第84話「別人のような」
オレは駆け出した。
なぜなら、吹き飛ばした師匠に追撃をするためだ。
あの程度の衝撃なら師匠は、おそらくあと三秒後には着地をするはず。
着地したばかりの踏ん張りが効かない瞬間を狙う。
そして、師匠が地面に着地した。
こちらは予想通り、約三秒後だった。
そして、オレはそれに合わせてしっかりと懐に入っている。
そして、右腕を振った。
師匠に向かって、白雪が向かっていく。
だが、それは防がれた。
でもそれで構わない。
着地をしたばかりで踏ん張りが効いていなかった師匠の太刀を少しばかりだが弾くことが出来たのだから。
それを見て、オレは剣と刀で斜めにクロスするように斬った。
白雪の方は防がれたが、剣の方は防がれておらず、師匠の左肩から右の脇腹にかけて決して浅くないであろう傷が出来た。
そして、それを確認してからオレは両腕を同じ方向に振る。
だが、もちろんと言ってはなんだか癪だが、完璧に防がれた。
だが、これは師匠に傷をつけるために剣を振ったのではない。
師匠を吹き飛ばして、距離を取るためだ。
そして、狙い通り、また師匠を吹き飛ばした。
そして、離れてからつけた傷を確認する。
やはり決して浅くはない傷だった。
だが、深い傷ともいえない。
今、オレが受けているのと同じくらいか?
遠くから師匠を注意深く観察していると突然、師匠の姿が消えた。
そして、耳元で声がする。
消えた師匠と同じ声だったが、まったくの別人の様だった。
「俺に傷をつけるとはな。見事だ。・・・だが、まだまだ俺には届かない。」
そう言ったのを聞いてから、オレはすかさず背後に視線を向けるべく、振り向く。
すると、そこには見覚えのある長い黒髪と長い刀身が見えた。
だが、暑苦しく、温厚な感じの師匠とは違い、オレが見た長い黒髪の男の雰囲気はとても冷たく、冷徹なモノだった。
そして、オレの師匠と同じ姿形、声をしているが、まったくの別人のような雰囲気を纏ったその男が両腕を振るった。
それは見えないとかそんなモノではなかった。
感じることだけで精一杯だった。
しかも、それを感じることができたのはオレが体を斬られたからだ。
つまり、オレは斬られるまではまったく刀がどんな軌道を描いて、どんな角度でオレに向かってきたかがまったくわからなかったということだ。
だが、これだけは言える。
それは確実に『人間』という生物を殺すのに最も優れた一太刀だった。
もし、その太刀を一言で言うのなら、まさに『一振必殺』と名付けることだろう。。
そして、オレは戦闘不能状態に陥ったのだった。




