013 魔物という存在
GM「あなたは一日の森の探索を終え、日常へと戻ってきました。ようやく来た“ほのぼの”タグを活かすときです」
ミオ「それには快く頷きます」
GM「そしてそのままストーリークエストを」
ミオ「やりません」
お店を出てもとげとげしい視線は続いた。
結論から言えば、とげとげしい視線の原因はジェード君だった。
街の中に魔物を連れ込むんじゃないと、そういうことだった。確かに、現実でも犬や猫を連れて飲食店に入るのはマナー違反だよなぁ。ゲーム世界だと思って油断した。これは完全にわたしの手落ちなので反省。
「ごめんね、ジェード君。嫌な思いさせちゃったね」
ジェード君は首を横に振るようにふるふると震えたけど、わたしの気持ちは沈んだままだ。昨日のことはあのあとの“お話”でもう済んだことになってるから、今朝のことはちゃんと詫びるべき。
よし、じゃあ、ジェード君にご飯をいっぱい食べてもらおう!
お詫びにお食事に誘うってのは定番だよね。……ここじゃあ狩りになっちゃうけども。
え、いま食べたばっかりだって? 細かいことは気にしちゃダメ。
そう提案するとジェード君は喜んで飛び跳ねてくれた。いま体積はわたしの半分くらいはあるから結構な絵面ではある。20キロぐらいの緑色のグミが飛び跳ねてると思ってくれれば。
さて、その後は昨日のようにラピッドラビットを狩りながらわたしはずっと、今朝のことを考えていた。
魔物とはなんなのか。
わたしにとってジェード君は犬や猫のようなペット、ではない。実際にある程度以上の意志の疎通が可能でペットというよりは人間の友人といった感じだ。言うことを聞く良く馴れた犬を飼い主が“家族”と表現する、あんな感じだろうか。
なら、昨日食べられかけたことはどう処理するのか。人間の友人は捕食なんてしないじゃないか。
これについては、わたしはあの行為を捕食というより、男女間のいわゆる“襲う”という行為に置き換えれば、まぁ、なんとか気持ちの整理はついた。ちょっとこう、ムラッときて、襲ってみたけど、返り討ちにあって、お説教。ちょっとぎくしゃくしたけど、そのことはなかったことにして、今まで通り友人関係は続けて行こう、みたいな。まージェード君は性別とかないから無理があるっちゃあるんだけど。そんな感じで。
まー、わたしも実際にはそういう経験ないし、どころかお付き合いしたことすらなかったし、どころか学校すら行ってなくてそもそも出会いがなかったし、と完全にただの想像なんだけども。
では、今狩っているラピッドラビットや他の魔物についてはどうなのか。
これについてが、現状一番の疑問だ。多分、魔物使いとして《隷属の調べ》を使ってジェード君のように仲間にしてしまえば親愛の情も湧くんだろうけど、いまはまったくそんなことを思わない。殺すことに……いや、ゲーム内だから倒すことに、かな。倒すことにまったく罪悪感とかが湧かない。たとえ見た目が人型の魔物であるゴブリンや可愛い小動物の姿をした魔物を倒しても何も感じることはない。
これが、ゲームだからそう思っているのか。自分で自分のことがよくわからなくなる。現実でも馴染みのある姿をした魔物より明らかに人間と一線を画するスライムのジェード君のほうが親しみを覚えるのだ。
そう、親しみといえばさっきの食堂にいたほかのプレイヤーたち。あるいは街ですれ違いじろじろと不躾な視線を送ってくれた人たち。わたしは彼らに対して同じプレイヤーであるという以上の感情を抱いていない。魔物とプレイヤーが並んで倒れていて、どちらかしか助けられないなら同郷のよしみでプレイヤーを助けるかもしれない。でも、もし倒れている魔物がジェード君の知り合いだというならば、わたしはきっと魔物の方を助けると思う。
これは、正常な思考なんだろうか。わたしは、ゲームの中という異常な環境のあまりに狂って来てはないだろうか。
こうやって自分の思考について考え始めると、自分のことが信用できない。不安になる。
ふるふるふるふる。
ジェード君がわたしの足元にすり寄ってきた。ああ、気づけばもう夜か。
「ごめんね、ジェード君。ありがと。元気出た気がする」
何やら難しい顔をして悩んでいるわたしを慰めてくれたらしいジェード君に礼を言い、今日の成果――経験値を使ってジェード君をレベルアップする。
ジェード君のレベルが15から40まで上がった。おー……キングラピッドラビットってのを何体か倒したけど、あれのせいかなぁ。怖いくらい上がってる。私のスキルも結構上がった感じ。ま、今日はもう帰ろうか。
この日はレベルアップ後にジェード君に襲われなかった。学習してくれたようでなにより。
次回予告:はじめてのおつかい




