102 海に入ろう
GM「ジェードとオニキス、ハウライトは泳げないそうですが、あなたはどうなんです?」
ミオ「泳げると思う?」
GM「割と何でもできそうなイメージがありますが」
ミオ「運動はからっきしだよ。あと泳いだことはないよ」
のんびりしたい、という望みは叶ってる。海辺で一日中音楽を奏でるというのは、この世界に来てから40日間引きこもったあの生活に似てる。ジェード君たちも思い思いに過ごしているようでなにより。
問題が起きたのはこの海に来てから3日目の朝、つまり今。
「人族の娘よ。我らが王が会いたいと仰せられている。共に来てもらえぬだろうか」
海からひょこっと顔を出している人がそう言った。
人間と魚を足して2で割ったような外見をしている。多分、男性。ジェード君によると海人族というらしい。海人族の中でも、上半身に魚の特徴が濃く表れている男性を魚人族、逆が人魚族というらしい。男性と女性で特徴が表れる部分が違うんだね。
「ええと、あなたは?」
「あいや、これは失礼仕った。何分我らが王より命を受けるなど数百年ぶりの事であるが故、焦ってしまい申した」
魚人族の彼は砂浜まで歩いてきて、膝をついた。確かにヒレじゃなくて2本足なんだね。こらこらジェード君、そんなに警戒しなくていいから。
「我が名はウィル。海竜王様に仕える深海騎士団団長を務めさせてもらっている。このたびは我らが王よりあなたをお連れするようにと下命を賜り申した。どうかともに来ては頂けぬだろうか」
その言葉にジェード君とオニキスの表情が硬くなる。どういうことか、テレパシーで聞いてみると、
『まずいであるよ、我が主。海竜王といえば海において絶対的な力を持つ存在、竜とは言うものの、半ば神になりつつある者であるよ』
『マスター、気づいていますか。あの魚人族の男、お道化ていますが周囲への気の配り方が異常だ。相当の手練れでしょう。……それに、複数の気配が散開している。囲まれつつありますよ』
ふうん。
「いいよ」
「っ、マスター!?」
「いーのいーの。なんか浦島太郎っぽくて面白いじゃない。せっかくなんだから海にも入ってみたいしね。この人が護衛してくれるって言うなら願ったりかなったりじゃない?」
「……ああもう、何といったらよいか……」
「諦めるであるよ、ジェード。我らは我が主に従いて行くだけである」
「わわわ、う、海の中に入るんですか?」
「あなたの決断を我らが王はお喜びになるだろう。王の元へはこちらに乗り物を用意させていただいた。そちらの3人も良ければ招待すると、我らが王は仰せだ」
ウィルさんが合図すると海中から大きな馬車が現れた。いや、繋いであるのは馬じゃなくて《キングシーサーペント・レベル620》2匹だから馬車とは言わないかも。
……レベル620かぁ。なんかすごすぎて麻痺してるや。さっきこっそりスキル《神眼》でウィルさんのレベル見たら783だったんだよね。オニキスとハウ君のレベル足しても届かないよ。
「これに乗ればいいの?」
「そうだ。安全性は保障する。このまま我らが王の元へと向かい、謁見してもらうことになるだろう」
「王様はなんでわたしを呼んだのかな?」
「済まぬが、断言はできぬ。予想は立てられるのだが、それは我らが王に直接尋ねてもらうとよいだろう」
「はーい」
そうして、馬車(でいいやもう)に乗り込む。ジェード君はどこか絶望的な表情で、オニキスは開き直ったように堂々と、ハウ君はわくわくしながら。
馬車の扉が閉まり、海中へと潜っていく。
どうやら、この馬車は一つの大きな魔道具のようで、水が入ってきたりはしない。どころか空気が循環しているようですらある。どんな仕組みなんだろう。
「うわぁ、見てくださいよご主人様」
「わぁ、綺麗だねぇ」
実際の海どころか水族館というものに行ったことすらないわたしにとって、魚と言えばスーパーで売られている切り身のものだったりするんだけど、今眼前に広がる光景には生きた魚がこれでもかと泳いでいた。
幻想的な光景に感動を覚えつつ、魚をよく見ると名前とレベルが表示される。つまり、この魚も全部魔物なのか。
レベルは海面付近のものはレベル10、潜っていくにつれて段々とレベルが上がり、今は100を超えた。
「あれ、すぐに暗くなっちゃいましたね」
「陽の光がこの深さまで届かぬのであろう。つまりここからが真の《東の海》であるよ」
オニキスの言葉通り、どんどんとレベルが上がっていく。そしてあたりの魔物のレベルが400を超えたころ、馬車が停止した。
そういえばここ、かなりの深海だろうから馬車から出たら一瞬で潰れそう。
って、水圧で馬車も潰れていないし、なんらかの魔法的な防御がかかってるって考えた方がいいよね。
「ようこそ、我らが王の都へ。歓迎しよう、客人方」
「あ、ありがとうございます」
馬車からは人が5人は入れるような大きな気泡がいくつも連なって、道のように伸びていた。その道を辿ると、何人かの魚人族の人と人魚族の人が出迎えてくれた。
けど、なによりも目を引くのは幻想的に美しい町並み。材質は貝や珊瑚かな。深海にあるはずなのに光も差している。あれは、魔導灯?
「すごいですね、ご主人様!」
「うん……とんでもないところに来ちゃったみたい……」
さて、海の底で待っている王様とは。




