第69話「自分らしさ」
オレはこの戦いの中、辿り着いた一つの結論に対し、ショックを受けていた。
いや、絶望していたといってもいいだろう。
それほど、オレは自分自身が魅月という天才に勝てないと思っていた。
この勝負に勝つことを諦めていたのだった。
だからだろうか。
オレの動きはいつの間にか止まっていた。
そして、それを魅月が見逃すはずもなくオレに弾を放った。
が、その弾がオレの体に当たることはなかった。
なぜだろう?
この距離であの魅月が外すはずがない。
じゃあ、なんで?
まさか、アイツはオレを哀れんでいるのか?
ただの凡人であるオレを。
まさか、オレに情けをかけているつもりなのか?
才能もなにも無いただの人間のオレに。
・・・ふざけるなよ。
そんなモノはいらない。
せめて、いつもみたいに綺麗に頭を撃ち抜いて、綺麗に負けさせてくれよ!
オレにはそんな綺麗な負け方をさせてくれないってのかよ!?
眉間に皺を寄せながら、激昂しているオレに魅月は近づいてきた。
狙撃手である魅月が、だ。
「なんだよ、魅月ィ?さっきのお前なら止めを刺せたんじゃねぇのかッ!」
オレは平然を装おうとしたが、全身を駆け巡るこの激情から声を荒らげてしまう。
だが、
「・・・違う。」
声を荒らげたオレに対して、魅月は平然と言った。
「何が違うんだよッ!お前なら、あの状態のオレに止めを刺すのは容易なことだったはずだッ!」
意味がわからない魅月の言葉にオレは更に声を荒らげてしまった。
だが、やはり魅月は平然と返した。
「違う。慧自身が違う。」
それに対して、オレは、
「は?」
と、間抜けな声を出していた。
は?オレじゃない?どういうことだ?
意味がわからない。
オレはオレ、神谷慧だ。
じゃあ、魅月はなんて言いたいんだ?
わからない、まったくわからない。
「オレじゃないってどういうことだ?」
オレは魅月に聞いた。
すると、魅月は言った。
「今の慧は、慧じゃない。慧らしくないんだよ。」
なんだ、そういうことかよ。
お前の言いたいことはわかった。
でもな・・・
「今のオレは絶対にオレだし、オレらしいんだよッ!」
と、魅月に言い放つ。
だが、オレの言葉はそれだけでは終わらない。
「オレは無理なことは無理と決めつけて生きてきた。オレはいつもそうやってきた。
眼の前に壁があったら、避けて道を歩んできたんだよッ!
所詮、眼の前の壁を打ち砕けるのは魅月、お前みたいな天才だけなんだよッ!
オレみたいな凡人には無理なんだよッ!
辛いことからは逃げる。これがオレらしさなんだよッ!」
オレは叫ぶように、いや、魅月に向かって、そう叫んだ。
それと同時に痛感する。
──オレって、最低最悪のクズだな。
と。
だが、魅月はオレの叫びを聞いても顔一つ変えずに、言う。
「そうだね。私も無理なモノは無理だと思うし、慧もそうやって生きてきたんだろうね。」
あぁ、魅月はオレに呆れちまったか。
まぁ、そうだよな。こんなクズ、呆れない方が不思議だよな。
今、オレを見ているみんなも呆れてんだろうな。
だが、こんなオレに対して、魅月は言葉を続けた。
「たしかに、慧には眼の前の壁を打ち砕く力がないから、打ち砕いては来なかった。
でもね、私の見てきた慧は、壁を打ち砕けなくても、どうにかしてその壁の向こう側へ辿り着くことに必至だったんだよ!慧自身が言うように、壁を避けてでも、違う道を進んで遠回りをしてでも、壁の向こう側に辿り着くこうと足掻いてたんだよ!
でも、今の慧は違う。
慧は、いつものように違う道を進んでいるように話しているけど、今の慧は壁の向こう側へ辿り着くこと自体を諦めて、その場に立ち尽くしているんだよ!
そんなの、慧じゃない。慧はいつだって、最後の最後まで足掻いてた。
それが、慧らしさなんだよ!」
そして、最後に
「・・・それが、私の好きな慧なんだよ。」
そう言って、オレにキスをした。




