4話:なんかレビュタント? やるらしいから、シリウスに手紙書く!・前編
◇◆◇
その日の夜。
『──死んでくれ』
昨晩と同じように、レイは首を刎ねられる。
しかし、前回と違うのは、低く冷たくも悲哀を帯びた声とその相手がシリウスだということ。
朱の飛沫が花弁のように散り、ポタッ、ポタッと壁や床に無機質で冷ややかな彩りを添えていく。
ぐわん、ぐわんと揺れる脳。首が刎ねられているというにもかかわらず、なぜか瞳がカメラのような機能を持ち、周囲を映し出し続ける。
そんな中、シリウスの元へ見知らぬ少女が駆け寄った。
若干、赤みを帯びたブロンズの髪を靡かせ、彼の頬に手を伸ばし何かを告げる。
けれどその声は遠く、何を言っているのかまでは――残念ながら聞き取ることが叶わない。
とはいえ、口の動きからして恐らく『頑張ったね』そんな、労いの言葉でも送っているのだろう。
だが、労いの言葉を受け取ったとしても、彼の瞳は光を帯びない。どちらかといえば、何かに葛藤するような不安の色が宿っているようにも思えてしまう。
そんなシリウスに対し、誰かもわからぬ少女は、僅かに口角を緩ませ、くすり。彼の不安を取り除こうとするように、優しく抱擁する。
それは一見、ドラマなんかのワンシーンのよう。だというのに、不穏さが拭えない。
「……これ、何?」
レイは、ボソリと疑念を投じ――
◇◆◇
「……ハッ!」
不意にそこで目を覚ました。
昨晩と違い、今回はあまりにも鮮明すぎる夢。昨晩は、誰かもわからない人物に首を刎ねられ、気味悪さだけが残っていた。しかし、今回はしっかりとシリウスだと理解できる内容。
まさかの展開に、心臓が大きく脈打ち、息が浅くなっていく。ドッと汗が吹きでてしまったのか、背筋がぐしょりと湿って気持ち悪い。それに、首がひんやりとして妙に生々しい感触が残り、彼女は思わず首に手を当て、瞳を大きく揺らす。
(犯人はシリウスだった……でもどうして?)
内心で動揺を示しながらも彼女は、ガバッと勢いよくベッドから飛び起きると、ベッドサイドに置いていたキャンドルスティックに向かって拙い呪文を唱える。
「ルーチェ・ルス――えっと……リュミ……エール?」
すると、小指につけていた指輪が一瞬キラリと光り、キャンドルスティックに煌々とした光が灯った。
「うお! ほんとに魔法使えた!」
それを認めたレイは、本当に自身が魔法を使えるのだと、嬉々とした声をあげる。
けれど、それも束の間。
「あっ、違う! 今はそんなことよりもあの本!」
そう声を上げながらも彼女は、僅かな光しかないキャンドルスティックを片手に、部屋の隅に置いていたétoile princeを手探り、物語の結末を確認しはじめる。
パラ、パラッ、とページを捲る音が静寂に響く中。レイは内心で確信する。
(やっぱりそうだ……。この本、学校でちょー流行ってた奴と同じだ! 誰か忘れたけど、友達が言ってた結末と同じ気がする!
えっと……レイってどうなるの?)
そう思いながらもパラパラとページを捲り続け――彼女は絶句した。
レイ・ヴァーティンは、étoile princeに登場する悪役令嬢で、シリウス・ガリウスの暫定婚約者という立ち位置。そんなレイは突然現れた異世界の少女──後の聖女に対し、「シリウスをたぶらかしている」という理不尽な言いがかりをつけ、暗殺を企てる。
その報いとして下された結末が、皮肉にも暫定婚約者である第三王子の手による処刑。
彼女はそれを理解したと同時に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(……えっと、えっと……これってさ、めちゃくちゃヤバいやつじゃない!?
あんまピンッと来てないけど、なんか私、処刑直行コースになるんじゃ……!?)
そんな不安を覚えながらも考えること10分。
じーっと、目の前にあるétoile princeを見つめ、ハッとする。
「あああ! そうだ! ここに原作があるんだからさ、これ見ながら全然違う場面にしちゃえばいいんだよ! だったら私死なない! え、めっちゃいい案じゃない!?」
レイはそう言うと、早速エトプリをパタンッと閉じ、乱暴に枕元へと放り投げた。
とはいえ、今の彼女には“どうやって回避するか”の手がかりは皆無。
(今はわかんないことだらけだけど、寝て起きたら、もしかするとビビーンッ! って思いつくかもだし!)
ゆえにレイは、内心でそう呟くと、取り敢えず眠ろうと、キャンドルスティックの光を消し、ゆっくりと瞼を閉じる。
けれど、そんな瞼の裏。そこでは、先ほど見た悪夢の光景がこびり付き、朱々と染まる不気味な幻覚を見せてくる。
そのせいか、嫌な鼓動が耳の奥で鳴り続け、眠ることを許してくれない。
それでも必死に、目を閉じ羊を数え――




