第一話 僕のこと
昔、レグナ王国にはこんな噂があった。
曰く「そいつに会うと、いつの間にか丸く収まる」
曰く「そいつのおかげで得になったけど、大損もした」
曰く「そいつのおかげで酷い目にあった」
当時、彼はこう呼ばれていた。
「ローレンス公爵の懐刀」
「最悪、最恐の交渉人」
そして
「悪魔から魂を買う男」
これは彼、ダニエル・リードがその名を轟かす前のお話である
◇ ◇ ◇
豪華な、というには少しさみしく、質素な、というには少し謙遜するようなパーティー会場では、優雅な音楽が流れていた。
「お前は、私の、この私の相手にふさわしくない!婚約を破棄させてもらう」
卒業を半年後にひかえた、生徒主催の秋のパーティー。その開始早々、場違いな怒号が響き渡った。
楽団の音楽が止まり、会場中の視線が一人の男に集中する。
視線の先にいたのは、この国の第二王子、レオン・レーヴェン。
淡い金髪に青い瞳。一流の彫刻師が精魂込めて彫り上げたような美男子だ。
その隣には、小柄な少女が寄り添い、レオンはその腰に腕を回している。ミリア・クロフト男爵令嬢だ。
小柄で栗色の髪に、小動物を思わせる容姿。美人というより、可愛いという言葉が先にくる。
そしてレオンが指を突きつけている先に、一人の令嬢が立っている。
エリーゼ・ローレンス公爵令嬢。
腰まで流れる金の髪に、透き通るような白い肌。水晶よりも白百合に例えるほうが似合う、文句なしの美人である。
会場が、しんと静まり返る。
皆、目の前で起こっていることを、どう受け取ればいいのかわからないのだろうか。
だが親に言われたのか、貴族の空気読みの力か、誰も何も動かない。
そして彼らは知っている。
貴族の結婚は当人同士の『好き』だけでは決まらない。それどころかしばしば当人同士の感情は無視される。
「お前が、この私の婚約者にどれほどふさわしくない女か!ミリアを茶会から追い出したり、学園でも彼女を無視し、周囲から孤立させようとしたではないか!ここに証人もいる!」
レオンは取り巻きの顔を一様に見る。
だが、彼らは、目を伏せたり、顔を背けたり、なかには露骨に距離をとってる者もいる。
エリーゼ・ローレンスの横顔をみる。
そこにあったのは、うろたえた少女のそれではなく、公爵令嬢にふさわしい凛とした眼差しだった。
(大丈夫だ。飲まれてない。これなら『ちゃんと』対処できるだろ)
そう思いながら、次の言葉を待った。
◇ ◇ ◇
僕が異世界転生したと気がついたのは、10歳くらいだったと記憶している。いや、前々から「おとなしい」「手がかからない」とはよく言われていた。
両親は普通の農民だった。普段は畑を耕し、時々山へ入る。そんな生活をしていた。
ちなみにだが僕は、6人兄弟の3番目だが、今では僕が一番年上になってしまった。
下も今は一人しかいない。
戦争などは起こっておらず、大規模な飢饉も無かったのにこれだ。
戦争なんか起こったら僕たちの命はチリよりも軽いものと扱われ、この世から吹き飛ばされるだろう。
生き抜くためには力が必要なのは明白だった。
転生特典とかいうのは無いのかと思っていたら、12歳のある日、この世界の儀式「祝福の儀」で、僕にレアな『創造魔法』と『魔力量が多い』ということがわかった。
両親はたいそう喜んでいた。なぜかといえば、そういうスキル持ちは王城に召し抱えられたり、貴族になったりできるそうな。そして両親にも結構な額のお金がはいる。
お金で囲い込むのかという意見もありそうだが、別に貴族になったからといって、両親とバラバラになる、なんてことはないし、会いに行くのも自由だ。
後で知ったのだが、これは人材を国外に出さないための処置なんだそうな。
そして僕のレア度なのだが、『創造魔法』持ちはこの国に30人ほどおり、僕と同じくらいの魔力量を持っている奴も50人くらいいるそうな。
ちなみに、創造魔法を持ち、僕と同じくらいの魔力量を持つ人も数人はいるらしい。
つまり、僕の能力はレアだけど唯一無二のものではなかったというわけだ。
それと、ちょっと残念なことに、創造魔法は『この世界にあるもの』限定だった。
試しに前世のものを出してみようとしたら、全くできなかったからだ。
だが一つ便利なもの創造できた。ウッドゴーレムだ。
大きさは成人男性の半分くらい、荷運びも子供のそれでしないし、複雑な事はは出来ない。
だが、「これを持ってついてきて」とか「この荷車をあっちまでもってて」というのはできた。それに、疲れ知らずなので、そこも重宝した。
国の援助で家庭教師が送られてきた。
俗にいう「読み書きソロバン」を教えるためだ。
その先生のもとで、3年ほど勉強した。
そして、16歳になった春。
僕は学園に入学した。
◇◇◇◇
学園に入学した。周りは貴族の子弟ばかりだったし、入学人数も20名ほどだった。
ジロジロは見られたが、この国では平民と貴族が同じ場所で学ぶ、こういうことはよく、ではないがまぁまれにあるらしい。
「平民のくせ」とか絡んできた貴族も数人いたが
「はい、国王陛下の心優しき温情により、学ばせていただくことになりました。私は平民なので、礼儀作法を知りません。お手数ですが、皆様諸先輩方々のご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします」
とか言っておいたので、まぁ表立ってなんか言われることはなくなった。
ちなみにぶちぶち言われたら、つかつかと歩み寄り、
「〇〇様。なにかご不満な点はございましたでしょうか?」
と礼をしながらいってたので、ぶちぶち言われることもなくなった。めでたしめでたし。
ちなみに、こんなことばっかりやってたので、ボッチになりました。めだてたくない、めでたくない。
前途多難な学園生活が始まった。
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