まって俺の好物をひとつだけつまんで「えへへ」って悪戯っぽく笑うんだ。俺はいつしか好物は先に食べる派になったね。
「でもタイチ、弁当食べる時とか好きなもの一つは最後までとっておかなかったっけ」
「……よく見てるな、ケン。俺ちょっとお前のこと怖いわ」
「いやだって、もう一年位ずっと一緒に弁当食ってるじゃない。それくらい気づくよ」
「そうか? まー姉さん本当に食べない人だから、いつもなんだかんだ言って最後まで姉さんの分とっといちゃうんだよなぁ。だってあのほっそい体だろ。心配でさ」
「好きなもの食べられるのは悔しいけど、それよりもお姉さんに食べてもらう方が嬉しいって感じ?」
「いわせんなはずかしい」
「(いよいよもって真性だなぁ)」
あと、睡眠欲、食欲、ときたら最後はあれだよな。あっちのほうも俺、姉さんに浮いた話なんて聞いたことないよ。男ができるどころか女性の友人すらあんまみたことない。家にいる時だって、“そういうこと”してる気配ないし。俺は姉さんが家空けてる時間長いからいいけど、姉さんホントどうしてんだろうな。
「タイチ、それはセクハラだ」
「いや、俺風呂でばったり遭遇とかそういうレベルですらやったことないし。せいぜい珍しい寝顔を見ちゃったことがあるくらいで」
「(なんかどんどんタイチの発言が危なくなってる気がするなぁ)」
「いやほら、姉さん全然寝ないって言ったろ。鬼の霍乱ってやつ? ああいや姉さんが鬼ってわけじゃなくてな。いやそりゃたしかに怒ると鬼って言うか超怖いけどそういうことじゃなくて。ああ、で、それなのに寝てるから珍しくてつい見ちゃっただけなんだってば。別にやましいことはなにもしてない」
「……僕何も言ってないけどなんでそんな慌ててるの。怪しいんだけど」
「違う、俺は何もやってない! 無実だ!」
「(……え、まじでなんかやったの。こわいんだけど。義理とはいえ姉の寝込み襲うとかないわー)」
「聞こえてるぞ! 違う、そんなやましい気持ちはなかった! 俺はただやわらかそうなほっぺただなって思っただけで」
「……生々しいのやめて。わかったから信じるから、だから落ち着け!」
前回に続き弟君の話でした。内容はミオさんのことがほとんだだけど。次回も弟君視点、そのあと数話ほのぼの話挟んでPK編かな。PK編は重いというか、描写が15禁ギリギリな感じなので閲覧注意かも。




