第5話「模擬戦」
模擬戦が行われる闘技場はとてつもなく広く、魔法によっていろいろな姿に形を変える。
例えば、今までコンクリートだった床には草が生え、密閉されていたはずの闘技場に風が吹いている。
そして、天井があり、見えなかった青空が今は見えている。
完全に草原だ。
その広大な草原にオレは、キレイな女の子と向かいあって立っている。
愛用している剣を持って。
魔法使いというのは、杖を持って魔法を使うだけしかできないと思われがちだが、
身体能力が高く、肉体強化もできるため、接近戦もできる者も少なくはない。
そうこうしてるうちに、模擬戦開始のカウントダウンが始まった。
5、4、3、2、1…
模擬戦開始のアナウンスとともに、レインが水属性の魔法、アクアボールを打ち出してきた。
水弾はE級魔法のため、さほど威力があるわけではない。
さほど早くもないため、回避した。
すると、レインは違う魔法を使った。
氷で作られた狼が何十匹も姿を現し、オレに襲い掛かってくる。
先程より速かったが、オレのスピードに比べるとかなり遅い。
なので、持っていた剣で葬っていった。
そろそろこちらから、仕掛けるか。
肉体強化の魔術を使い、レインへの接近を試みる。
だが、失敗した。
なぜかというと、レインの姿が消えていたからだ。
どこへ行ったんだ?
そもそもこのオレが、見失うだと!?
あのお姫様、意外にできるようだ。
これは、少し楽しめそうだ。
そう思っているオレに新たな魔法が降り注いできた。
氷の槍だ。
D級に属するアイスランサーだろう。
数は多いが、さっきの狼と同じで一つ一つは大したものじゃない。
狼と同じように剣で粉砕していった。
そんな風に数だけの魔法が何回も飛んできた。
もちろん、その程度の魔法ではオレを倒せるはずもなく、全てを粉砕していった。
だが、おかしすぎる。
確かに少し油断はしてたし、狼との戦いで気をレイン自身に向けてなかったのもあるが、レインはオレが見失うほどの実力者のはず。
そんなやつが、意味もない魔法を何発も無駄打ちするはずがない。
なにかあるはず。
そう考えているオレの前に、堂々とレインは姿を現した。
なぜ、今なんだ?
だが、正解は簡単だった。
周りは氷に囲まれ、ふくらはぎのところに浸かるところまで粉砕した氷が溶けていた。
そう、向こうはこの草原のステージを、何発もの氷の魔法の連発によって、
オレに気づかれることなく、水属性の魔法使いが得意とするステージ、いわば、自分のホームへと作り変えていたのだ。
そうすると、アウェイのオレは完全に不利だ。
まずいな。戦略的には大敗北した。
だが、オレは声を上げて笑っている。
どうしてかって?
だって、久しぶりに頭の勝負で負けたんだ。
面白すぎんだろ!
この勝負、少しどころじゃないくらい面白くなりそうだ。
笑ってるオレに、魔法で作られた水の龍が襲い掛かってくる。
オレは先ほどとは段違いのスピードでそれを避けつつ、レインに突っ込む。
レインは氷の壁を展開しながら、後退していく。
だが、甘い。そんなスピードではオレから逃げるなど不可能に近い。
が、肉体強化の魔法を使ったのか、レインのスピードが上がっていく。
それでも、オレから逃げるのにはまだ足りない。
だが、オレはレインには追いつけなかった。
オレの足が止まっているからだ。
だが、目と鼻の先にはレインがいる。
じゃあ、どうして止まったんだ?
答えは簡単。
レインが魔法の詠唱を終え、S級であろう魔法を完成させていたからだ。
そのため、目の前には魔法によって出現した氷の巨人が立ちはだかっている。
魔法は、基本、詠唱が無くても使うことが出来る。
だが、S級、SS級の魔法とA級の魔法の一部は強力すぎて詠唱しないとコントロールができない。
しかも、魔法を完成させること自体が難しいはずだ。
それを簡単に出来ちまうってことは、すごい実力の持ち主だ。
あー、面白ェ。こんな強いやつと戦えるなんてな。
これなら、本気で戦っても大丈夫そうだ。
目の前にいる10メートルあるであろう氷の巨人が、殴り掛かってきた。
当たったらひとたまりもないだろうが、そんな遅いパンチをわざわざ当たってはやらず、普通に避けた。
いや、さほど遅い訳ではないな。
実際、さっきの水の龍よりは速かった。
自分で言うのもなんだが、オレが速すぎるのだ。
パンチを避け、剣で攻撃をする。
だが、巨人が硬すぎて、さっきの氷のように砕けない。
さすが、S級魔法だ。
そうじゃなくちゃつまらない。
今度は、剣に魔力を込めて攻撃した。
今度は、腕を破壊した。
この程度かー。なんか萎えるなぁ。
そう思っていると、氷の巨人は再生した。
実に面白い。これなら、何度壊しても楽しめそうだ。
数十秒後、オレは氷の巨人をぶち壊した。
さすがに本気でやり過ぎたようだ。
まぁ、いいや。楽しめたし。
じゃ、模擬戦を終わらせるか。
崩れた氷の巨人の近くにいるレインに向かって、全力で突っ込む。
レインがいろいろと魔法を使ってきたが、すべて回避し、レインに剣を振り下ろす。
剣はレインを肩から脇腹にかけて切り裂き、レインの命を奪い取った。
こうして、模擬戦は終了した。
そして、オレたちはさっきまでいたコンクリートの闘技場に戻ってきた。
「慧様は、ものすごい実力の持ち主なんですね。
私の蒼氷の巨人を破ったのはあなたが初めてです。」
と、興奮気味に言ってきたレイン。それに対し、
「そうなのか。それにしても、あれほどすごい魔法は久しぶりに見たよ。」
と、オレは思った通りの感想を言った。
ちなみに、蒼氷の巨人というのは、先ほどの氷の巨人の魔法のことらしい。
それにしても、本当にすごい魔法だった。相手がオレだから、さほどすごいようには感じないが、普通の学生ならアイツ1体倒すのに50人は必要だろう。
少し話をしてから闘技場を去り、次に案内する場所を目指し始めたが、一つ気になることがある。
それは、レインの態度が先ほどとはまったく違うことだ。
先ほどはもっとよそよそしかったはずだが、今はオレの腕に自分の腕を絡ませてきている。
そのおかげでいろいろと当たっているんですが。
まぁ、仲良くなることはいいことなのだろう。
なので、気にしないことにした。
そこから順調に案内は進み、6時前にはマンションの案内を始められた。
ちなみに、爺さんがマンションの持ち主なので、オレはこの豪華なマンションにタダで住んでいる。
「そういえば、レインの部屋ってオレの隣の部屋って聞いたから、101号室でいいんだよね?」
「いいえ、私は100号室に住むことになりました。」
「え?悪い。よくきこえなかったから、もう一度言ってくれ。」
「だから、100号室です。」
「ちょっと待て。100号室ってオレの部屋なんだけど。」
「知ってますよ。でも、これからは私の部屋でもあります。」
「ま、待ってくれ。なんでこんなことになってるんだ?」
「私が慧さんのお爺様に頼みましたから。」
「な、なんで?」
「なんでって、好きな人の近くにいたいのは当然ですよね?」
「え?オレとレインはさっき知り合ったばっかだろ?それなのに、好きってどういうことだ?」
「慧様の模擬戦での姿がカッコよかったので、惚れてしまいました。」
「う、嘘だろ?」
どうやら、本当らしい。
玄関を開けたら、山積みのダンボールと不機嫌な顔の魅月が立っていた。
「ねぇ、慧。なんでお姫様がこの部屋に住むことになったか、もちろん説明してくれるんだよね?」
こうして、修羅場が幕を開けた。




