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~早崎明来~

「癌です。治療に臨むのであれば、多少の延命は叶うでしょうが……」

「えっ……あの……え」

「いいです。私はこのコにありのままを受けとめて欲しいし、いっしょに頑張るつもりです」

「…………」



 突然の事だ。



 芸人としての仕事が増えてきた矢先にまさの通達。



 仕事が多忙だから体調を壊したのだと思った。



 それだけだと思っていた――



「何年振りかな? お前とこうやってキャッチボールするの」

「覚えてない」



 病院からでてすぐの公園で父親とキャッチボールをする。



「強い球を投げると思ったぞ?」

「そんなのを投げて欲しいの?」



 全身に力が入らない。それは自分が病に侵されているからなのか。それを医者から通告されたからか。いつからか涙が溢れて止まらなくなる――




 もう十何年も前のこと、彼には病弱な母と兄がいた。



「父さん、キャッチボールしようよ!」

「ごめんな。いま、ハルキの調子がよくなくて。母さんも寝たきりで。しばらく手が離せない。今日は雪が積もっているし、雪だるまでもつくってみたらどうだ。父さんがあとでみにいくから」

「そんなことを言って! いつもオレのことをほったらかしじゃないか! いつ兄ちゃんと母さんの調子がよくなったの!?」

「アキ……」

「いいよ! 一人で遊ぶよ! できもしないクセにキャッチボールしようなんて言うな!」



 部屋に残されたハルキと父親。だけどアキの兄であるハルキは父親に言った。「ボク、アキと遊んでくるよ。今日は元気でそうだし」と。



 そのままハルキはアキを追いかけた。



「何しに来たんだ! 遊ぶ元気がないんだろ!」



 アキはハルキを振り払うように言い放つ。



「僕だって遊びたい! 遊べる! 兄貴を馬鹿にするなよ! 弟よ!」



 そう言って兄は弟に雪玉を投げる。その雪は弟の顔へ直撃した。「何するんだ! この野郎!」とすかさずに反撃する弟の雪玉も兄の顔を直撃する。



 勢いでハルキは倒れこむ。



「兄ちゃん!? 大丈夫か!?」



 すぐにアキは心配して駆け寄る。



「冷たいなぁ……ボクがグローブとボールを持ってくるからさ、それでキャッチボールしようよ。心配するなよ。今日はいつもより元気がありそうだから。アキ、ここで待ってくれ。すぐとってくるから」

「兄ちゃん……オレがいくよ……」

「いいんだよ。たまにはボクにも頑張らせてくれ」



 ボールとグローブをとりにいったハルキはそのまま車にひかれてこの世を去る。



「あんたがハルキを殺したのよ!!! ハルキをそそのかして!!! 私たちのハルキを返せ!!! この鬼!!! 悪魔!!!」



 母親は遂にアキを憎むまでになる。



 その傷は深くて彼を父方の祖父母のいる茨木へ追いやったほど。



 アキは深く傷ついた。でも、それは自分の責任だと分かってもいた。



 そんな彼は茨城に来て早々に不登校児に。家に籠ってテレビをみるかゲームをすることに耽る。そんな彼を父の代悟は気にかけてたびたび彼の部屋を訪ねた。



 当初はこれを拒むアキだったが、次第に父親へは心を開く。



 外にでて父親とキャッチボールをするときに彼は夜間学校へ通うようになった。昼はコンビニのバイトに励む。その勤務姿勢はとても真面目で手際もよくて周囲から評価されるものだった。




 ある日、彼は「引き抜き」のスカウトを受ける。



 コンビニ店員としての引き抜きだ。



 彼女は牧野と名乗る。その柔らかくもミステリアスな雰囲気に虜となる。彼にとってそれは初恋以外の何でもなかった。



 牧野というコンビニ店のオーナーは元々吉原興行の営業職をやっていた。その仕事の一環で他事務所から優秀な人材を引き抜くという行為を会社からの命令ですることもあった。ときに体をつかった禁じ手までおこなうことも――



 彼女はそうした業界の闇にうんざりしてコンビニエンスストアの業界に興味を持つようになる。吉原時代の癖があってか「面白そう」と感じた人間に対しての引き抜きスカウトを何度かした。それがアキとデンジローそして剛力の3人だ。3人とも彼女の思っていたとおり、芸人の道を歩みだしていた。



 ただ芸人になるだけではない。それぞれが大活躍をしてみせてメジャーの芸人となっていたことも大きい。



 アキとデンジローは牧野に対しての恋心を捨てておらず、このたび晴れて不仲だった夫との離婚が成立してから尚更に火がついて止まらないようだ。



「そうですか……」

「すごくショックを受けたみたいで。でも、私はあのコに真実は伝えるべきだと思って……診察結果をいっしょに受けました」

「すごくピュアなコなんですよ。アキ君もデンジロー君も。だけど、そんな彼らだからこそスターになれるような素養も感じられた」

「そうなのですか……ははは。なんだか嬉しいなぁ」



 都内高層ビルの一角にあるカフェで牧野と代悟は会話を交わす。



「デンジロー君へは彼が言うのですか?」

「はい。多分今頃話していると思います」

「受けとめてくれるといいですね。そう願います」



 アキは自身とお笑いコンビを組む相方のデンジローと事務所の一室で向き合う――




スピーチヒーローの為に書きおろした「ちぇんそーまんず」のお話になります。


お付き合い頂ければ嬉しく思います。

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