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至高の接客と、規格外の特別請求書

「――いらっしゃいませ。当館の『静寂』を乱さぬよう、足音にはご注意を」


ついに幕を開けた特級学園祭。

私たちのクラスが出した『メイド喫茶・シャルル』は、開店からわずか一時間で、学園の歴史を塗り替えるほどの大行列を作っていた。

入り口ではノヴァが冷徹なまでの美貌で客を捌き、店内では地獄の特訓を乗り越えたクラスメイトたちが、一分の隙もない完璧なメイド歩行で給仕をこなしている。


私はというと、店内の最奥に設えられた、羽毛布団よりも柔らかい豪華な特等席で、気怠げに頬杖をついていた。

「……マスター。第42番のアールグレイです。最適な温度に調整済みです」

「ありがとう、ノヴァ。……外、随分騒がしいわね」

「ご安心を。埃と雑音の処理は、すべて完了しております」


ノヴァが恭しく一礼する。私はただ座って紅茶を飲んでいるだけだが、客たちはその「触れれば消される」ような私のオーラに勝手に心酔し、拝むようにして遠巻きに視線を送ってきていた。


* * *


そんな私たちの快進撃を面白く思わない連中も、当然いた。

「……おい。この店だけ繁盛しすぎだろ。少し『教育』してやろうぜ」

やってきたのは、他クラスの上級生エリートを自称する魔族のグループだ。彼らは店内の雰囲気を壊そうと、不気味な幻術を纏いながら、わざと大声で難癖をつけ始めた。


「なんだこの店は! メイドの顔が気に食わん! おい、裏メニューを出せ! この『地獄の激辛ハバネロ・デス・ティー』を完璧に淹れてな!」


彼らがテーブルに叩きつけたのは、触れるだけで指が腐りそうな、呪いのこもった禍々しい茶葉だった。

シエルが「えっ、そんな……」と怯え、店内の空気が一瞬で凍りつく。


だが。


「……ふふっ。お客様、なんて素敵なオーダーですの」

スッと割って入ったのは、不敵な笑みを浮かべたリゼだった。

彼女は魔導タブレットを操作し、瞬時に茶葉の構造を解析する。

「ノヴァさん、例の『マナ抽出機』の準備を。……わたくしたちのマスターの名を冠する店で、不可能なオーダーなど存在いたしませんわ」


「了解しました。……不純物の完全浄化、およびマナの再構築を開始します」


ノヴァとリゼの神速の連携。

呪いの茶葉は一瞬で極上の香りを放つ琥珀色の液体へと変貌し、さらにシラヌイが指先で一振りした『妖狐の蜜』によって、飲んだ者を極楽へと誘う至高のスイーツティーへと昇華された。


「な……っ!? 俺の呪いが、こんなに美味そうな茶に……!?」


「はい、お待たせいたしました。こちら、裏メニュー『魔族のエリートによる供物・究極浄化茶』でございますわ」

リゼは完璧な微笑みでカップを差し出し、同時に一枚の伝票を叩きつけた。


「……なお、こちらの特殊調理および呪い処理代行として、『特別危険手当料金』金貨50枚を頂戴いたしますわね。お支払いは今すぐ、こちらにサインを。拒否される場合は、あちらに座っているマスターが直接『徴収』に伺いますが?」


私がチラリと冷めた視線を向けると、上級生たちは「ヒッ……!」と短い悲鳴を上げ、ガタガタと震えながら全財産を差し出して逃げ帰っていった。

「……ふん、いいカモじゃったな。学園祭の予算に上乗せしておこう」

シラヌイが九つの尾を揺らして、小気味よさそうに笑った。


* * *


騒動が落ち着き、昼下がりの陽光が差し込む頃。

一人の老紳士が、静かに店内に足を踏み入れた。

変装してはいるが、その内側から漏れ出す尋常ではない天力の波動――。間違いなく、神族のトップに近い側近の一人だ。


老紳士は私の目の前に座ると、試すような瞳で私を見据え、テーブルに真珠のように白く輝く一粒の茶葉を置いた。


「……噂の『理不尽の化け物』か。ならば、この『天界の神珠茶』を淹れてみせよ」


「なに、これ」


「極めて純度の高い『天族の力』以外の干渉を一切弾く、神聖なる茶葉だ。魔力や妖力など、不純な力が少しでも触れれば一瞬で灰と化す。……さて、貴様のような得体の知れないバケモノに、これを美しく淹れることができるかな?」


老紳士は冷ややかに笑った。

要するに、「神族である自分たち以外の力では絶対に扱えない」と自慢しつつ、私の力の底を暴こうという魂胆らしい。


「…………」


私は紅茶のカップを置き、面倒くさそうに溜息をついた。

「……ねぇ、おじいさん。埃が舞うから、店内で灰を散らかすようなことはしないわよ」


私は指先を軽く動かし、あの無色透明な『絶対階位ゼロ・ティア』のマナを、ほんの一滴だけカップの中に落とした。

神の定めた法則に合わせる必要なんてない。

「神聖な力以外は弾く」という茶葉のルールそのものを、圧倒的で理不尽なマナの質量で上から完全に押さえつけ、強制的に抽出すればいいだけだ。


ポチャ……ッ。


たった一滴。

次の瞬間、絶対的な力に完全に屈服させられた茶葉は、大人しく完璧な透明度と神々しいまでの香りを放つ極上の霊茶へと姿を変えていた。


「な……っ!?」


老紳士は目を見開き、手に持った杖をガタガタと震わせた。

「ば、馬鹿な。天力ではない……いかなる属性も持たぬ力で、神の法則そのものをねじ伏せただと……!? 貴様、一体何者だ……」


「……ただの、寝不足の吸血鬼よ」


私は紅茶を一口啜り、ノヴァに合図を送った。

ノヴァは待ってましたと言わんばかりに、老紳士の前に分厚い特別請求書を差し出す。


「――神族の方限定の『特別法則書き換え手数料』および『神聖物取扱危険手当』、合わせて金貨1000枚になります。……神族のプライドにかけて、踏み倒しはなさいませんよね?」


「な……っ、き、貴様ら……っ!!」


老紳士は屈辱に顔を赤くしながらも、私の底知れない威圧感に完全に気圧され、黙って重い金貨袋を置いて足早に立ち去っていった。


* * *


夕暮れ時。

学園祭の一日目が終了し、私たちは教室で売上の集計を行っていた。


「……シャルルさん! 大変なことになっておりますわ!」

リゼがタブレットを掲げ、絶叫に近い声を上げた。


「一日目だけで、学園祭の過去最高売上記録を……300%以上更新いたしましたわ!! これまでの全クラスの売上を合わせても、わたくしたちの半分にも及びませんわよ!」


「当然の結果です。マスターの存在そのものが、この学園における唯一無二の価値なのですから」

ノヴァが満足げにコアを明滅させ、山積みになった金貨の袋を丁寧に整えていく。


「やったねシャルル! アタシたちのメイド喫茶、世界一だよ!」

シエルが嬉しそうに私の首に抱きついてくる。


「……ふん。儲かりすぎて、明日から狙われないようにせんといかんな」

シラヌイも金貨の輝きに目を細めている。


私はその喧騒を横目に、窓の外の夜空を見上げた。


「……とりあえず、明日の分のご飯代と、枕の買い替え代は稼げたわね」


私は満足げに目を閉じ、記録的な売上と、勝利の余韻に浸りながら、心地よい眠りへと落ちていった。

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