ロディ・ヴァンスタリア
あれから1ヶ月が経ち、隣国の王太子の誕生日パーティーの当日を迎えた。
慌ただしかった屋敷内は、朝が過ぎ去り綺麗な夕焼けが辺りを照らす頃、穏やかな空間を取り戻していた。
私達は隣国からの迎えの馬車を待ちながら客間で待機していた。
ここにいるのは、パーティーに参加するレイオンとネオールと私の3人だけだ。
パーティーに招待された私と、エスコート役のレイオン、私とレイオンの護衛としてネオールが参加することになっている。
正装に身を包んだ2人は華やかなパーティーでも見劣りしないほどに様になっていた。いや、主役としてでもいけるのではないかしら…?と思った。
客間ではとりとめのない話をして時間を潰していた。そこでレイオンが不意に答えに困る質問をしてきたのだ。
「ねぇ…、姉様ってさ、あの王太子様のこと好きなの?」
純粋な瞳が私を見つめてくる。
答えない私にレイオンは言葉を続けた。
「姉様が好きなら、僕は…止めることはできないけど、もし…そうでないなら親しくしすぎないほうが…。」
レイオンは最後の言葉は言いづらそうに口をつぐんだ。
レイオンはあの王太子の本性に気づいている様子だった。
あの王太子のことが好きなのか、私にはわからなかった。正確には私を操ってる人があの王太子を好きなのかがわからなかった。
結局この質問に答えることができないまま、パーティーの会場に着いていた。
会場には本日の主役の彼、ヴァンスタリア国の王太子、ロディ・ヴァンスタリアが貴族達の中心にいた。
上級貴族達が揃う会場の中にいても、一目でわかるほどに彼のオーラは違っていた。
ワインレッドの髪は丁寧に整えられていて、襟足まで上品さを感じられた。背丈は一般男性と変わらないはずなのに、姿勢が良いからかスタイルが良く見える。それに加えて、髪色の強い印象とは異なる薄い桃色の瞳は見つめられた人に甘やかさを与える。
そして彼は、この国で1番強いと称賛されるほどに武術に長けた剣士としての顔も持ち合わせていて、細身ながら首元から覗く鎖骨でさえも美しく整っていた。
このパーティーは畏まった場ではなく、私も友人の1人として招待を受けた側で、ロディ様に気軽に話しかけても良い場面である。
良い場面なんだけど…。
オーラがありすぎて近寄る勇気がないわっ…!!
私の緊張感漂う空気を察したのか、隣にいる弟に声をかけられた。
「姉様、向こうにお菓子が沢山あるよ!僕、クッキー食べたい。」
弟の背丈は変わっても、内面の可愛らしさは変わらないままで愛おしさを感じた。
「そうね。行きましょう。」
レイオンに同意し、ロディ様への挨拶は後にすることにして、私達はお菓子が並ぶテーブルへと足を運んだ。
レイオンは昔からクッキーが好きで可愛いわ。…クッキー、…は!!そういえば、またランス様にきのこクッキーを頂いてしまったのを思い出したわ!…不味くはないけど美味しくもないのよね…。レイオンだったらあのクッキーも美味しいと思うのかしら…?
華やかな会場に相応しくない物を頭に思い浮かべている私を、後ろから聞き覚えのある声が呼び止めた。
「お姫様、いらっしゃい。本日はお越しいただき誠にありがとうございます。」
振り返るとロディ様が和かに微笑んでいた。
声が聞こえた瞬間、私はドキリッ…と胸が締め付けられた。
恐らく他のご令嬢であれば、王太子に呼びかけられたことによる喜びの『胸の高鳴り』が鳴るのだろう。
だけど、
私がドキリッと胸が締め付けられた正体。
それは
『不安』と『恐怖』、心の叫びの音だった。
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