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悪嬢転生!?〜8歳の悪役令嬢?に転生した私は、10年後、内定婚約者である第三王子に首を刎ねられるみたいなので、今のうちに関係修復頑張ります!〜   作者: 月末了瑞
シリウス真相編

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16話:現実は、現実よりもうなぎなり。あれ? うさぎだっけ? どっちだっけ!? いや、わかんない!・前編


(さっむ。うぅ……体めっちゃ冷えて死にそうなんだけど!? えっ、ここどこ!? 暖房ない!? あっ、サウナでもいい! 温まりたい!)


 暗闇の中。レイは腕を擦りながらも、歩を進めていた。


 視界に映るのは、薄汚れた石畳だけ。それ以外は真っ暗で、足元以外は何もわからない。


 本当ならば、ここがどこかと立ち止まるべきところ。だがどうしてか――立ち止まってはいけない。本能的に、そう感じてしまった。


 だから、彼女は先の見えない暗闇をひた歩く。


(シリウスに、会わなくちゃ……)


 そんな、焦燥感にも似た感情に突き動かされながら。


 しかし、いくら歩いても何処にも辿り着くことができない。


 果てしなく続いているであろう道は、蜃気楼のように揺らめきながらも、数メートル先を照らし続けるばかり。


 やがて、距離の感覚すら徐々に消え失せてきた頃。彼女の中に、漠然とした虚無が広がり始める。


(……。私なんでこんなに必死なんだろ……? シリウスに会いに行かなきゃどうなるんだっけ?)


 なぜ歩いているのか、その理由さえ曖昧になりかけると同時。レイの足がピタリと、止まりかける。


 しかし、“ここで立ち止まってはいけない”という不確かな直感だけが、彼女を再び奮い立たせていく。


 すると、遠くからきゃははは。と子供のような無邪気な笑い声と、ゴゴゴゴッというどこか不気味な轟音が交互に耳を劈(つんざ)く。


(なに……これ、怖っ。え、真っ暗なとこにいるお化けって絶対ヤバいやつでしょ!? 私、呪われる!?)


 ただでさえ暗い世界。そんなところに、奇妙な声が響くなど、ただ事ではない。レイは内心でそう呟きながら必死に念仏を唱えた。


「南無阿弥陀仏(ナムナムナムル)……。南無阿弥陀仏(ナムナムナムル)……えっと、次なんだっけ? なんか色々あるよね!? 観自在菩薩(かーんさいぼ〜さつ)とか! えっと、えっと、えと……|般若波羅蜜多時《はんにゃ〜はらみ食べたい》みたいな感じだった気が! え、でもわかんない! ナムル! ハラミ! 悪霊退散!」


 そのおかげか、次第に幻聴は薄れていくものの、次は幻覚というのだろうか。影のような黒い腕が、にゅるりと石畳から生えてきたかと思えば、なんの前触れもなく、彼女の足に絡みつき始める。


 まるで、粘液のように彼女に纏わり付く奇妙なその腕。


「うわっ! えっ、なに!? なになになに!? いや待って、蜚蠊(ゴキブリ)!? 蜘蛛!? えっ、気持ち悪いんだけど! いや、本気で無理だから! 無理無理無理! ほんと、ダメだって。虫NG! アイム、ムシ、ノー! ノーラブ! ノーライク!」


 そう必死に叫びながらも、黒い腕から逃れようと藻掻くものの、藻掻けば藻掻くほど、その腕が絡み付いて離れてくれない。


 それどころか、むしろ離さないという強い意思を示すようにして、彼女の足に絡み続けていく。


「お願い、ほんとマジで無理! 誰か助けて! 一生のお願いだから! ほんと、ほんとに一生のお願い!」


 必死に声を張り上げ叫んでみるも、応じる者など存在せず。それどころか、闇が声そのものを吸い取るようにして消えてしまう。


 そんな絶体絶命のピンチの中。レイは思わず目に涙を溜めながら、尚も叫び続ける。


「お願い。誰か助けて! ねぇ、シリウス! セレスティア――!」


 だがその悲痛な声もまた。風に呑まれるように途切れてしまう。


 まるで“お前を救う者などいない”と言わんばかりに。


 しかし、次の瞬間――


 何故なのか、わからない。だが突如、眼前にあったはずの石畳も、黒い腕も、闇に溶けるように消えてしまう。


 ただそこに残るのは、深い暗黒へと塗り潰されていく空間。


 レイは不安を覚えながらも内心で呟きを落とす。


(……さっきの……消えた? ていうか、さっきの変なやつなんだったの? あ……ううん。そんなことよりも、早くシリウスんとこ行かなきゃ……でも、シリウスは会ってくれなくて……でも会いに行かなきゃ家追い出されて、首刎ねられて……だから――)


 だから、シリウスの元に早く行って、関係性を修復しなければいけない。そう思うのに、まるで鳥籠の中で飼育される不自由な鳥のように、どれだけ歩いても彼の元には辿り着けない。


 徐々に募る不安と恐怖。早鐘を打つように鼓動がドッドと速まっていく。それと同時にキーンッとまるで、クリスタルチューナーのような、甲高い音が耳の奥に響き、息が詰まるように苦しくなっていく。


 しかし、なぜそのような不調を感じるのか――それを理解することは叶わない。


 なんせ、視界は闇に覆われ、いつの間にか一寸先も見えなくなっているのだから。


 そんな中。不意にポワッと奇妙な影が浮かび上がる。


 長い髪が風に揺れるように靡くその白い人影。けれど、顔を認識することは叶わない。そもそも眼前の存在は、本当に人影なのかも怪しいところ。


 ゆえにレイは問いかける。


「……だ、れ?」


 だが、思うように言葉が紡げない。まるで、喉が締め付けられるように苦しく、必死に絞り出そうとしても弱々しい言の葉しか舞うことはない。


 そんな奇妙な感覚に、レイはよけい恐怖を抱き、ふるりと瞳を揺らしながらも口を閉ざしてしまう。


 同時――


『お前は誰だ?』


 低くも抑えられたような声が、彼女の“脳裏”に響いた。


 それは、眼前の相手から発せられた言葉かもしれないし、別の存在からのものなのかもしれない。ただ、脳裏に直接語りかけられるようにして、温も冷も宿さぬ声音が、波紋のように広がっては反響するばかり。


 そんなレイに再度問いかけるようにして、奇妙な声が再び言葉を発する。


『お前は誰だ?』


 一語一句変わらぬその問いかけ。レイはなぜそんなことを聞かれているのか。一切理解ができぬまま名前を告げる。


「私は……レイ……ヴァーティン……」


 しかし――


 そう口に出した途端、ナニカ得体の知れないものが溶け落ちるように、胸の奥がひやりと強張っていく。


 だが、その溶け落ちたものがなんなのか、それは一切わからない。それに、そう錯覚しただけで、本当は何も溶け落ちていないのかもしれない。


 ただ、真っ暗闇の中にいるがゆえに、脳が勝手にあらぬ妄想を組み立ててしまったのかも……。


 そんなことを考えていると、再び脳裏に声が響く。


『本当にそうなのか?』


「えっ……?」


 レイはその問いかけに、思わず目を見張り硬直する。そして、ぽつりと自問する。


(私……本当に、レイ・ヴァーティン……なの?)


 けれどその答えは、わからない。名前を問われたからレイ・ヴァーティンと答えただけなのに、本当にそうなのか? と問われても、絶対に私はレイ・ヴァーティンだとは答えることができない。


 それに、もっと別の名前があったような気も……。けれど、あったような気がするという感覚だけが残り、それ以上のことは何も思い出せない。ただ、誰かから別の呼び名で呼ばれていたような気がする。そんな、違和感だけが残りそれ以上のことは何もわからなくなってしまう。


 そんな彼女の態度を認めたのか。それとも、問いかけただけで答えなど端から求めていなかったのか。


 レイへと問いかける不思議な声は、再び彼女へ告げた。


『お前が“本物”なのか“偽物”なのか、その答えなど今はどうでもいい。だが、お前がレイ・ヴァーティンだと言うのならば、過去の“真実”を思い出せ』


 瞬間、闇を打ち消すような眩しい光が広がったかと思えば、抵抗する間もなくレイ自身を飲み込んでいく。


 それは温もりのある光にもかかわらず、同時に痛みを伴うかのような鋭さがあり、目を閉じてもいても突き刺すようにして瞼を貫いてくる。


(この光は……何……?)


 そう訝しげるも、彼女の意識は真っ白に染まっていき――


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