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第十一話 墓穴には突き落とすのがマナーです

 三年目の四月になった。

 あれからロイドは酒場では見なくなった。何かを決めたらしい。

 そして、二月頃まではレオンにあれこれ話ししていたのだが、最近は

「はい、殿下」

 くらいしか言わなくなった。

 おかげで、レオンとミリアの行動はますます目に余るようになった。

 

 そして、四月の頭にローレンス閣下は陛下から私的な返書をもらっていた。

 内容は

「レオンとエリーゼの婚約を解消する意思はない」

 であった。

 

 さて、まぁこのままでもいいのだが、少し後押しさせてもらおう。

 人が墓穴を掘ってるのなら、うしろから蹴飛ばしたくなるのは人情ってものだ。

 後に

「凄い凶悪に笑ってたわよ、貴方」

 とエリーゼに言われた。

 そんな、人畜無害なのに、とか返したら

「貴方の辞書は他人とかなり違うようね」

と言われてしまった。

 

 さて、この学園には試験がある。試験と言っても、教養だったりマナーの試験が多めで、俗にいう理数系はあまり深くない。

 では簡単かと言うとそんなことはなく、礼儀作法が主になるためとにかく覚えることが多い。

 本日はお茶会のマナーなのだが、以下三つのシチュエーションでのテストが行われる。

・目上に招かれた場合

・同格に招かれた場合

・目下に招かれた場合

 なぜこんなにテストが行われるかと言うと(後で知ったのだが)、他国の要人との間で開かれるお茶会というのは、『公式ではないが公式である』という、とんでもなく面倒な立ち位置だからである。

 

 先生達の監視の目が光る中、ホスト役の先生と空のティーカップを前に、一連の動作を行う。

 ティーカップが空なのは、試験のたびに飲んでいたらお腹がタプタプになるのと、高級な茶葉をおいそれと使えないためだ。

 

 公爵家のエリーゼや王族のレオンは余裕なのだろうな、とか思っていたら、そうでもないらしい。彼らなりに覚えなければいけないことがあるらしい。

 

 平民の僕は未知の領域である為、覚えることが満載である。

「頭を振ったら、覚えた事が出てきそうだ」

 とか言う感覚を味わったのは久々だ。

 

 さて、ミリア嬢がやたらと張り切っている。

 実はこの試験、

「王族とその妃の振る舞いも試験として見られる」

 とか言う噂があるためだ。というより僕が意図的に流した。

 

 この噂で関係があるのはエリーゼとレオンだけだし、彼ら2人はそんなの織り込み済みなのか、それとも信じてないのか全く気にしてなかった。

 

 さて、この試験。

 試験とは言ってるが、実際は矯正である。一通りやって間違ってたらガンガン指摘され、都度都度やり直しさせられる。

 そして、完璧にできるまで繰り返しやらされるのだ。

 

 だからこの試験を受け終わった生徒は大体ぐったりしてる。エリーゼやレオンはもちろん、他の貴族の方々も椅子にだらしなく座ってる。

 ちなみに僕は机に突っ伏してる。平民だと事前知識が皆無なため、覚えることが多く、他の人の倍の時間がかかったからだ。

 

 しばらくしてミリア嬢が帰ってきたが、

「明日、追試」

 とか言っていた。あらら、かわいそう。

 何でもことごとく尊大に振る舞ってだいぶダメ出し食らったそうな。

 なんかレオンと話をしててなぜかエリーゼの方を睨んでいた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 5月になると婚姻関係の授業が行われる。これは婚礼に関するマナーとか誰に呼ばれたら、こんなものもってけとかいうものだ。

 

 授業の最後で質問を求められたので、僕が発言した。

「先生。市井では庶民の女性と王族が結婚するという話がたくさんありますが、そういうことはありえるのでしょうか」

「あり得ません」

 先生はきっぱりと言う。まぁそりゃそうかと。

「ダニエル君。平民の間では、王族と庶民が結ばれる物語も珍しくないのでしょう。ですが、物語と現実は別です。我が国の王族に、そのような婚姻の記録はありません。他国の王族でも私が知る限り聞いたことがありません」

 なるほどとうなずく。先生はそれをみて続ける。


「皆様にはすでにご存じのことかとは思いますが、いい機会です。蛇足ついでに話しておきます。貴族の婚姻は個人だけの問題ではありません。家、国内、場合によっては他国との関係にも影響します。ですから、本人同士が望んだからといって、そのまま婚姻できるものではありません」

 周りをみまわしていう。

「ですから皆様も、それを心に命じてください」

 一瞬、クラスの連中が特定の二人に視線がいったような気がした。

 

 さて、普通ならここでおわる話なのだが、もう一押しさせていただく。

「先生、僕が調べた限り、子爵のひとと結婚した王族がいましたが、あれは特別なのですか?」

「ああ、〇〇陛下の御代にありましたね。あれは当人の愛情があったから、というのが表向きの理由ですがね」

 表向き?

「裏で色々とあったそうですよ」

 とは先生のお話。

「先生、その王族は優秀さを認められて、活躍したとあります」

 ミリアが口を挟んでくる。

「それも表向きですね」

 バッサリ切る先生。ぐうの音も出ないとはこのことか。

 ミリアがでもとかだってとか言ってたが、授業はそのまま進んだ。

 

 

 

 

 六月のある日、ミリアがプリプリ怒って登校してきた。レオンも何か機嫌が悪そうである。

 彼らはよく視察と称してお忍びで(バレバレだが)遊びに行ってるらしい。その時にレオン達はよせばいいのに自分たちの評判を市井の人たちに聞いたそうな。

 そしたら

曰く「色ボケ王子」

曰く「夢見令嬢」

曰く「お花畑の恋人たち」

 などなど。

 容赦のない言葉を浴びせられたらしい。

 

 変装中なので激発するわけにもいかないので、黙って聞いてきたらしい。ちなみに若い女性には好評だったらしい。

 ということをミリアが大声で赤裸々に語っていた。

 

 これは僕が彼らの行動を嘘偽りなく広めてあげたおかげなのだが、それは黙っておこう。

 

 まぁ王族のスキャンダルなんて平民の格好のおやつだからね。

 

 これで「真実の愛」とか方向に行ってくれるといいけど、多分行くだろうな。


お読みいただきありがとうございます。


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