028 ジェードとオニキスと……
GM「あなたはついに人型になった仲間を見て、ようやくメインストーリークエストに挑戦することを決意」
ミオ「しません」
ジェード「俺はそろそろ挑戦してもいいかとおも」
ミオ「しません」
ミオがお昼寝をはじめてしばらく。ジェードとオニキスは互いににらみ合いながらどちらからともなく宿の部屋を出た。彼らの向かった先は邪魔の入らないであろう崩壊した《久遠の彼方》。人型を解き、互いに真の姿を開放する。
『俺はもともとマスターがお前を助けるのには反対だったんだ。助けてもらった後も偉そうな態度しやがってよ。少しはマスターに敬意ってもんを見せたらどうなんだ』
『クククッ、スライムがよく吼える。貴様のような単細胞には我の、我が主に向ける敬愛の念を些かも理解できぬだろうよ。我は既に我が主の魂の本質を識り、敬服している。なればこそ、この魂を捧げているのだ』
『はっ、俺が気に入らねえのはそういうとこだよ。マスターのことを何でも知ってるみたいな気でいやがって』
1か月の間毎日顔を合わせていた二人だが、その場には常にミオがいたために互いに対して強い感情を向けることはなかった。しかしいま、リミッターたる二人の主人がいないことで、互いが互いに抱く気持ちがぶつかり合う。そのまま彼らの口論は続き、ついにオニキスが実力行使に出た。
しかしまぁ、正直なところ、彼らの内心はただの嫉妬とかやっかみとかそういった類の感情である。問題は、彼らがありあまる巨大な力を持ってしまっていることだろう。
『口で言って分からないなら実力でわからせるしかないであるな』
『望むところだ。どっちがマスターにふさわしいか思い知らせてやる』
オニキスは翼を大きく広げ風魔法を発動する。
『喰らうがよい。《暴威裂覇》』
《システムロール:“最上級風魔法”発動。固定基準値80。判定。80→61 成功》
荒れ狂う暴風がジェードを襲う。
しかし、その中でジェードは涼しい顔をしている。オニキスの視界ではジェードのHPバーにも変化はない。オニキスは初手を失敗したと感じた。
(む……回避をしていないのにHPにダメージなしであるか……。ということは風魔法を無効か防御できるスキルを持っているか……。スライムごときが生意気な。緑色なのは風属性を持っているためであるか?)
魔法は効果が薄いと見て、オニキスは物理主体の攻撃に切り替える。今度はジェードも回避を行い、回避しきれなかった攻撃がジェードのHPを削っていく。
だが、これもジェードの作戦通りであった。
(ふっ、まんまと罠にかかったな鳥頭。俺の弱点の魔法を使わなくなった)
ジェードは物理完全耐性のスキルを持つが、魔法への耐性は低い。よってオニキスが魔法を乱射すればすぐに決着はついたはずであった。しかし、ジェードは初手の魔法をあえてさけないことと、スキル《擬態》で自身のHPの減少を偽装することで見事にオニキスを思考誘導して見せた。実際にはダメージが少ない物理攻撃をおおげさに喰らうことで戦況を有利に持っていく。
無論、初手の様子見はオニキスが得意とする風魔法の、それも威力ではなく範囲に重点を置いたものを使ってくることはジェードの予想していたところである。
なお、物理完全耐性はすべての物理ダメージを固定値で受け、そののちにダイスロールで無効化判定を行うスキルであるため、すべてをノーダメージにはできない。完全というのは、特殊な物理攻撃にも対応しているという意味での完全である。
(しかしさすがはレベル200オーバーの高位生命体。風魔法の直撃だけでHPを半分以上持ってかれた。まともにやりあえば勝てない。――だがまぁ、まともにやりあえば、だが)
空の王たるハイグリフォンであるオニキスとは比べるまでもない程格下に存在するスライムであるジェード。しかし、彼もまたデモンスライムへと進化しており、多彩なスキルを用いることでどうにか互角の戦いを演じていた。
そしてついにはオニキスのHPが半分を割り込み、いまだHPが7割はあるジェードに対し焦りが生まれる。実際にはジェードのHPは残り2割ほどであり、依然としてオニキスが優勢なのだが、《擬態》によって情報を偽装されているためにオニキスは気づけない。
戦闘中のダイスロールは自分の視界にのみ表示され、相手には見えない。この世界のそういった細かい仕様もうまく利用し、ジェードはオニキスを追い詰めていく。
STRがないジェードの唯一の攻撃方法、スキル《吸収》による相手のHP吸収攻撃がステータスの対抗ロールではなく固定基準値のスキルであったこともオニキスには不利に働いた。高ステータスのオニキスが最も苦手とする相手――ステータスの対抗ロールを行わない相手、その代表格がまさにデモンスライムである。
なにせ、デモンスライムはステータスがHP以外すべて存在しない。
つまり、実力差こそ明確なれど、ジェードはオニキスの天敵たりえる能力をもっていると言える。
戦闘はさらに激しさを増し、周囲の地形は元の形の見る影もない。既にHPはお互いにレッドゾーンへと突入し、次の一撃で勝負が決まると両者が確信する。
そんな、どちらが勝ってもおかしくない緊迫のクライマックスで、その声は昏く響いた。
「で、これはどういうことかなー?」
次回予告:怒りのミオさん




