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第二話 前途多難な学園生活

 前途多難な学園生活が始まった。


「学生の本分は勉強である」


 というのは建前の話。ここで一番やらなければいけないことは、人脈づくりである。

 

 僕みたいなレア魔法持ちは、どこからでも引っ張りだこ、というわけではないが、それなりに就職口はあるらしい。

 ただ、変なところに行って使い潰されたりするのは嫌だし、かといってどこかの大派閥に潜り込んでも、邪険に扱われて島流し、なんてこともあるわけだ。


 もちろん、親友を作ろう、とかそういう話ではない。あいつと一緒の飯を食った。あいつと一緒に宿題をした。そんな些細なことが積み重なり絆になる。

 

 そして、卒業して十年も経った頃に、

「ああ、あいつか。学園で一緒だったな」

くらいに覚えていてもらえればいい。


 僕が何か困ったとき、門前払いせずに話くらい聞いてもらえれば、それで十分である。逆に向こうが困っていれば、僕もできる範囲で手を貸す。


 そういう相手を何人か作っておけば、将来多少は生きやすくなる。そこまでは頭でわかっていた。

 だが、最初の対応を致命的に間違えたせいで、僕と皆の間には、とんでもなく厚く高い壁ができてしまったらしい。


「この壁を国境警備に使えたら、難攻不落間違いなしだぜ!」

 とかアホなことを言ってみても、状況は変わらなかった。


「はて、困ったぞ」


 悩んでも仕方ないので、とりあえず勉学に励むことにする。

 知力は荷物にはならないからね。

 

 

 幸か不幸か同じ学年に、この国の第二王子レオン・レーヴェンと、その婚約者のエリーゼ・ローレンス公爵令嬢がいた。

 彼らは生まれた時から、婚約者同士と決まっていたわけではない。

 この国の第一王子であるエドガー・レーヴェンが、他国の王女様との結婚を決めたのが三年前。

 それを受けてか、レオンとエリーゼの婚約が発表されたのが、今から二年前だった。


 エリーゼの父、アルバート・ローレンス公爵は、この国の財務の大部分を引き受けている。派閥としては三番手。ただし、上二つと比べれば規模はかなり小さいらしい。

 この婚姻は、第一王子が外を固め、第二王子が内を固める、という図式だったわけだ。

 力のバランスを考えたら、国を固めるには、隙のない布陣だ。絵を描いた人はよほど頭が回るのだろう。


 だが、半年も経つと奇妙な光景に出くわした。レオンとエリーゼの周りには、男爵令嬢であるミリア・クロフトの姿が頻繁に見られるようになった。

 いや、正確にはレオンとその取り巻きに付きまとっていた。


 

 十一月のある日。

 学園の食堂で、レオンとエリーゼ、そして彼らの取り巻き数人が昼食をとっていた。そこへミリアが近づいてきた。

「レオン様、ご一緒してもよろしいですか?」

 レオンが答えるより先に、ミリアは空いていた彼の隣の席へ向かった。それを見たエリーゼが咎める。

「ミリア様。そちらではなく、こちらへ」

 と自分の隣の席を勧めたが、ミリアは心底わからないという顔をして、

「え? どうしてですか?」

 と聞いてきた。天然なのか計算なのか。

 エリーゼがたしなめるように言う。

「未婚の令嬢が、殿方の隣にむやみに座るものではありませんわ。ましてレオン様は王族でいらっしゃいますし、婚約者もおります。余計な誤解を招きかねません」

 至極まっとうな物言いだ。だが正しさが正解にならないのがこの世の難しいところである。


 レオンがいう。

「まぁまぁ、いいじゃないか。食事くらい好きなところに座れば」

 よくないだろ。あんたが崩してどーするんだよ。

 

 ミリアが「やった」とか言って、隣に座り食事を始めた。



 こんなことが一度や二度ではなかった。何かの行事があるたびにミリアがレオンと一緒にいようとするため、エリーゼがそのたびに注意する。

 だが、王子が、

「まぁまぁ、いいじゃないか」

 と取りなす。

 そんな光景が、いつしか学園の風物詩になっていた。

 

 そして、妙な噂も耳に入り始めた。

「エリーゼ様が外国の人と話をしている」

 日によって、相手は変わっている。まぁ、公爵令嬢なんだから、外交の一環でそういう方々とも会うこともあろう、と思っていたし、事実そうだった。


 しかし、話がかなりきな臭い方向に行っている。どうやら、ただの事実に妙な意味をくっつけて回っている奴がいるらしい。


 僕は幸か不幸か、平民で変な後ろ盾がないから、あれやこれやの雑用を押し付けられていた。

 あと、先生曰く、僕には「オーラがない」らしい。よく「いるかいないかわからない」と言われていた。

 

 そして、雑用で色々と歩き回っていると、なぜか行く先々でミリア嬢がいて、そのたびにこんな話をしていた。

「エリーゼ様、最近外国の方とよくお会いになっているそうですね。あんなに何人もの外国の殿方と……何のお話をしているのでしょう?」

「レオン殿下より、外国の方と親身にお話しているみたいです」


 僕のことは、はなっから眼中になかったらしい。おかげで、よく話の内容が分かった。

 

 そんなギクシャクした学園生活も二年目になり、その年の五月。

 恒例の一泊二日のピクニックが行われることになった。


 僕の運命が大きく変わった日だった。


お読みいただきありがとうございます。

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