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第十三話 ダブルバインド その1

 毎年あるダンスパーティー。これは生徒が主催で進めるものだ。

 おそらく社交界でのリハーサルをここでしておけという事なのだろう。諸々の手配は生徒だけでやることになっているので、このパーティーでは大人の目や手がはいらないこと、になってる。

 ちなみに、去年は全くノータッチだった。


 だが今年は会場の外やら学園の周りやらに、やたらと馬車が目立つ。

 出席する貴族の子弟が執事や肉親と思われる人と何やら話し込んでいる場面をよく見かけた。

 

 今年の課題は、隣国から来訪した全権公使一行を迎えてのダンスパーティーだった。

 招待状から席順、料理、楽団の手配、当日の進行まで全部生徒が決める。

 

 全権公使一行役の生徒がホールの中に入り、ホスト側であるレオンが出迎える。

 レオンの型通りの歓迎の挨拶と合図とともに、最初の曲が演奏された。

 

 本来、最初の一曲は婚約者と踊るのが慣例だ。

 だがレオンは、なんの躊躇もなくミリアと踊った。

 初めの一曲を踊り終えたレオンとミリアが、離れずにエリーゼに向き合うといきなり宣言した。

「お前は、私の、この私の相手にふさわしくない!婚約を破棄させてもらう」

 

「お前が、この私の婚約者にどれほどふさわしくない女か!ミリアを茶会から追い出したり、学園でも彼女を無視し、周囲から孤立させようとしたではないか!ここに証人もいる!」

 

 レオンは取り巻きの顔を一様に見る。

 だが、彼らは、目を伏せたり、顔を背けたり、なかには露骨に距離をとってる者もいる。

 エリーゼ・ローレンスの横顔をみる。

 そこにあったのは、うろたえた少女のそれではなく、公爵令嬢にふさわしい凛とした眼差しだった。

 

 (大丈夫だ。飲まれてない。これなら『ちゃんと』対処できるだろ)

 

 エリーゼが彼らをまっすぐ見据えて言った。

 

「それは王命ですか?」

 

 レオンが二の句を告げなくなる。

「聞こえなかったようですので、もう一度聞きますね。それは王命ですか?」

「それは関係ない!この俺が婚約を破棄するというのだ」

「もう一度聞きますね。それは王命ですか?」

「なんどもいわせるな!この俺が婚約を破棄するというのだ」

「もう一度聞きますね。それは王命ですか?」


 会話がまったくかみ合っていない。だが一方は赤く、一方は青くなっている。

「もういい。貴様がどれだけ婚約者にふさわしくないか、証明してやる!」

 レオンがそういうとミリアが話す。

「私は、そこのエリーゼ様から様々ないやがらせをうけました。レオン様からいただいたアクセサリーを捨てられたり、ころばされたりしました。そこにいる皆様も見たと証言してくださいます」

「そうだ!ミリアとの真実の愛を壊そうとするお前を、私は許さない。ロイド、おまえは見たんだろ!エリーゼがミリアにいやがらせをしているところを」

 指名されたロイドが、はっきりと言う。

「はい。私はミリア様からそのようなことをやられたと聞きました。しかし、私はそのような現場は見てません」

「そうだ!このように証人もいる!!」

 しかし、ロイドはそれを遮る。

「殿下、私はみてないです」

「なに!貴様!どういうことだ!」

「殿下!私はレグナ王国の臣下として、この場で事実と異なる証言をするわけにはいきません。私が聞いたのは『ミリア様がエリーゼ様からいじめを受けた』という事のみです」

 

「バートン!おまえはどうなんだ!」

「わたしも聞いていただけです。見てません」

「ウェイン!」

「わたしも聞いていただけです。見てません」

 レオンがお付きの人をみまわす。

 

「グレイ!、モリス!、エヴァンス! お前ら!!」

「私たちも聞いていただけです。見てません」

 

 レオンとミリアが唖然としてる。

「まさか、あの髪飾りの事を?」「あれだってちゃんとあったじゃないか」

 とかいうヒソヒソ声が聞こえる。

 

 その言葉をきいてレオンが青くなる。赤くなったり青くなったり忙しいやつだ。

 しかし、となりのミリアをみて勇気を奮い立たせてエリーゼに向き合って言う。


「ミリアの証言もある!お前はこのミリアに酷いことをした!それについての謝罪が先だ!」

「婚約破棄というのは王命ですか?まずそれをはっきりさせましょう」

「おまえ!俺のいう事がわからないのか!」

「殿下、再度お聞きします。婚約破棄というのは王命ですか?」

 レオンは焦っていた。

 

 レオンが考えていたシナリオは僕が前にエリーゼに話したとおりだろう。

 反論すれば『王族に公然と歯向かった令嬢』、黙っていれば『罪を認めた』、泣けば『場の空気を乱した』、退出すれば『公式の場から王族の許可なく退出した』、この四択のうちどれかをエリーゼがやればレオンの勝ちだった。

 仮にエリーゼが『無実の罪』をでっち上げられ、取り巻きどもと一緒に糾弾されたら、とても耐えられなかったはずだ。なにせ、いくら貴族と言ってもエリーゼはまだ十代の女性だ。

 しかし、エリーゼの努力のおかげで、レオンに追従するものはいなかった。それどころか距離をおいていた。恐らくは彼らの家族からのぶっとい釘が打たれていたに違いない。

 

「エリーゼ!貴様は俺の婚約者だろう!婚約者ならば、まず俺の言葉を聞くのが筋ではないのか!」

「殿下、お聞きします。婚約破棄というのは王命ですか?」

「今はそんなことを話しているのではない! 貴様がミリアにした仕打ちについて話しているんだ!」

「その件は後ほどお答えします。まず、婚約破棄というのは王命ですか?」

「私は王子だぞ! その私が婚約を破棄すると言っている! それで十分だろう!」

「では、王命ではないということでよろしいですか?」

「違う! そうではない!」

 レオンは完全に我を忘れていた。完璧だと思っていた策が完膚なきまでに潰されたからだ。

 

 しかし、このままではミリアにも愛想をつかされてしまうかもしれない。そう思ったのか彼は言ってはいけない一言を言ってしまった。

 

「王子である私がいうのだから、それは王命と同じだ!!!」


 エリーゼはそれを聞くと一礼する。薄く笑っていたのも見えた。

「王命ということで拝命いたしました。後程正式に確認させていただきます」

 エリーゼの余裕の態度が癪にさわったのか、彼は叫んだ。

「でていけ!いますぐでていけ!!」

「それは王命ですか?」

「当然だ!」

 エリーゼはまた一礼したあと、出口にむかう。

 その時、僕と目が合った。彼女は僕にウィンクして出て行った。

 

 彼女が出たと同時に、使いの者が続々と入ってくる。他の貴族の子弟のお迎えがきたのだ。時間はかなり早いが、有無も言わせずという表現がピッタリなほど強引に連れて行った。

 

 数分も立たないうちに、会場に残るのはレオンとミリアと、少し離れた僕だけになった。

「真実の愛はまけない…」

「レオン様…」

 二人は抱き合っていたが、なにが起こったかわかっていないようだ。

 

 その二人に礼をして、その場を去ろうとしたが、ミリアが僕を呼び止めた。

「待ちなさい!貴方がなにかしたの!!」

 

 事実を積み重ねて真実にたどり着くこともあれば、嫉妬と狂気によって真実にたどり着くこともある。なかなか珍しいことではあるが、ミリアはどうやらあたりを引いたようだ。

 などと遊んでいる場合ではない。ここはなんとか切り抜けなければ、とか思ったが別に切り抜ける必要はなかった。

「何かと言いますと?」

「私たちのことを告げ口したにちがいないわ!!」

「何をもって告げ口というのかはわかりかねますが、学園内のことは色々な方にお話させていただきました」

 丁重に礼をする。

 

「私たちのことをいったのね!!」

「はい。お話させていただきました。なにか困るのですか?」

 首を傾けてあげた。

「お前が、おれの親父に告げ口したんだろ!!」

 レオンが激高してる。

 

「殿下、何をどうしたら平民ごときが陛下とお話できるとお思いで?いまは学園内だから王族である殿下とお話できておりますが、学園の外にでて王族の方にこのようなお話をしたら、私は牢屋行きですよ?」

 レオンは二の句もつげなくなった。事実そうだからだ。

 

 沈黙が続く。ずっと突っ立ってもいられないので、僕も帰るとしよう。

「殿下、ミリア様、パーティーも終わったようなので、これで失礼します」

 何度目かの礼をして会場をあとにした。

 

 彼らはなにも言ってこなかった。

 

お読みいただきありがとうございます。


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