第2話「ハジマリ2」
待て、落ち着くんだ。オレ。あの魅月に限って本当に好きなわけがない。
でも、あのいつも無表情の魅月が少し照れながら、2回も言ったんだぞ?まさか、本当なのか?
考えれば、考えるほどわからなくなってきた。
ダメだ。いくら考えてもムダだ。今は、2限目のHRに集中しよう。
そう、今は2限目のHR、春休みの課題を集めている最中だ。
課題といっても、大した量があるわけでもない。やって来なかったやつなんて誰もいないだろ。
「すみません。魔法学のテキスト忘れました。」
そうだった。沢村魅月とは、こういうとき、やらかすやつだったじゃねぇか。
クソっ。そのせいで忘れかけてた魅月のことをまた考え始めちまうじゃねぇか。
「あっ、神谷先生。オレも忘れちゃいました。」
「ほぉ、そっか。オレの魔法学の宿題を、お前が忘れるとはいい度胸だな」
「放課後、職員室に来い!」
「なぜ、オレだけ?」
「春休み、絶対に忘れ物はすんなって何回も言っただろーが。あれだけ言ってオレの教科を忘れてくるとは、オレに宣戦布告をしたと見て間違いないよな?」
「すみませんでしたっ!」
「後で、職員室でもどこでも行くんで許して下さいっ!」
「ったく。じゃあ、今から教材室言ってテキスト取って来い!」
「ちなみに、制限時間はあと5分な。じゃ、ヨーイドンっ!」
オレは、肉体強化の魔術まで使って教材室まで猛ダッシュで急いだ。
そして、教材室に来たオレは、戦慄した。
「この量を一人で、しかも5分で運べってのか?無茶にもほどがあんだろ。」
そういや、無茶は言わないとか言ってたし、制限時間内に行く必要はないんだよな?抗議してもいいんだよな?
汗ダラダラで戻ってきたオレに無茶ぶりを押し付けた担任は笑顔で、
「おぅ、慧、遅かったな。でも、4分57秒。制限時間にはギリギリ間に合ったな。よし、放課後、職員室に来るだけで勘弁してやろう。」
「じゃ、じゃあ、遅れたらオレはどうなってたんですか?」
「んー?さぁ、どうなってたんだろうな?」
やべぇ、この担任、マジこえーよ。マジ遅れたら、どうなってたんだよ、オレ。
「じゃ、テキストと時間割分けるから、テキトーに手伝え。」
「了解ですっ!」
すると、クスクス笑っている魅月が目に写った。アイツが笑うなんて珍しいな。いや、そもそも表情を変えるなんて中学のときは全然しなかったのに。
それにしても、アイツの笑顔、かわいいな。
「慧?どうしたんだ?珍しく笑ったかわいい許嫁でも見つけたか?」
こっちの思ってたことを完璧に読まれて、オレは本気でこの担任に戦慄した。
2時限目が終わり、3時限目が終わり、すぐ放課後がきた。
放課後がきたと同時、オレの頭の大部分を占めていた少女がいつものように何事にも無関心な声で話しかけてきた。
「慧、先、帰ってるね。」
「おう。」
「ちょっと待って。」
急に桃香が割り込んできた。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだ?じゃないよ!何?二人はいつも一緒に帰ってるの?」
「お、おう。まぁ、同じマンションだからな。隣の部屋だし。」
「ただのクラスメートって言ってたよね?あれは嘘だったの?」
「いや、嘘じゃないぞ。決して。」
勢いに押されて、何だか、浮気がバレた夫みたいなことを口走ってしまった。
「ただのクラスメートは一緒に帰ったりしませんっ!」
「そ、そうなのかな?」
「そういうものですっ!」
なんか、めっちゃ怒った様子の桃香に更なる爆弾が投下された。
「慧、そういえば、もうお爺さんに許可貰ったから、今日から同じ部屋だよ。」
「は?」
今日、2回目のハモりが出た。
「待て、そんなことオレは聞いてないぞ。」
「うん。だって、今日、許可貰ったから。」
「そういうことは、本人を通して言って貰えますか?」
「ん、次からそうする。」
「待て待て、でも、いつ言ったんだよ?」
「入学式の後。私、教室に戻るの遅かったでしょ?」
「…まだ止められるかな?」
「無理だと思うよ。だって、2限目に、今から荷物運ぶからねーって、お爺さんから、メール来たもん。」
「あぁ、あのジジィならもうとっくに終わってるな。」
「じゃ、荷解きがあるから。また後でね。」
マジカー、ナンテコトシヤガル。ヤベェジャネェカ。
と、そんなことを思っていたら、
「慧なんて、もう知らない!」
そう言って、桃香が走って教室を飛び出した。
オレはそんな桃香を唖然として数秒の間見ていたが、ハッとして、桃香を追いかけ始めた。
オレが、桃香を探し始めて数分後、桃香は見つかった。
桃香は屋上に入るためのドアの前で泣きながら座っていた。
「お、おい。桃香、大丈夫か?」
すると、急に桃香が抱きついてきて
「ねぇ、どうして?どうして、慧は私の思いに気づいてくれないの?ねぇ、なんでよ?」
オレは答えられず、桃香を無言で抱きしめるしかできなかったが、桃香の言葉は続いた。
「私が、魔法女子中にいくときもそうだった。慧は確かに頑張れとは言ってくれたけど、私は慧に止めて欲しかったっ!一緒に明緑に行きたかったっ!」
「それなのに…あんなかわいい子が許嫁ちなってたなんて、酷すぎるよっ!」
それから、長い間、桃香はオレの胸の中で泣き続けた。
数分後、泣き止んだ桃香は、唐突に
「慧はキスまだなんだよね?」
「あ、あぁ。」
「じゃあ、初めては私にしてよ。」
「・・・」
「嫌、なの?」
「…嫌じゃねぇよ」
「じゃあ、ん。」
と、涙で潤んだ瞳を閉じ、唇を差し出してきた。
オレは、緊張しながら桃香と、ファーストキスをした。
そのとき、なぜか体がすごく熱くなった気がしたが、気のせいだろう。
桃香は顔を真っ赤にしながら、
「ごめん、ありがと。」
と、言って走り去っていった。
その後、オレは職員室に呼ばれていたのを思い出しすぐ向かったが、すげー怒られた。
帰り道、オレは一人、さっきの出来事を思い出し、
「それにしても、本当にしちゃったんだ、オレ。」
と、唇を触りながら一人で、恥ずかしがっていた。
「そういや、明日、どんな顔してアイツに会えばいいんだよ!オレはぁ。」
「と、一人葛藤しながら家へと帰る。みたいな?」
「テメっ、このクソジジィ、入学式のときはよくもやってくれたな?」
そう、オレの行動を言葉にした声の方には愛すべきクソジジィ、神谷宗一郎がニヤニヤしながら、立っていた。
「んん?なんのことだ?記憶にないぞ」
「あぁ、そうだろうよ。調子に乗ってかわいい孫の事情をべらべら喋った爺さんよ。」
「あぁ、それのこと?ちっさいことは気にすんなよ。男なんだからさっ。」
「ったく、これだからこのジジィは!」
ムカついたので、殴りかかったが魔法で防がれた。
「おぉ、いい動きをするようになったなぁ。さすが、オレのかわいい孫。」
「まぁな。いい動きをするために必要だった地獄のような日々をありがとよ。クソジジィ。」
「どーいたしまして。」
「お前、それにしても本当にいい動きするようになったなぁ。体術だけなら、あと、2年もあればオレを超えるだろうなぁ。」
「これしかまだ取り柄がねぇからな!」
「そうだなぁ。かわいい孫はピュアすぎて、キスもできないから魔法が使えないからなぁ。」
「うっせ。でも、魔術はもう一人前だからな。」
「ま、そだけど、自分で言ってるようじゃ、まだまだだな。」
「それだけ特訓したんだよ!クソジジィのもとでな!」
「魔法が使えないお前には、魔術しか使えんから、それしか教えれなかったんだがな。」
「それにしても、あれだけ魔術の特訓をしたんだ。魔術ではそこら辺のAランクにも負けんと思うぞ。」
「それはそうだな。」
フツーに褒めらるとはな。なんか意外。
「ハイっ!ここで復習ですっ!魔術とはなんでしたか?」
「ったく、いきなりなんだよ。」
「いいから、答えろよ。」
「魔法を使えない者達が昔、魔法使いに対抗するために作ったもので、魔法と同じように魔力を消費するが、魔法使いじゃなくても、使える術、だろ?」
「ピンポンピンポン、大正解!よく覚えてたな。」
「あれだけ勉強したからな!」
「そっか。孫が成長してて何より何より。じゃ、またな。」
「おい、ちょ、待て」
クソジジィは風のように消え去ってしまった。
それからオレは、家へとまっすぐ帰った。




