~田代伝慈朗~
「がん?」
「そうだよ」
「それで?」
「活動するのが難しくなる」
「どれぐらい?」
「どれぐらいって…………」
「いいよ。俺一人で頑張る。元気になったら帰ってこい」
アキとデンジローが交わした言葉はこれが最後になる。
この翌日にアキは入院。同時にヴィベックスからちぇんそーまんずがコンビの活動を無期限休止すると言う声明を発表。しかし当のデンジローはまったくそのことについてどこでも言及はせず。更新頻度が高い彼のSNSでも仄めかすことですらない。
『アキくんはどないしたん?』
『アイツは最近昼寝が好きになって。ずっと寝ているの』
『寝過ぎやろうが』
『アンタもよく寝るオバサンだろうが』
『うっせぇわ』
下村江里子の番組にてこんなやりとりがあったように彼はアキが昼寝を好きになったからだとコンビの活動休止理由を説明する。
しかし世間は週刊誌の報道よりアキが深刻な病で病床にあることを知る。
デンジローがいくら強がってみせても無理があるのだ。
『あれ? ここは?』
真っ白な空間。
『アキ。何かあったのか?』
『お兄ちゃん……』
『ボク、ずっと待っていたよ。でも、アキさ、ここに来るのは早くないか?』
アキの目の前にいるのは幼い日に見失った兄のハルキ。
『これしきはどうしようもないよ……お兄ちゃん、オレさ、友達ができてさ』
『へぇ。どんなやつ?』
『デンジローって言う奴。お兄ちゃんと違って元気な奴で。何でもやっちゃう奴だけど……病気のお兄ちゃんと違って……何にも聞いてくれない奴でさ……でも、それでもオレと漫才をやってくれるヤツでさ』
『まんざい!? すごいね! みたいなぁ!』
アキはボロボロ涙が零れるのを止められない。
兄に対する想いと相方に対する想いが交錯して落ち着きようもない。
でも、ここにいるハルキの言葉は何より温かい。
『だけど……彼がここにくるのはまだ先かもしれない』
『そうだな……うっ……』
『泣くな。アキ。キャッチボールしようぜ?』
ハルキはどこからか取り出したグローブを取りだしてアキに投げた。
『ナイスキャッチ!』
あの日、果たせなかった約束を彼らはやっと果たせる。そのときにアキはこの世から旅立った――
「息子の為にありがとうございます……! 最後までありがとう……!」
代悟がアキの看取りに入ってくれた牧野とヴィベックスの上司である斧崎へと深々と頭を下げる。
牧野は包んでいたアキの手をそっと彼のもとへもどす。
そのとき、相方はお笑いライブに臨んでいた。
ただこの時のデンジローはもう正気でなくなっていた。
「か・ら・あ・げぇぇぇ!!! か・ら・あ・げぇぇぇ!!!」
「デンジさん! もうやめて!! 時間を過ぎていますよ!?」
マネージャーの鮫田が「からあげ」の絶叫を連呼するデンジローの制止へ必死になって入る。それはそのライブの演者やスタッフも巻きこむほどの一大事。
遂には彼が病院へ搬送されるほどの事態になったのだ。
早崎明来の逝去はすぐにニュースにもなる。売れっこ芸人とは言え、まだまだこれからの活躍次第の彼だった故にそこまで大きな報道にはならなかった。
デンジローはどうだろう? 知らなかったのだろうか?
アキの葬儀には関係者の多くが参列したが、そこにデンジローの姿はない。
これから数カ月。デンジローはデンジローでどこかに居なくなっていた。
いや、その姿をくらましていたと言ったほうがいいか。
彼が活動復帰の場に選んだのは「もふもふ王国」のヨウチューブ動画だった――
プロットどおりに書いているだけなのですけどね……作者も書いていて辛いところはありました。
ただそれもこれも彼の物語であり彼らの物語であり。
来週も土日19:00~で更新いたします。




