第十二話 運命の日、その前に
七月に入るとレオンとミリアの行動はどんどん派手になってきた。
とある日、
「あれ?無い!」
ミリアが何か叫んでる。
「ここに置いておいたペンがない!」
いつものとおりにレオン達と絡んで、自席に着こうとした彼女が騒ぐ。
「お気に入りのペンがない!」
ばっさばさと見当違いのところをひっくり返してる。
このままだと迷惑になるので、頃合いを見計らって、魔法を解くと、
「あった!」
とか言っていた。
何のことはない。そのペンの上にうすーい木の板を被せただけだ。よく見れば分かることなのだがね。
レオンとミリアそれぞれ数回同じようなことをする。
人間というのは不思議なもので、誰かに対して後ろめたいことがあると、その相手を嫌いになることがある。 自分が悪いと思うより、相手が悪いと思ったほうが楽だからだ。そして一度相手が悪いと思い始めると、今度は何かあるたびに、その人の仕業ではないかと疑い始める。
だから僕はそいつを少々利用させていただいた。
彼らは順調に、エリーゼへ怒りを募らせていった。
そして大騒ぎするたびに、同じ場所から出てくるため、周りからは変な目で見られていた。
九月のある日、メモが挟まっていた場所に変装して行くと、同じように貴族のお付きの人として変装したエリーゼに会う。
いつものとおりに人混みの中で、こんなやりとりを行う。
「どうやら坊ちゃまが、どこぞのお嬢さんに贈り物をなさるようです。旦那様のところに、その支払いの話が来たそうで」
(王子が女性に贈るための装飾品を買いました。領収書がお父様のもとに来たそうです)
「ほう、坊ちゃまも色気づきましたか。それはめでたい。では私も明日、似たような品を皆さんにお配りしますが、お嬢様には、その、ご遠慮いただくよう、お願いします。お嬢様には似合わないものですので」
(わかりました。では明日、装飾品を配ります。貴女は受け取らないでください)
「承知しました。お嬢様にはそのように伝えておきます」
(わかりましたわ)
人知れずに離れ、人ごみにまぎれ、その日の夜はせっせとアクセサリーを作った。
次の日、先生を捕まえて、バイトの一環だということでアクセサリーを配ることに許可をもらう。
「成る程、授業料や寮費は無料だが、何かと王都では入り用だからな」
「はい、しかし国王陛下の広く見識のある政策のおかげで、仕事にそれほど注力せずにすんでおります。また、先生方の情熱のある指導、クラスメイトである貴族の皆様の細やかなお心遣いのおかげで、日々成長を感じております」
思ってないことをべらべら喋れるようになったのもこの学校のおかげか。
まぁこれのおかげか配ることに同意してくれた。
朝の会から授業が始まるほんの僅かな時間。僕はエリーゼに声をかける。
「公爵令嬢様、こちらをお使いいただければ」
「あら、これは何?」
「知り合いの宝石商から、貴族の皆さまへデザインの良し悪しと使用感を聞いてほしいという依頼を受けました。もしよければお使いいただき感想を教えていただければと思いまして」
「あら、ありがとう。これは貴方が作ったの?」
「はい。魔法で作りました。3日ほどでなくなってしまいますが、こういうのに使うのはうってつけなので」
エリーゼが貴族らしく、少し首を傾け、
「なるほどね、どうして私に声を掛けたの?」
「はい、それは貴方様が公爵令嬢だからです。こういうものは位が一番高い方からと思いまして」
「あら、その心遣いは感謝しますわ。しかし私は受け取れないわ」
「なぜですか?」
「私には既に婚約者がいる身、殿方からのこういう身体にみにつけるものをいただくことは、慣例に反する行為なの」
「それは知りませんでした」
「貴方は平民だから知らなくて当然ですわ。相手が結婚してかつ主人を通して渡すのなら大丈夫なのよ。商人や貴族が「これは奥様に」とかはまぁよくあることなのだけどね」
「成る程、よくわかりました。浅学の私にお教え頂きありがとうございます。ついでにお聞きいたしますが、婚約している殿方が、別の女性に装飾品を贈ることはあるのでしょうか?」
「さぁ、私は聞いたことないですね。仮にそのような方がいらっしゃいましたら、それはそれは、まぁという感じですね」
「ありがとうございます」
僕はエリーゼと目を合わせる。そして言葉を紡いだ。
「しかしこれは贈り物ではなく商品の見本みたいなものです。お受け取りいただければと思いますが」
「確かに、これは贈り物ではないとも言えるわ。でも私の婚約者は殿下ですのよ。軽々に受け取るわけにはいかなくて。そこは分かっていただけますか?」
「はい、公爵令嬢様の心遣い、感服いたしました」
そこかしこから感嘆の声が聞こえた。
僕はくるっと振り返ると、
「皆さま、是非ともお手に取ってご覧ください。もし気に入れば、私に言ってくだされば、お時間は頂きますが、同じものを作成いたします」
そう言うと、貴族連中が寄ってきて物色している。
その中で、ミリアだけが無関心だった。
次の日朝、ミリアがこれ見よがしに髪飾りを身につけて登校した。
「レオン様からもらったのよ」
とたいそう自慢していた。レオンもなんかニコニコしている。
エリーゼも
「よくお似合いですね。殿下もお優しい」
とか言ってたのを聞いた。
さてと、仕上げに入る。
ミリアが自慢しまくった髪飾りを机におくのを見たので、そこに『かぶせて』あげた。
ミリアが金切り声を上げて、レオンが怒声を発してる。周りがオロオロしてるが、エリーゼはどこ吹く風で自分の席に座ってた。
レオンとミリアがエリーゼを睨みつけ、そばに寄ろうとした瞬間に、解除してあげる。
「⋯⋯あ」
誰かが声をあげる。
ミリアが喜びの声を上げた。
周りは氷点下になった。
九月も末になると、そろそろダンスパーティーの準備が始まった。
レオンとミリアが何やらコソコソ話をしているが、何かを感じ取った僕はとある個室に身を隠した。
「ここなら空いてるか」
レオンとミリアが入ってくる。ここは準備室のようなもので、様々な物が雑多に置かれている。他にも部屋はあるが、僕が事前にウッドゴーレムを中に入れて、コツコツと歩かせていた。
まぁ、人のいる場所で内緒話はせんわな。
「レオン様、陛下はなんといってますか?」
「特に何も言ってこない。だが宰相がうるさく言ってくる」
「そうですか……」
「しかし、たかが宰相だ。俺の意思と君の愛を見せつければきっとみんな認めてくれる!」
「そうですよね。きっとみんな、私たちのことを祝福してくれるにちがいないわ!」
そんなわけあるかーーーーー と突っ込みを入れたくなったが我慢した。
「そのためにも、今度のダンスパーティーで、あの陰険なエリーゼに引導を渡してやる!」
「はい。殿下。みんな私たちの味方です!」
まぁダンスパーティーで何かを仕掛けてくるのはわかった。さて、ここから出よう。
僕は扉を開けて、今入ってきたふうを装う。両手には掃除用具も持っていた。
「誰かいますか~?」
「平民?」
レオンがあからさまに嫌そうな顔をする。まさかおっぱじめるつもりだったのかね。
「あ、これは殿下。先生に掃除を頼まれまして」
「そうか……。だが、今は使っている。後にしろ」
「はい、承知しました。では、失礼いたします」
僕が一礼して外に出た。
その後、僕は講師の皆様に「レオン殿下が十月のダンスパーティーのときに何かやるようだ」とお話しした。
講師の皆様は最初は目を見開いていたが、その後、首を振った後、天を仰いだ。みんな同じ行動をしていた。
ダンスパーティーを二日後に迎えたある日、変装したエリーゼと外で会った。
いつもの通り、彼女は貴族のお付きのメイドの格好をしていて、僕は普通の丁稚奉公の格好をしている。
「ついにきましたね。なんだかんだいって不安ですわ」
「大丈夫です。何をいわれてもあの言葉を言ってください」
エリーゼが顔を伏せて言う。
「もし、失敗したら、貴方が助けてくれるの?」
「まぁ、出来る限りのフォローはします。ですが私は平民ですからね。途中でかっさらって逃げる、なんていうのは無理ですよ」
「あら、冷たいのね」
「しかし、貴方が失敗したら僕は無職になります。だから全力でサポートさせていただきますよ」
エリーゼが少しむくれて
「ここは『あなた様のために全力を尽くします』とか言うべきではないの?」
「公爵令嬢様、僕は平民ですよ。そんなことになったら、各方面から縛り首ですよ」
「……そうだよね。そうなんだけどね。いや、だから……いや、わかってますけどね」
エリーゼがなにかぶつぶつ言ってた。
「まぁ、仮に失敗しても」
「失敗しても?」
「死ぬわけじゃないですからね。あの時の山に比べたら雲泥の差かと」
エリーゼがぷっと噴き出して「それもそうね」と呟いた。
そして、あの運命の日がやってきた。
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