104 演奏会
GM「ずいぶん時間があいてしまいましたね」
ミオ「言い訳と謝罪は後書きで」
「ねぇ、レヴィア。ほんとにここで演奏するの?」
「くふ。そう照れずともよいて。ぬしならきっと素晴らしい舞台になるでありんす。わっちの目に狂いはありんせん」
「んー、期待されるのは嬉しいんだけど……」
レヴィアに会ったその日の夜にはとても大規模な宴席が用意されていた。見渡す限り人人人。魚人族も多いから見た目は非日常的。宮殿の大広間みたいなところにわっさわっさと人がいるんだけど、わたしが演奏するのはその広間のどこからでも見える一段高いところに設えられた特設ステージ。
なんかこう、大々的に場を作られるとすごく緊張するんだけど。わたし別に音楽やってるとかでもなんでもないんだよ。ハーモニカ吹いたの……というより楽器に触ったのがWCきて初めてだったくらいだもの。
「くふ。緊張するのであればわっちが魔法をかけてやろうかの」
「そんな便利な魔法があるの?」
「精神操作系の魔法は禁術でありんすよ。そうではなく」
レヴィアが何かぶつぶつと唱えると、空中に光の幕が現れた。円形になっているから幕って言うより筒?
会場のざわめきが小さくなり、その光の幕に注目が集まる。レヴィアはここの王様だから彼女が魔法を使うだけでみんなが注目するんだね。わたしだったら一挙手一投足をみられるのはあまりいいものじゃないと思っちゃうけど。
とと、幕が下りてきてわたしをすっぽりと包んだけど……これ、大丈夫だよね。
光が眩しくて目を閉じる。どれくらい経ったか、光は徐々におさまり視界が戻ってくる。
「わぁ……ご主人様、綺麗です……」
「ぐ……いいセンスしてますね、水底の王は。マスターの魅力をここまで引き出すとは……」
「むぅ、いささか扇情的すぎやしまいか」
「水着ベースだからああなるのだろう。……お前、意外と純情だよな」
「う、うるさいであるよこのむっつりすけべえ」
「な、誰が!」
「ずっと我が主の水着姿に見惚れていたではないか!」
「まぁまぁお二人とも、お静かに」
なんかジェード君たちが喧嘩してるけど、そんな喧騒も気にならない。それくらい驚いた。いつの間にかわたしの着ていた服が変わっている。
高級そうな生地に綺麗な刺繍。さりげなく飾られた宝石はどれも一級品。わたしの着ていた水着はまるで童話に出てくるお姫様か、それこそ歌姫のような装いに変わっていた。
「こういう舞台に上がるときは衣装から自分を騙して心を落ち着かせるのがよいでありんす。いつもと違うことを意識することで得られる平常心といったところかの。驚いたかや?」
「あ、うん、驚いたんだけど、それよりレヴィア、今のって」
「く、ふふ。あれに気づくでありんすか。やはりぬしは面白い。人でありながらあの女神の制約を受けておらぬとは」
「うん?」
「なに、こっちの話よ……それよりほれ、みなは今か今かと待ち構えているでありんすよ」
その言葉に視線を向けると、なんだか熱狂している海人族の人たち。これって、レヴィアの魔法に興奮しているのかな。
「(ふうむ……自分の魅力に気づいていないのかや?)」
「何か言った?」
「いや、何も。そんなことより、わっちも早くミオの音楽を聴いてみたいでありんすよ」
……まぁいっか。別に演奏が下手でも殺されはしないだろうし。
わたしはわくわくした瞳のレヴィアにそうせがまれて、演奏をすることにした。せっかく舞台と衣装までそろえてももらったしね。
曲目は特になし。その場その場で即興の音を奏でるだけ。
こんなのでみんなが満足してくれるといいんだけど。
※ ※ ※
「おい、ジェードとやら」
「なんですか、水底の王」
主の演奏に聞き惚れていたジェードの横に、するりとレヴィアがすべりこむ。周囲には幾人かの海人族もいるが、気づいた気配はない。大した隠密術であった。
「いやはや、ぬしの主の演奏は素晴らしきものであるの。わっちは大層感動しているでありんす」
「お世辞でもあなたほどの者にそう言ってもらえればマスターも嬉しいでしょう」
「いや、世辞ではない。この海の底でこれほどのものが聴けるとは思わんかった。みよ、我が同胞らも魂すら抜かれそうなほど酔いしれておる」
レヴィアはあたりを見回す。彼女の言葉通り、あたりには放心している海人族が大勢いる。中には涙を流しているものさえ。真実、ミオの演奏は心を揺さぶるものだった。それは、スキルとして《隷属の調べ》や《戦慄の調べ》など、対象の心に働きかける音を奏で続けた結果だろうか。彼女は既にスキルに頼らずともそのレベルの音を奏でることができた。
「そも、ぬしらは海人族という者らの生態を知っておるかや?」
「人族の文献に載っている程度なら。人族はこの海にあまり近づきたがりはしませんから、ほとんど情報はないようなものですが」
「まぁ、そうであろうの。他種族との交流はわっちも頭を悩ませている事案でありんす」
海と陸の交流は想像よりもはるかに難しい。しかもこの海の底には貨幣という概念が存在していなかった。正確には、知ってはいても必要性を感じていない、というべきか。加えて、近年は別の問題も浮上していた。強大な力を持つ海竜王とて手を出しにくいことはある。
「彼ら海人族には別に海中で過ごさねばならぬという制約はありんせん。半分が人族であることからも分かる通り、彼らはあくまでも海中での生活にも適応した人族。であるからこうして海底に空気をとどめた空間すら用意することが必要でありんす」
「空気もなければ生きられないと?」
「一月ほどは大丈夫であろうがの。ともかくこの、空気中と水中、二つの空間があることでここでの音楽は廃れていったのでありんす。ぬしらにはいまいち分からぬやもしれぬが、その二つの空間では音の伝わり方も聞こえ方も異なるからして」
「なんとなくは分かりますよ。加えるなら海の底では楽器の作成に使える材料も限られているといったところですか」
「であるの。だから長らくこの海の底では音楽というものが流行ったことはありんせん。ところが、ぬしの主。ミオの音楽はわっちらの常識をひっくり返したのでありんす」
ジェードは少しだけ考え込み、正解に思い当たる。
《調べ》系統のスキルならば通常の音楽とは異なり、物理的な制約を受けない。これはハーモニカで奏でられる程度の音が一キロ以上も離れて届くことからすでに確認していることだ。そしてミオの奏でる音色はスキルに近い。こうして聴衆の心を簡単に揺さぶっているのが何よりの証左。ならばミオのこの音楽は海の底で初めての、「環境に左右されない音楽」ということになるのだろう。それはきっと単に音が変わらないというだけでなく、その偉業を成し遂げたという事実が重要なのだ。
「(そういえばそもそもの発端もマスターの音楽が海辺からこの海の底まで届いていたことだったのだろうな)」
ミオの独演は続く。聴衆は物音ひとつ立てずに聴き入っている。
きっとこの演奏会は夜を徹するだろう。主の性情を知っているジェードはそう確信する。ミオは他人の役に立つためなら自身の疲労など度外視することが多々ある。ならば恨まれるとしても止めるのは自分の役目だろう。
ふと隣を見れば完全に寝入っているオニキスとハウライト。反対には心底楽しそうに聞き惚れているレヴィアタン。
本当に、マスターの傍にいると退屈しないなと、ジェードは独り言ちた。
お久しぶりです。実に2週間ぶりの投稿です。
更新が滞り、また報告もできず済みませんでした。
実は前話投稿後に体調を崩しまして、病院に行きました。診察→レントゲン→採血と流れるように進み、そのままなんと4時間以上も点滴を打たれるという事態に発展しました。急性出血性直腸潰瘍だそうです。いままでの人生で一度も入院したことがない健康体というのが密かな誇りだったんですが。人生何が起こるかわかりませんね。
今は無事に体調も回復しました。更新も元通り進めることができそうです。
むしろ病院のベッドでこの先の展開はほぼ頭の中で考えたのであとはダイスを振るだけなんです。頑張るぞー。




