029 お仕置きの時間再び
GM「あなたは他人に振り回されるのがとても嫌いです。誰かのために動くことを良しとしても、誰かに動かされることを良しとしません。それにはあなたの過去が関係していますが」
ミオ「人の過去を勝手に覗くな」
GM「……苦労されてますね」
ミオ「ほっとけ」
ジェードとオニキスの死闘は実に2時間に及び、双方のHPは既に2割を切っていた。もっとも、互いに本気の殺意は抱いていない。当初は痛い目を見せて自らがミオによりふさわしいのだと主張するための戦いであったが、戦いを続けるうちに互いが互いに実力を認めつつあった。命までとらずとも、戦闘不能に追い込む程度で止めようとは考えていた。
そして、双方が次の一撃で勝負が決まると確信した瞬間。
「で、これはどういうことかなー?」
突然横合いからかけられた声に、いままさに決着をつけようとしていたオニキスとジェードの動きが固まる。
両者ともに壊れたゼンマイ人形のようにガタガタと声のした方へと首を向ける。
そこにいたのはもちろん彼らの主人であるミオ。いつもと違うところをあげるとすれば、貼り付けたような笑顔でにっこりと微笑んでいることだろうか。
『ま、マスター、どうしてここに……』
『そ、そうである。昼寝をしていたのでは……』
「うん、それはもちろん君たちを探しにきたんだよ、ジェード君。そしてそうだよ、わたしはぐっすり気持ちよくお昼寝してたの、オニキス」
ミオの笑顔にジェードは経験から、オニキスは本能から、それぞれ命の危機を感じ取った。笑顔に色があるなら真っ黒である昏い微笑み。
「ところでさ、二人とも。問題です。わたしが今どんな気持ちかわかる?」
『『お、怒っていらっしゃいますか……?』』
綺麗にユニゾンした二人の答えに満足そうにうなずくミオ。ついにここで目から笑いが消えた。
「うんうん、正解。わたしはいまとっても怒っています。賢い子は嫌いじゃないよ。さて、では次の問題。なんで君たちはわたしが怒っていることがわかったのかな?」
その言葉に即答を返せない二人。たしかに、先ほどの質問をするまでミオは笑っていたはずだ。街であの笑顔を振りまけば男女問わず見とれずにはいられないような、極上の微笑みだった。
ではなぜ自分たちはあの笑顔に底知れない昏さを感じ取ったのか。
「わからないかー、残念。まぁわたしもさっき起きてからヘルプで調べたんだけどね。どうやら魔物使いとその魔物には目に見えないつながりができるみたいでね。そこから感情とか意思が流れ込むんだってさ」
正確にはスキル、《魔物使いの心得》のレベルアップによって得られる効果である。レベルが上がれば上がるほど、主人と魔物の双方のリンクが強くなる。カンストさせるほどのレベルになれば身体の一体化すら可能になる。
その言葉にジェードがハッと気づく。
「ジェード君はわかったかな。偉い偉い。あとでなでなでしてあげよう。オニキスはあとでお勉強だねー」
この状況この笑顔で言われれば“なでなで”と“お勉強”が何かの隠語にしか聞こえないと思う二人。
「喋らなかったあの頃のジェード君の気持ちが最初は分からなかったのに、途中から以心伝心できるようになったのもこの効果だったんだよ」
うんうん、とうなずくミオ。二人は石像のように固まったまま主人の言葉を待つ。空気が次第に剣呑になっていくのを感じつつも動くことはできない。
「宿屋で寝てたらねー。頭の中でずったんばったん誰かが喧嘩し始めたんだよねー。そだね、安普請のマンションの隣室で住人が馬鹿騒ぎしてる感じ。あれが頭の中で起こってるの。耳をふさぐこともできない。壁ドン不可避だよね」
ミオの説明はこの世界の住人であるジェードとオニキスには分かりにくかったが、脂汗だらだらの二人はなんとなくのニュアンスで理解する。というよりは、理解しなくても、その言葉に込められた気持ちは痛いほど、苦しいほど伝わってくるのだ。魔物からの感情の流入もあれば、逆も当然ある。
「いや、安眠妨害位なら別にそんなに怒らないよ。向こうじゃわたしの家も安普請の建物だったから騒音だってひどかったし。問題はねー、自分のものじゃない感情がいっぱい入ってきて、頭の中ぐっちゃぐちゃにかき回されてる感じがしてねーすっごく気持ち悪かったの。脳みそをミキサーにかけたらあんな感じかも。ほんと辛かった。2回ほど吐いちゃったし」
いやーこの世界は排泄はないけど嘔吐はあるんだねー、なんて笑うミオの顔からついに笑顔が消える。
「で、何か言い訳ある? 知りませんでした、は認めるよ? ああ、戦闘するに足る理由がある場合も聞かせてほしいな」
血の気がサーッと引いていき、会話だけでHPが削れているような気がする二人。もちろん返答は。
『『あ、ありません』』
「そ。あともう一つ言っておくけど、わたしくだらない理由で意味もなく喧嘩する人たちって嫌いだから」
“嫌い”というその一言だけでどんな攻撃よりも心に傷を負う二人。魂まで捧げる主人に嫌われて果たして生きていくことができるのか。答えは否だ。二人とも捨てられるくらいなら躊躇なく死を選ぶだろう。
称号:魂を捧げし者、とはそういうことである。
「さて、言いたいことも言い終わったし。あとは反省会だね。とりあえず音楽でも聞いて心落ち着かせる?」
《システムロール:“戦慄の調べ”発動。“魂の隷属”により判定省略、自動成功》
「ゆっくり聞いていってね」
ジェードがかつてミオに牙を向けたのは急激なレベルアップによる高揚感、酩酊感が原因でした。今回のオニキスも封印からの解放により擬似的にステータスが10倍になったため、かなり高揚していたはずです。それが、主人であるミオに伝わり、あの空の上での疲れて寝てしまうほどのはしゃぎよう。また、それがさらにジェードにも伝わり今回の事件が発生したという裏事情。
本編で解説入れるまでもないかなと思ったのでここで説明しておきます。
これで無事オニキスも調教完了ですね。




