142 魂の回廊で
GM「ずっとジェードさんと謎の人が会話するだけの話なんですけど、大丈夫なんでしょうか」
ミオ「心配してもしょうがない」
ふわふわと、ゆらゆらと、漂っている。
暖かい液体に包まれているような。
どれくらいそうしていたかはわからない。
周囲に意識が拡散していく。
同時に疑問が浮かび上がる。
ずっと、考えていること。
ここは、どこだ?
俺は……だれだ?
わからない、わからない。
俺はあいつだけど、あいつは俺じゃなくて。
俺は一体、――。
「そこらへんでやめときなよ」
唐突に響いた声に驚いて、思考がとまる。
しかし、声の主を探そうとしたが、そもそもここがどこなのかすらわからない。視界もなく、体に感覚もない。意識だけが漂っているような、そんな状況。
「深く考えない方がいいのよ。ここのことも、あなた自身のことも。時には何も考えずに行動した方がうまくいくってものよ」
あの――あなたは?
「私は……うーん、そうねぇ。迷える子羊ちゃんを助けに来た、可愛くて優しくて頭もいい完璧美少女妖精とかでどう?」
とかでどうって言われても……。
「あはは。冗談よ、ジョーダン。そうね、私のことはサティーとでも呼んで。あなたのお名前は?」
俺は……俺の名前は……。
「あらら、まだ迷ってるの? 仕方ないわねぇ」
俺は、マスターに……マスターの為だけの……。
「えいっ」
可愛らしい声と共に、意識にヒビが入る衝撃。頭の中を攪拌されているような気持ち悪さに襲われる。
「ほら、落ち着きなさい。頭の中空っぽにして。世話が焼けるわねぇ」
う……ぐ……。い……今のは……?
「んー、あなたの魂の核をちょっと蹴っ飛ばしたのよ」
声の主――サティーとやらは、なんでもないような口ぶりでさらっととんでもないことを口にした。
魂の核――魔物の中でも身体という概念が薄く、活動を精神に依存しているスライムだからこそ、俺には分かる。彼女が言ったことは本当であり、俺は今魂の核を的確に蹴られたのだと。
同時に深く恐怖する。普通は触れることができないそれを蹴飛ばすなど、一歩間違えば魂が粉々になって生が終わる。この声の主は、何者なのか――。
「本当は声をかけるつもりもなかったんだけどね。あなたがあんまりにも不甲斐ないものだからつい」
ここは、どこなんだ?
「その質問に答える前に、あなたが私の質問に答えてないわよ。あなたのお名前は?」
俺は――。
瞬間、ぞっとする感覚が全身を通り抜けた。声の主の姿は見えないが、いらだっているのが分かる。俺が自分の名前を言いよどむことに対してだろうが、あまりにも沸点が低すぎる!
次の瞬間には自分の魂が粉々に蹴り砕かれる様子を幻視した。
ジェードだ! 俺の名前はジェードという!
「それでいいのよ。さっさと認めなさい」
本当に、なにがしたいんだこいつは……。
「それで、ここがどこだか、だったわね。ここに名前なんてないわ。機能で言うなら、そうね。“魂の回廊”とでも呼ぶべきかしら。ここはあなたとあなたのご主人様の魂がつながっている場所よ」
俺と、マスターの?
「そう。あなたが自我を崩壊させちゃったから、魂がご主人様に引っ張られたのね。ここはあの子の魂の随分深い位置に繋がる回廊よ」
なぜそんな事を知っている?
お前は一体何者なんだ?
「だからわたしは可愛くて優しくて頭もいい完璧美少女妖精サティーちゃんよ」
真面目に――!
「もう、つれないわね。どうせ私が何者か、なんて答えたところで疑うでしょ、あなた」
それはそうだ。言われたことを鵜呑みにするわけがない。ここが魂の回廊、というのは感覚的に正しいかもしれないと思ってはいるが、それでもまだ疑っているぞ。
「まったく、なんでそんなに私に噛みついてくるのかしら」
お前がそうさせているんだろう。それに、ここが仮にマスターと俺の魂の回廊だというならば、そこにいるお前は本当になんなんだ。場合によっては俺が全力で排除する。
「ふう。あなた本当にあの子のことが好きなのねぇ」
当然だ。魂を捧げた俺の主だ。俺はマスターのために存在し、生きている。
「なによ。答えはもう持ってるんじゃない。それでいいのよ、それで」
は? 何を言って――。
「分かったんなら帰りなさい。あなたのご主人様も随分心配してるわよ。また今度遊びにおいで。今度はお茶くらいだしてあげるわ」
おい、ちょっと待て――。
ぐん、と体が、否、魂が引っ張られる感覚。ここが魂の回廊だというのなら、これは俺の魂の方向に引っ張られている。さっきまですぐ近くに感じていたマスターの気配がどんどんと遠ざかっていく。
そうして唐突に目が覚めた。
「あ、おはようジェード君。やっと目が覚めた?」
こちらをのぞき込んでいたのは幼い少女。いまだによくわからない、それでいて魂を捧げるに足る俺の主。俺の生きる理由。俺という存在の根幹。
「結構心配したんだよ。もう大丈夫かな?」
「ええ、すみません。むしろ以前より調子がいいくらいで」
嘘ではない。意識が覚醒してからというもの、頭の中の靄が晴れたように感じる。どころか、力そのものも随分とみなぎっている気がする。
「まぁ、とりあえず、おかえり。ジェード君」
「はい、ただいま戻りました。マスター」
お久しぶりです。
なんだか難産でした。内容もぺらっぺらなのにどうしてだろう。
次はダンジョンの中、攻略始めます。まずはミオさんの指導という名の実力見せつけですかね。




