第三話 楽しいピクニックのはずでした
ピクニックに行くことに決まった。山向こうの山荘で一泊して帰ってくる、という簡単な行程だ。
僕の親は平民で、猟もしていた。親と頻繁に山へ入っていたが、そのとき親が幼少の僕に口を酸っぱくして言っていたことがあった。
「山じゃ、準備しすぎて死ぬことはない。準備が足りなくて死ぬことはある」
僕はその言葉に従って準備をした。
一番の懸念は道迷いだ。予定どおり帰れず、山でビバークすることになった場合を考えておく。
僕には創造魔法がある。何度か試したが、小さな家なら建てられるし、三日ほど持つことも確認済みだ。
それに火も、小さなものなら魔法で起こせるし、その火を魔石にうつし、暖房代わりに使えることも確認済みだ。
食料は魔法では作ることができないので、冒険者向けの保存食をとりあえず一週間分持っていく。
また油紙に包んだ替えの服を持っていくことにした。
毛布もと思ったが、これは魔法で作れたので、持っていかなかった。
などと準備していたら、大荷物になってしまったのはご愛敬。
貴族の一人があきれたように、
「おまえ、どこ行くつもりだ?」
と聞いてきた。
「皆様と同じところです」
「そんな大荷物になるなんて、平民は変なのだな」
「心配性なのです。無駄になるなら一番です」
変なことをいうやつだ、という顔をして離れていった。
貴族の皆さんにはお付きの人がいる。引率も合わせて約五十名から六十名の大所帯になった。
そして、みんな軽装だった。
その日の朝は曇りだった。涼しくて歩きやすかったが、お昼を待たずに雨が降り始め、風も強くなってきた。
引率の先生方が引き返すかどうかの話をしていた。
「この時期の雨はすぐに止む」とか、
「しかし、引き返した方がいい」とかの話をしていた。
横から王族とその取り巻きが口をはさむ。
「せめて昼食をとる場所まで行こう。そしたら下るだけだ」
とか、
「こんなことで中止にしたら、私の沽券にかかわる」
とか、そんなことを言っていた。
八甲田山じゃないんだからと思ったが、建前上は王族も先生の指示に従わないといけない。だが、面と向かって逆らえるやつなんぞいない。
死亡フラグ満載の言葉で進むことになった。
「どーかんがえても、遭難フラグです。本当にありがとうございます」
とかいうスラングまで口に出かかったが、平民の僕になにかをいう権利なんぞあるわけもない。
黙ってついていった。
雨の中、昼食をとり、再び歩き始めるが、雨が強くなり、また風も強くなってきた。隊列から遅れる者がちょくちょく出始める。
「とまれ。小休止」
と先生がいう。
小休止ではなく遅れた生徒を待つためのものだが、これがまずかった。動かないため、風が否応なしに体温を奪う。そして歩き出すと、また止まる。
行列から一人、二人と落伍する。
止まる。
合流して動き出す。
また落伍する。
という、あまりうれしくない状態になっている。
最初のうちはあっちこっちから呼ぶ声が聞こえていたが、雨風が強くなり、その声もかき消されている。視界も十数メートル先が見えるかどうかになっていた。
そのうち、ぽつぽつと動けなくなる者が出始めた。付き人がおぶっていたり、肩を貸したりしていた。
僕は空を見た。
「こういうのを爆弾低気圧とか言ってたっけな。こりゃ死人出るぞ」
などと余裕なことを思っているが、ぶっちゃけ僕もかなり危ない。
手がガタガタと震えてるので、意図的に手を開いたり結んだりしているが、風と雨が容赦なく体温を奪い去る。考えるのがだんだん億劫になってきた。
「気をつけろ。考えられなくなってきたらかなりまずいから、一刻も早く体をあっためろ」
とは親父殿の教えだ。
雨と風はますます強くなり、それに比例して隊列は乱れに乱れている。そして、日が落ちる間際に、僕たちは完全に離れ離れになってしまった。
もうこれは完全な遭難だ。
前世だったらこれでドキュメンタリーが一本作れてしまう。下手をすれば映画化まである。それほど酷い状況だ。
僕は暗くなる直前、なんとか「家」を建てられそうな場所を見つけることに成功した。せいぜい二部屋くらいの広さだったが、基礎の長さをなんとか調節すれば設置はできそうだ。
寒さで頭が回らなくなっているが、手足を動かして強引に魔法を発動し、なんとか家を建てた。
そして、その家に転がるように入ると、魔石を囲炉裏に入れ、火をつける。
水で重くなった衣服をなんとか脱ぐと、背負い袋の中にある、油紙で包んだ予備の洋服に袖を通した。
なんとか一息つく。
創造魔法で毛布を大量に作成し、それに包まったあと、水袋からコップに水を注ぎ、それを沸かす。しばらくすると、湯気が立ちはじめた。それを少しずつ飲んだ。
ようやく震えが収まってきた。
しばらくすると、部屋がいい感じに温まってきた。家を作るときに、壁を二重にしたのがよかったのか、温まりが早い。
とりあえず濡れた衣服をつるし、濡れた背負い袋を絞り、あとはベッドを作って寝ることにしようとした。
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